医学教育にオンライン講座導入を --- 内原 正樹

2013年12月01日 06:00

来年春から、国内の有名大学の講義を無料で受講、単位も取得できるという大規模公開オンライン講座MOOC(ムーク)の導入が始まるそうだ。こういった取り組みは、医学部の座学授業に導入できないのだろうか。

私は大学で医学を学んでいる。将来医師になる上で必要な知識・考え方を得るために、講義の中で体の仕組みや、病気についてなどサイエンスベースのことを学ぶ機会は多い。しかし、社会の中での医療の位置づけや、社会から医療にどういったことが求められているのかをもっと知りたいと思っても、大学ではそうしたことを学ぶ機会はほとんどない。


半年前、知り合いに紹介してもらい一橋大学社会学研究科の猪飼周平教授の授業を受けに行ってみた。そこでは、現場の医師に猪飼先生がアカデミックな視点から質問を投げかけ、生徒も巻き込んでこれからの医療の在り方について積極的な議論が行われていた。

医学部での授業とは違った視点からの話の連続でとても刺激を受けたのと同時に、あまりにも私は経済、政治、法律などを含め世の中の仕組みを知らないのを痛感した。

猪飼教授が執筆された『病院の世紀の理論』の中では、20世紀までと21世紀とでは、社会から医療に求められるものや医療の供給システムが「大きな転換期を迎える」ということが主張されている。

また、『医療崩壊』などの著書で知られる小松秀樹先生は、日本の医療が崩壊の危機に瀕している主たる原因として、医療についての考え方の齟齬を挙げている。これには、死生観、人が共生するための思想、規範としての法律の限界、経済活動としての医療の位置づけ、民主主義の限界の問題が絡み合っているそうだ。

これらのことを知って衝撃を受け、大学で医学を勉強するだけでなく、歴史を俯瞰し時代の変化を捉えて、より幅広い視点からこれからの「医療のあるべき姿」を知る、そして私たちが何をすべきなのかを考えたいと思った。

そのために、本を読んだり、医療について有識者の方の意見を聞いたり、他業界の考え方の中で医療に生かせるものがないか探すのに、多くの時間を費やすことにした。

学べば学ぶほど、一見医療と離れたことように思われがちな、基礎的な社会科学の知識、宗教・哲学、マネジメント・コミュニティデザイン・デザイン思考といった考え方、テクノロジーの活用などが少なからず医療と結びつくことを感じた。

しかし、日中は大学の座学授業・実習が詰まっていて、こういったプラスアルファの学習は物理的に朝か夜しかできない。小3で始めて以来中高大と13年間続けてきた大好きな野球も、既存の授業の枠組みの中でその他の学びと両立させるのは厳しく、今年夏でいったん休部という選択をせざるを得なかった。

私が休部したのは極端な例かもしれない。でも、他大学・学部も含め、医療系大学の教育の閉鎖性に疑問を感じ、幅広い視点からの学びを求めて行動している人は、潜在的にたくさんいる。みな口をそろえてこう言う。

「暗記中心の医療に関する学習はもっと効率よく行いたい」

「医療のこととプラスアルファで社会の仕組みについて学ぶ場がもっと欲しい」

4年生までの医学教育のうち約7割は座学授業が占める。これを全面オンライン化し、単位認定する仕組みを導入するのはどうだろうか。

医学に関する座学授業は、教え方に定評のある先生に協力をお願いし、3次元コンピューター・グラフィックス(CG)も活用しながら、できるだけ理解しやすいようなビデオを作る。

神経や血管が体内をどのように走っているのか、また疾患の成り立ちは3次元CGなら頭に入りやすいだろう。サイアメントという会社が作った心タンポナーデの解説ビデオは、一般の方が見ても分かるような高いクオリティーである。

講座ごとにチェックテストをオンライン上で行えば、知識や考え方を効率よく身につけることができるはずだ。

先日、NTTドコモは東京大学などと連携し2014年春からMOOC(大規模公開オンライン講座)の導入が決まった。このような他の学部、業界などの一流の先生による講義も受けられるようにし、「教養」科目として単位認定できれば、幅広い教養を学べる機会が増える。

京都大学の山中伸弥教授など著名な先生から、日々進化している最先端医療について学ぶこともオンライン上なら可能だと思う。

座学授業のオンライン化が進むことで、教育の質が向上するのはもちろん、教員の負担が減り、臨床や研究を手厚くできるはずだ。一度手間とお金をかけてこれからのスタンダートとなるようないい教材を作れば、しばらくの間は継続利用できるし、地域を問わず配信できる。

離島研修をする際にも、空いた時間を見つけて勉強を行うことが可能になる。長期的には学費削減にもつながって、ある程度以上の富裕層しか受験できないといわれる私立医学部受験の門戸も、より多くの人に開かれることにつながるだろう。

何よりも医学の知識をきちんと身につけているのみならず、これから「21世紀型の医療」を迎えるにあたって、幅広い教養を身につけた医師が大量に輩出されるようになり、ボトムアップで医療のパラダイム・シフトを実現できるようになるはずだ。

4000本以上のレッスンをネット上で無料公開し、月間530万人もの人が閲覧するオンライン教育プラットホーム「カーン・アカデミー」の創設者で、著書『世界はひとつの教室になる』でも有名なサルマル・カーン氏は、TEDでのプレゼンにおいてこう述べている。

「一律的な講義を教室からなくし、生徒に家で自分のペースで講義を受けさせ、その後教室で先生のいるところで宿題をさせて先生や他の生徒と交流できようにすることで、先生たちは教室をテクノロジーによって、『より人間的なもの』に変えた」

医学教育においても座学教育の質が向上するだけでなく、少人数グループ学習をはじめとした実習の内容もより充実したものとなるに違いない。

米国のイエール大に通う友人は、オンライン公開講座の仕組みを利用してMIT(マサチューセッツ工科大学)のオンライン授業を受講してみたところ、その分野で教科書を書いた先生から分かりやすい講義を受けられるだけでなく、宿題や試験が答えつきで公開されていて、とても役に立ったそうだ。

これはほんの一例だが、世界的にもオンライン講座化の流れは急速に普及してきている。米国のスタンフォード大学、ハーバード大学などをはじめとして爆発的に広まっており、2013年3月の時点で既に62大学が参加し、登録者数は世界270万人にまで上っている。この潮流に日本が、そして医学界が乗るのは、いまこのタイミングなのではないか。

内原 正樹
昭和大学医学部3年在学中
M-Labo発起人。

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