資源制約と需要制約

2013年12月01日 11:49

現在の世界経済の問題は、有望な投資先が見つからないことで、その原因は需要の不足にある、というのは、多くの人の共通認識だと思われる。池田先生は、「需要不足はなぜ起こるのか」で、その原因を列挙されているが、その中には資源制約は含まれていない。

そこで、ここでは、資源制約が実質賃金の下落を通して、需要の減少を招くことを考えたい。


減少する実質賃金

日本の実質経済成長率は現在まで、ほぼプラスを保っている。しかし、下のグラフのように賃金は下がり続けている。

賃金カーブ

物価と給与の推移──2013年9月までのデータによる更新から転載)

そしてそれは、主に非正規雇用の増加によって引き起こされ、経済格差が拡大している。

少子高齢化の進行にも関わらず、実質経済成長しているのに、どうして賃金は上がらないのか。成長の果実はどこに消えてしまったのだろうか? 

その大きな原因は、資源や食糧価格が上昇しているからだ。 実際、日本の化石燃料輸入額は、下のグラフのように急増している。そして化石燃料費が急激に上がり始めた98年と、賃金の減少の始まりは綺麗にシンクロしている。 

e087dde2

「日本が化石燃料輸入に払うお金は」から転載)

「エネルギー価格と日本経済」で述べたように実質賃金の低下は燃料費の増加という資源制約によるものと考えてよいだろう。特に影響が大きいとみられる運送業界では、正社員の運転手で給料が20年前に比べ半減したケ-スもあるという

このように実質賃金の下落はリアルなもので、貨幣現象ではない。

海外を見ても、イギリス経済が復活したのも80年代のサッチャー政権による構造改革によるというより、北海油田の生産開始によるものと考えた方が合理的であるし、現在のイギリス経済の疲弊も、北海油田の減産(2000年台初頭より半減)、原油輸入の急増が大きな原因である。 またネイチャーに掲載された論文:Oil’s tipping point has passedで指摘されているように、イタリアの経常収支の悪化分は、原油価格の上昇分により説明できる。

このように資源制約は、エネルギー価格の高騰といった経路で経済に影響を与え、その影響は、上の例で分かるように、非常に大きなものである。特にイギリスの独立系シンクタンクnefが指摘するように、現在の高い原油価格は経済成長の目に見えない天井を形成していると考えられる。  

先進国は過剰消費という現実

先進国で経済格差が拡大する中で、貧しい人たちが増えているのだから、再分配機能を強化するべきだ、というのは、確かにその通りだろう。アメリカの上位1%の人たちが資産の25%を保有するという状態が正常なものであるとは言い難い。  

しかし、再分配機能を強化すれば、需要が増加して、経済成長が加速するというのは、残念ながら誤りだろう。

なぜなら一部の富裕層に集中している富の大部分は、実物資産という形ではなく、金融資産という形でしか存在しておらず、物理的な豊かさという意味では、所得格差、金融資産格差ほどの格差は存在していないからである。

例えば、所得が10倍になっても、摂取カロリーは殆ど変らないだろうし、移動に費やすエネルギーも、プライベートジェットでも使わない限り殆ど変らない (正確にはある程度の格差は存在する(注)参照)。 もう少し正確に言えば、各個人が消費するエネルギー量(食糧なども全てエネルギーに換算する)を考えると、実は所得格差ほどの大きな格差は存在しない。

一方で、エネルギー産出には明らかに限界が生じている

以上の2つの事実から、貨幣(交換価値)という夾雑物を捨象し、エネルギー使用量という物理的視点から見れば、再分配機能を強化しても、各個人の豊かさを大きく改善するのは物理的に不可能だ。

そもそも、釣雅雄先生が指摘するように、現在は日本経済全体で借金をして消費を維持(実質的には増加)している状態であり、過剰消費の状態である。これが無理やり実質成長を作り上げている。そして、過剰消費は30~50兆円規模と予想され、概ね政府の財政赤字あるいは社会保障給付費の公費負担と同水準である。このような構造は、程度の差こそあれ、殆ど全ての先進国に当てはまる。先進国は既に過剰消費の状態であり、消費水準を緩やかに低下させることが必要なのだ。

その一方で、世界の金融資産が世界のGDPの400%前後に膨張しているが、この大部分は実物の裏付けのない数字上の資産であり、単なる電気信号に過ぎないと考えられる。

無理な願望を捨てて、現実を直視しよう

先進国の消費水準を低下させることは、グローバル化した世界経済では、新興国の経済成長をも鈍化させる。私は、サマーズ氏の長期停滞論は正しいと思う。

日本では、安部政権が、賃金の上昇を通して、需要を拡大し、経済成長を加速しようとしているが、上に述べたように、先進国は、過剰消費なのであるから、全く見当外れな政策だ。

経済が停滞することは、辛いことかも知れないが、環境問題の解決へ近づくことでもある。悪いことばかりではないのだ。 世の中は道理に従って動くのであって、願望では動かない。 我々は、このことを肝に銘じて、現実を直視する勇気を持つべきだろう。
 
(注)個人の消費エネルギー量と物理的な豊かさとは、ほぼ比例する。例えば、地鶏とブロイラーでは肥育期間が異なり、地鶏の場合、出荷までにブロイラーの約2倍の飼料が必要となるし、有機農法は、通常の化学肥料を使った農法と比較して、収穫量は3分の1になる。即ち

贅沢≒エネルギーの過剰消費 

なのである。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑