枠にはまるな。 --- 岡本 裕明

2013年12月01日 12:48

このキャッチ、どこかで聞いたという人も多いでしょう。東京モーターショーでのホンダのブースのキャッチなのですが、実にうまいと思いました。正直、あれだけ人でごった返している中、二度もブースに行き直したのはホンダだけ。実際、ブースのプレゼンも他社を圧倒していた気がします。久しぶりのモーターショーでしたが各社ショーという意識を前面に出して華やかに且つ、楽しいイベントにしていました。車好きのディズニーランドのようなものでしょう。


さて、この「枠にはまるな」はホンダがホンダ自身に言い続けてきたことだろうと思います。ショーのイメージとは裏腹にホンダにはある固定概念とイメージが残っています。それはファンとそうでない人の距離を作ってしまったことでしょうか? 好きな人はずっとホンダに乗るでしょう。北米でも長年、盗難される車の上位にランクされるのは根強いファンと中古車市場の安定感、信頼性だと思います。しかしながら、新たなる顧客を引き付ける力があるかといえばここがホンダの弱点であった気もします。

今回自らを枠から押し出すという発想で創業時の気持ちに切り替える心意気は十分に伝わってきたと思うし、N-WGNは今回、欲しいと思わせた唯一の車でした。まさに軽の常識を覆したと思います。

ただ、今日はホンダの「枠にはまるな」のキャッチがもっとぴったり収まるニュースが飛び込んできたことに注目したいと思います。それは武田薬品工業の外国人社長の大抜擢であります。それもグラクソ スミスクラインという武田にとってはライバルであり、目標にしたい会社の幹部を引っ張りぬくという決定であります。しかも47歳。若いです。

もともと武田は同族企業でしたが現社長の長谷川氏が初めて同族以外から選ばれたトップであります。その長谷川社長は同族経営からさらに遠くなるグローバル化を目指し、トップに外国人を据えるという戦略に出ました。これこそ「枠にはまるな」でありましょう。そして外国人のトップを据えなくてはいけない最大のトリガーはスイスのナイコメッド社を2011年9月に1兆円近くかけて買収したもののうまくコントロールできないという苛立ちであったことのようです。

企業買収は買収するエネルギーよりも買収してから自分のものにすることがもっと難しいというのは私のビジネスライフの中でも何度か垣間見ることがありました。例えば、当時の勤務先が行ったアメリカの高級ホテルチェーンの巨額買収において最大の失敗は大人と子供の相撲だったということです。金さえあれば何でも買える、だから企業業績はいくらでも上がると考えたのが経営判断ミスだったでしょう。そしてその買収への背中を一生懸命押したのは他でもないメインバンクでした。つまり、今考えてみれば日本企業は銀行に踊らされ、買収したアメリカ企業をコントロールできず、悲惨な目にあった歴史でありました(この話は高杉良氏の「ザゼネコン」のモデルとして紹介されています。が、もっと面白くなったはずのその後の話が小説では尻切れトンボである理由がいまだにわかりません)。

武田がナイコメッドをコントロールできないとするならば方法は限られたでしょう。ブリヂストンのファイヤーストン買収時のように長谷川氏がナイコメッドに乗り込み辣腕をふるうか、ナイコメッドに好きなようにさせるか、敗戦の将となるのかしかなかったわけです。そして武田が選んだ道はナイコメッドだけでなく本体そのものを変革させるという意外性すらある手段を取ったことです。この判断に至る道のりは長く、相当の議論を踏まえた上のことでしょう。しかし、その決定的な判断のベースは「企業の成長は今までの殻を破るしかない」ということではないでしょうか?

武田にしろホンダにしろ日本を代表するグローバル企業であります。その経営発想はもはや地球儀ベースでなくてはいけないということでしょう。日経電子版の当該記事の一番最後の行は「すでに武田の取締役会での議論、文書は全て英語。ウェバーの社長就任でグローバル化は次のステージに進む。新たな教育・登用制度で日本人を含む全社員が成長し、重責を担う機会をつくっていく」という言葉がまさに今の日本を表しているともいえるのではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年12月1日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。

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