張氏処刑後、北朝鮮は日本に接近か --- 長谷川 良

アゴラ

叔父の張成沢国防委員会副委員長を処刑した金正恩氏はその権力基盤を再調整する一方、経済強国の建設に向けて全力を導入する考えだ。張氏粛清直後の北朝鮮の立場は今月2日から開催された国連工業開発機関総会での駐ペルーのキム・ハクチョル(Kim Hak Chol)北大使の代表演説を読めば、理解できる。金正恩氏は既に経済特区の設立など経済活動の活発化に乗り出している。韓国との間では開城工業団地の強化、拡大などを模索している。金正恩氏にとって、「張氏問題は終わった。次は経済立て直しだ」ということになるかもしれない。


金正恩氏は叔父の張氏処刑で終幕したと考えているだろうが、その後遺症は今後、かなり長く続くことが予想される。韓国、米国、日本では「非情な処刑」「恐怖政治」といった発言が聞かれるように、北朝鮮に対する認識が一層悪化している。この時期、北側に経済投資したいと考える西側企業はほぼ皆無だろう。北の最大経済支援国の中国ですら、張氏の処刑に少なからずショックを受けている。北へ経済支援といった雰囲気は今のところない。

金正恩氏は今後、張氏を処刑したことの代価を痛いほど感じてくるだろう。「経済強国」を建設するために外貨が必要であり、その前に国民の生活を改善しなけれなならない。多くの課題は張氏の処刑後も山積している。中国通の張氏を失った北は中国から支援を得ることがこれまで以上に難しくなるだろう。中国も北の崩壊を防ぐ程度の食糧支援に留め、大規模な経済支援は当分見合わせることが予想される。

どの国が対北経済活動を支援するだろうか。現時点では皆無だ。韓国も人道支援以上はできないだろう。北側がミサイル発射や核実験など強硬路線に出ることも考えられるが、人民軍を宥めることはできてもそれでは国民経済の立て直しなど益々難しくなるだけだ。

そこで北が選択できる打開策は日本への接近だ。日朝間には拉致問題がある。その解決がない限り、日朝関係は一歩も前進できないことは周知のことだ。そこで金正恩氏は国内に生存している全ての日本人拉致犠牲者を帰国させるという提案を東京に通達するのではないか。

日本は平壌からの拉致者の帰還オファーに対して無視はできない。米韓は日本に北側の申し出受け入れを断るように圧力を行使してくるかもしれないが、日本側は「この問題は両国間の問題」として北側と交渉に応じ、拉致者の全員帰国という悲願を実現しようとするだろう。拉致問題の解決は日本国民の悲願でもある。北側の申し出を拒否することはできない。

金正恩氏は日本の事情を理解しているから、可能な限り高い代価を日本側に要求してくるだろう。日本側も最終的には北側の要望を受け入れることが推測できる。もちろん、両国間の合意内容は国家機密だから、外部に公表されない。賠償金の詳細な内容は公表されないだろう。政府に批判的な日本のメディアも拉致者の帰国には反対出来ないから、北と交渉する政府を正面から批判できない。

このようにして日朝両国は急接近し、拉致問題の解決を図る可能性が出てきたわけだ。歴史の皮肉というべきかもしれない。金正恩氏の非情な叔父処刑後、拉致問題の解決のチャンスがこれまで以上に高まってきたからだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。