ドイツのシュレーダー改革(アジェンダ2010)について

2013年12月16日 12:23

最近、城繁幸氏の「解雇規制こそ“失われた20年の本質」のように解雇の金銭解決の導入が、経済の停滞を打破する手段である、といった議論が頻繁に論じられている。

こうした議論の中で、雇用の流動化の成功例として、ドイツのシュレーダー改革(アジェンダ2010)が取り上げられることも多い。その中には、「成長戦略の追加策 ドイツの構造改革に学べ」のように、あたかもドイツで金銭解雇が、普通に行われるようになったかのように報じているものもある。

しかし、これは誤りである。確かに,ドイツは,法律で,解雇の金銭解決(事後型)が定められている国であるが、その要件は厳格で,実際には解消判決・補償金(事後型の金銭解決)がなされるケースはほとんどないからである

ここでは、そのことについて指摘しておきたい。


シュレーダー改革(アジェンダ2010)の内容

2005年ドイツのシュレーダー首相は、600万人にも達した失業者を減少させることを政策の第一目標にし、、このために、労働コストを減らすために、社会保障サービスを大幅に削減する改革(アジェンダ2010)に踏み切った。 企業が雇用を増やすように仕向けるためである。 

年金の支給開始を65歳から67歳に引き上げ、物価スライドもなくした。 さらに、年金を支える人口の減少に合わせて、年金額の伸びを抑制するシステムを導入した。

最も大きな改革は失業保険で、失業保険を、生活保護と同じ水準とした。 日本円で5-6万円ほどである(但し、他に家賃補助も出る。 なおドイツ製造業の平均時給は約20ユーロ、約2800円である)。

従業員10人以下の小規模企業が社員を容易に解雇できるようにして、雇用のリスクを軽減した。パート労働やアルバイトに対する規制なども緩和した。

このように雇用の流動化を促した結果、ドイツ経済は持ち直し、2005年に11.2%に達した失業率は、現在は5.6%ほどに低下している。 格差が拡がり貧困層は増えたことは確かであるが、一定の成功は収めたものといえるだろう(ドイツ労働市場改革は成功だったのか「アジェンダ2010」、10年目の評価参照)。

実は厳格なドイツの解雇規制

しかし、現在でも、ドイツは、労働組合が強く、解雇規制は非常に厳しい。現在のドイツの解雇規制は次のようになっている:

解雇予告期間は4週間。普通解雇、即時解雇のいずれについても正当理由が必要である。解雇が労働者個人の行動又は企業に関わる緊急の理由に基づくのでない限り、社会的正当性は認められず、無効となる。いかなる解雇についても労使協議会への事前協議が必要で、これを欠けば無効となる。

ただし、労使いずれかが相互の信頼が破壊されたため雇用が継続しがたいとして雇用関係の解除を求めた場合は、裁判所が雇用関係を解除することができ、この場合労働者は年齢と勤続期間に応じた補償金を受ける。
 
整理解雇については、使用者に労働者を他部署に配転して解雇を回避すべき努力義務がある。また、整理解雇に際しては年齢、勤続期間、扶養家族数等の社会的観点からの解雇順位が定められている。使用者が労使協議会と合意すれば、整理解雇は法的に正当なものと見なされる。

「解雇規制とフレクシキュリティ」濱口桂一郎から引用)

よく、ドイツでは解雇の金銭解決が認められていると言われるが、これは、上の裁判所による雇用関係の解除のことである。労使双方からの同制度利用が認められているものの、使用者側からの申し立ては、事業目的に則した労使の協働が期待できない場合に限られており、容易にその利用が認められているわけではない。

アジェンダ2010は「フランス大統領選が示唆する日本の針路」で書いたように、労働コストを減らすために、社会保障サービスを大幅に削減し、企業が雇用を増やすように仕向けるたために一定の成功を収めたのであって、ドイツの解雇規制は、今でも、日本以上に厳しいのである。

解雇規制緩和は雇用の流動化を促すか?

現在、日本で現在検討されている解雇規制の緩和では、補償金を支払うことによって解雇を可能にするという事前型の制度であるが、これはドイツに於ける事後型の金銭解雇とは大きく異なったものであり、日本が解雇規制の緩い、低福祉国家へと舵を切ろうとしているようにも思われる。 だが、解雇規制の緩和だけで、雇用の流動化は進むのだろうか? 

日本の雇用のセーフティネットの整備は、ヨーロッパ各国と比較すると非常に遅れている。よく批判される、終身雇用や年功賃金が維持できたのは、経済成長がセーフティネットとして機能していたからであり、解雇規制だけ緩和しても、これはリスクが高まっているときに、リスクを取れ、ということであるから雇用の流動化が進むとは思えない。セーフティネットの整備も同時に行わなければ実効性は乏しいだろう。

ドイツの事例を元に、解雇規制を緩和することで、経済成長が加速すると結論付けるのは、上で見るように実態とはかけ離れている。 ヨーロッパ各国では、失業に対するセーフティネットには巨額の予算が投じられており、財政再建が緊急課題の日本においては極めてハードルの高い政策である。

結局、なし崩し的に、終身雇用や年功賃金が崩壊し、弱者にしわ寄せが行くアメリカ的な著しい格差社会を許容するか、あるいは、著しい社会負担(例えば消費税50%以上)を許容して、セーフティネットを整備し、ヨーロッパのように半社会主義国化するしか道は残されていないように思うが如何だろうか。 

(追記) 北欧諸国のフレクシキュリティもよく雇用流動化の成功例として引用されるが、これについては別の機会に取り上げたい。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑