ブラック企業が社会全体の労働生産性を低下させる理由

2013年12月19日 23:35

ブラック企業を巡っては、「ユニクロ過酷労働記事で敗訴」「大庄過労死事件の裁判で役員個人に賠償責任を認めた判決が確定」といったニュースが示すように、ブラック企業への社会的批判が高まる一方、城繁幸氏の「実はブラック企業の大半は合法であり、ユニクロは優良企業であるという現実」といった意見を始め、ブラック企業を擁護する意見も多い。

ブラック企業を批判する意見には、倫理的あるいは法的な面からブラック企業を非難するものが多いが、ここでは視点を変え、経済に与える影響について考えることとし、ブラック企業の存在が、社会全体の労働生産性を低下させ、経済の非効率を生むことを指摘したい。 


需要不足とブラック企業の出現

まず、ブラック企業が生まれる背景について復習しよう。 

現在の、日本経済の停滞は、日本のモノ、サービスに対する内外の需要が足りないということに尽きる。 円安になっても、輸出数量は伸びず、かといって海外生産された日本製品が世界を席巻しているわけでもない。むしろ、電機業界のように、その存続が危ぶまれるほど疲弊しているのが現状であるし、国内も少子高齢化の進行に伴って、需要は減退傾向である。

こうした限られた需要の下で、利潤を上げるには、コスト、特に人件費を削減し、安売りをすることが、まず考えられる。このため、まず労働コストが安い非正規雇用が増加し、さらには、正社員の大半を管理職扱いにして、無制限の残業をさせて、極限まで労働コストを下げるといった所謂ブラック企業が出現している訳である。 

実際、厚生労働省が集中的に立ち入り調査した結果、約8割にあたる4189の事業所で違反があり、是正勧告したと、2013年12月17日に発表した。社員の7割以上を「名ばかり管理職」にして残業代を支払わなかった例や、ノルマ未達成を理由に基本給を減額するなどの悪質なケースもあったという。

このように、この一連の流れは、利潤追求という資本主義の論理からすれば、全く当然の成り行きである。 このため、ブラック企業を批判したって仕方ない、とか、つべこべ言わずにもっと働け、辛いなら辞めればいい、といった発言をする人も多い。 

たとえば、竹中平蔵氏は、従業員をこき使って利益を出すブラック企業の問題について訊かれ、「利益を出す会社が良い会社。損失を出す会社こそ悪い会社です」と発言している。

しかし、これは明らかに誤った考え方である。なぜなら、ブラック企業が存在することで、社会は非効率になり、社会全体の労働生産性は低下するからである。

モデルによる簡単な考察

このことは、次のようにモデル化して考えれば、すぐに分かる。

ある町に、同じ品物を売るA社とB社があり、その町における、その品物の需要は一定であると仮定する。ここで、A社が不当な方法で、従業員をこき使って労働コストを下げることで値下げを行い。、B社のシェアを奪ったとする。このときB社の売上は減少するが、それと同時に、B社の社員の労働生産性は低下することになる。 

もし、B社が、シェアを奪い返そうとするなら、A社と同じように、労働コストを下げなくてはならないから、A社と同じように従業員に不当労働行為をさせるか、正社員を解雇してパートで置き換えるといったことをしなくてはならない。

結局、行き着く先は、A社も、B社もブラック化して元通りのシェアを分け合うか、B社のシェアと労働生産性が低下した状態に甘んじるか、あるいはB社が潰れるか、の3つの選択肢のどれかになるだろう。 

両社がブラック化した場合は、消費者が得をし、両社の従業員が被害者で、従業員の数は減ることになり、残った従業員も過重労働をしなくてはならない。

一方、B社のシェアが低下した状態で甘んじる場合や、B社が潰れる場合には、A社のオーナーと、一部の消費者が得をし、A社の従業員もB社のオーナーや従業員は不利益を被ることになるわけである。 

労働生産性の観点から見れば、従業員プロパーで見ればブラック化すると当然、労働生産性は高くなる。しかし、解雇された人まで考えると、実は初期状態、即ち、A社もB社もブラック化しない状態が一番高いのである。 

納得できない人は、A社がブラック化して社員がこき使われる一方、B社では単位時間当たりの売り上げが落ち、B社の社員も営業時間を延長して働かなくてはならない状況を思い浮かべればよいだろう。 

まとめると、需要制約があり、解雇された従業員の行き場がないか、より生産性の低い企業に限られるといった場合には、ブラック企業が出現すると、社会全体の労働生産性は低下するのである。 需要に制限がなければ、頑張れば頑張るほど豊かになれるのが、需要制約がある場合には、無理して頑張る企業が出ると全体としては、生産性が低下する。 だからブラック企業は、経済成長には有害なのだ。

どうしても納得できない人は、限られた資源を分け合う漁業で、なぜ漁船毎の漁獲枠が設定されているのかを考えればよいだろう。

意外と効率的な労働時間の制限

実は、西ヨーロッパの国には、ブラック企業なるものは存在しない。それは、雇用慣行が日本とは全く異なるからである。

例えば、ベルギーは週37時間がフルタイムの労働時間で37時間という労働時間は週に1時間、月に3時間以内のプラスマイナスは許されるが、一年で15時間以上のプラスがあると雇い主と雇われている人、両方ともが罰せられる。フランスは週35時間がフルタイムの労働時間だ(医師など一部の業種は除く)。

このように労働時間を制限するのは、失業率を下げるワークシェアリング的な考えからである。 上で見たように、競争を激しくすればする程、生産性が上がるというのは、需要が十分にある場合にしか成り立たない話なのだから、勤勉な日本人から見れば、一見不合理に見えるワークシェアリングも実は賢いやり方なのかも知れない。

仏労働者は「1日3時間しか働かない」と一部で言われているようだが、これで国が回るのだから、日本人から見れば怠け者と非難されそうなフランス人の方が、実は日本人より余程労働生産性が高いのかも知れない。我々は働き方について、もう少し考えるべきではないか。 

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