雇用の流動化とセーフティネットの整備

2013年12月26日 09:00

経済のグローバル化に伴う、産業構造の変化に適応するためには、雇用を流動化させて対応しなくてはならない。また、近年、日本では非正規雇用が拡大し、正社員との待遇の格差も問題視されるようになってきた。 そのため、終身雇用、年功序列といった日本型雇用の変革が必要になり、解雇規制の緩和が議論されるようになっている。

しかし、解雇規制だけが雇用の流動化を妨げているのだろうか? ここでは、雇用の流動化を妨げているものは、何かについて考えたい。


正規雇用、非正規雇用の格差問題

現在、日本では、正社員と非正規社員は、それぞれ3281万人と1870万人(2013年1-3月の平均)で、3人に1人以上が非正規社員として働いていることになる。その正社員と非正規社員の平均賃金(年収)を比べると、正社員が317万円に対し、それ以外では196.4万円と、大きな格差がある(厚生労働省「平成24年賃金構造基本統計調査」)。 

このような状況に対して、正社員は保護され過ぎているといった声が上がっている(「非正社員の敵はどこにいるのか」参照)。 確かに、正規雇用と非正規雇用の所得格差が一種の身分制度のようになり、格差が固定化するとしたら、問題である。 

そこで、解雇規制を緩和して、正社員を解雇しやすくしようという議論が起きている。

最近では、「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」という解雇規制緩和論者の城繁幸氏の記事を巡って、公務員労組uncorrelated城繁幸の各氏がバトルを繰り広げている。
 
雇用に金を掛けない日本の特殊性

しかし、解雇規制だけが、雇用の流動化を妨げているのだろうか? 国際的に日本の正社員の解雇規制が強いか弱いかを論じる前に、世界各国の雇用政策を点検することが必要だろう。

すると、まず日本の特徴として、失業給付や職業訓練などの雇用対策に充てる国費がヨーロッパ各国と比較して圧倒的に少なく、セーフティネットの整備が不十分であることが分かる。

例えば、オランダは、失業保険の保険料率については労働者が賃金の 6.45%、同様に使用者が 6.35%となっている。要件として直近 36 週中、26 週の就労している、就労期間の少ないものは最低賃金の70%、より長い就労期間のあるもの、すなわち前述の要件に加えて最近 5 年の中 4 年就労している者は最終所得の 70%となっている。給付期間に関しては、短期就労者は 6 ヶ月、長期就労者は最長 38 ヶ月となっている。またデンマークの場合は、給付水準は週に 417 ユーロを上限として前職賃金の 90%まで保障される。給付期間に関しては最長 2 年である。 フランスの失業保険支給期間は、3年以上加入していれば、50歳未満で730日、50歳以上で1095日以下でフルタイムの労働者だけでなく、派遣やパートタイムの人も含まれ、支給水準は給与の約6割弱。

一方、日本の場合は、給付水準は離職前の賃金の 45%~80%であり、低賃金であるほどその水準は高くなる。給付期間については障害者などの就職困難者を除けば、原則、年齢、被保険者期間、離職の理由等により、90 日~150日と定められている。

このように日本の失業給付は先進国中最低レベルであると言ってよい。また雇用関係の社会保障支出を見ると、日本の支出の少なさは際立っている。

社会保障国際比較

社会保障給付の国際比較から転載)

たとえば、日本の失業向けの職業訓練に対する公的支出の対 GDP 比は 0.03%、これはアメリカの 0.07%とあまり差はないが、デンマークでは 0.90%、フランスでは 0.42%、オランダでは 0.32%と日本よりもはるかに高い数値となっている。日本では、失業者の職業訓練体制は、全く未整備であると言ってよい。 

さらに、ヨーロッパの場合、大学まで教育はほとんど無料で受けられ、児童手当や子どもを持つ家庭への税制面での優遇(フランスの場合3人子どもがいる家庭では所得税はほとんど掛からない)などの子育て支援が充実しているため、日本と比較して、賃金カーブがフラットである。このため、中高年の雇用の流動性も高い。 日本とヨーロッパでは、社会の構造自体が大きく異なっているのである。 

雇用の流動化はセーフティネットの整備から

このように、日本は雇用のセーフティネットの整備は、非常にお粗末である。従って、多くの労働者にとって、失業の恐怖は非常に大きいもので、それが雇用の流動化を妨げている。 

セーフティネットの整備をせずに、解雇規制だけを緩和しても、一方的に雇用する側の力が強まるために、雇用の流動化は進まず、非正規労働者が増加し、低賃金労働者が増加するだけだろう。

日本の失業率は4%前後と、失業率が10%以上にもなる国が多いヨーロッパ各国と比較して非常に低いが、これは、日本の雇用環境がヨーロッパと比較して良いことを意味するのではなく、失業保障が不十分で、かつ職業訓練の機会が与えられないために、転職が難しく、悪条件でも働かざるを得ない事情を反映しているとも考えられる。  

こうした中、雇用の非正規化が進み、、経済格差の程度を表すジニ係数(再分配後のもの)をみると、日本は2011年度時点で0.329とフランス(0.293)、ドイツ(0295)を上回っており、どちらかというとアングロサクソンの国々、アメリカ(0,378)、英国(0.345)、オーストラリア(0.336)に近い。

アメリカのような、極端な格差社会を狭い国土に1億人以上の人口を抱える日本で出現させることは、多くの国民にとって不幸であろう。

だとすれば、ヨーロッパ並みの、手厚い失業給付や、職業訓練支援を行うことで、積極的に転職を促す必要がある。 このためには、恐らく従来の雇用保険に加え、所得の10%以上の保険料(労使折半としても、10%程度は手取りが減るだろう)を徴収する必要があるだろうし、雇用政策を充実するには増税も必要になるだろう。雇用の流動化にコストが掛かることは、国際比較をしても明らかだ。 

世界的な需要不足で、経済成長があまり望めない状況では、再分配機能の強化が必要なように思われる。 

補足 雇用の流動化が経済成長に寄与するという根拠は、私には薄いように思われる。なぜなら、経済成長の障害になっているのは、物理的限界やフロンティアの枯渇による需要不足であり、これを雇用政策で解決することは極めて困難だからである。 

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