日米の著作権法の権威による講演会(その3:パネルディスカッション)

城所 岩生

12月7日、早稲田大学で開催された「著作権法学の将来」についての公開講座は、(その1:米国)(その2:日本)で紹介した日米の著作権法の権威による講演に続いて、パネルディスカッションが行われた。両教授のほか3人のパネリストが加わり、権利制限規定に焦点をあてて簡単に発表。パネリストの1人、石新智規弁護士が「フェアユース再考」というテーマで発表したので、概要を筆者なりに要約し、注で補足する。


フェアユース規定
・米国著作権法第107条はフェアユースについて概略以下のように規定している。
批評、解説、ニュース報道、教授、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェアユースは、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェアユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。
(1) 使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的を含む)
(2) 著作権のある著作物の性質
(3) 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
(4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響

注:「批評、解説、ニュース報道、教授、研究または調査等を目的とする」とあるように「等」が入っているので、これらの目的以外でも以下の4要素を考慮して、フェアユースにあたると判定されれば、著作権者の許諾なしに利用できる点である。また、必ず満たさなければならない「要件」ではなく、考慮すべき「要素」なので、不利な要素があっても、有利な要素が上回れば侵害とはならない。

・裁判所が上記4要素を考慮して総合判定するフェアユースの判例法理は、第4要素重視の「市場中心」パラダイムから、第1要素重視の「変容的利用」パラダイムにシフトしてきた。

「市場中心」パラダイム
・「市場中心」パラダイムは1984年および1985年の連邦最高裁判決で確立した。1984年のソニー 対 ユニバーサル・シティ・スタジオ事件は、ユニバーサル(映画会社)がソニーの販売する家庭用ビデオデッキ(ベータマックス)が「著作権侵害を幇助している」として、ソニーを提訴した。最高裁は第4要素の判定で、ユーザーは録画して後で見るから視聴自体は減らないため、ユニバーサルのTV番組市場への悪影響は限定的だとして、フェアユースを否定するものではないとした。

注:第4要素の「原著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響」は、要は原作品の市場を奪うかどうかだが、ユーザーは視聴する時間をタイムシフト(昼間のTV番組を録画しておいて、夜、視聴する)しているだけで、視聴自体を減らしているわけではないので、TV番組の市場を奪ってはいないとした。

・1985年のハーパー・ロウ 対 ネーション事件では、ネーション紙がハーパー・ロウから出版予定だったフォード大統領の未発表の手稿を入手し、自社のスクープ記事として一部を無断で掲載した。ハーパー・ロウは発表前に一部を掲載する許諾をタイム誌に与えていたが、このスクープによってタイム誌から契約を解除されたため、ネーション紙を提訴した。最高裁は、フェアユースは合理的な著作権者であれば当該利用を許したといえるが、「市場の失敗」によりそれが困難となっている(市場が機能しない)場合に限るべきであるとし、ネーション紙のフェアユースの抗弁を認めなかった。また、第4要素がフェアユースの最も重要な要素であると指摘した。

注:判決は、「経済学者は市場が失敗した場合、または著作権者が得られる価格がゼロに近い場合に限ってフェアユースを認めるべきだ」と主張する。本件では、ハーパー・ロウはネーション紙のスクープによってタイム誌から契約解除されなければ、12500ドルの掲載料をもらえるはずだったことから、公的人物の回想録を出版する市場が存在することは明らかで、市場は失敗していないので、フェアユースを認める必要はないとした。

変容的利用パラダイム
・1994年のキャンベル 対 アカッフ・ローズ事件では、ラップ歌手がロックバラード、オー・プリティ・ウーマンの楽曲・歌詞を利用して、原曲の内容をパロディ化するラップ音楽を作曲したため、オー・プリティ・ウーマンの著作権を持つアカッフ・ローズが提訴した。最高裁は原著作物とは異なる表現上の目的を持つ利用であればあるほど、他の要素、例えば商業性といったフェアユースに否定的な要素(筆者注:第1要素)の比重が低下するとし、被告の表現上の目的=原著作物に対するパロディ批評は、原著作物の表現上の目的とは大きく異なる変容的なものであるとして、フェアユースを肯定した。
・キャンベル判決は第1要素を考慮する際、これまで重視してきた商業/非商業二分論を修正し、被告の利用に原著作物とは異なる表現上の目的がある場合にフェアユースを肯定する変容的利用パラダイムへと方向転換した。変容的利用パラダイム2005年以降の判例に顕著に見られ、定着しつつある。

注:変容的利用パラダイムの定着による最大の受益者は間違いなくグーグルである。グーグルは、ウェブ検索サービスで画像検索サービス、文書検索サービスに対して著作権訴訟を提起されたが、いずれも変容的利用が認められた。画像検索サービスの例でいえば、原作品には観賞用の価値はあるが、サムネイル画像では情報としての価値に変容しているので、侵害にならないとされた。書籍検索サービスでもグーグルの書籍検索サービス合法化によりますます拡大する日米格差(その1) では、第1要素についての裁判所の分析は割愛したが、検索結果の数行のスニペット表示は、画像検索サービスのサムネイル表示に類似しているので変容的利用であるとした。

日本への導入を再考すべき
・フェアユースは予見不可能で不安定との批判があるが、裁判例の分析を通じ、一定の安定性・予見可能性が見出されているとの研究成果が基調講演したサミュエルソン教授の研究も含め3件ある。
・制定法国にはなじまないという批判もあるが、複数要素について裁判所による規範的評価を必要とする場面は他の領域でも見られる(例:引用2要件、整理解雇4要素、違法収集証拠の排除法則等)。特に、引用に関する美術鑑定書事件(平成22年10月13日知財高裁判決)はフェアユース判断とも親和性がある注目すべき判示である。

注:この二つの批判に対する筆者の反論については、「著作権法がソーシャルメディアを殺す」の第7章参照。

以上、(その1:米国)で紹介したパメラ・サミュエルソン教授、(その2:日本)で紹介した中山信弘教授に続いて、石新智規弁護士もフェアユース規定の必要性を強調した。

城所 岩生