Amazonが最強な理由は「待てる経営」だから

村井 愛子

「待てる経営」とは投資から改修までどのくらい待てるかということなのですが、普通はそう待てないと思います。上場企業であれば四半期ごとに収支を公開して短期的な利益が求められますから、いつまでも利益が上がらない事業を保持していること自体、株主から責められることになります。


上場してなかったとしても、会社組織の中で新規事業を行っている場所は、短期で投資を回収できなければ担当者は評価されません。ゆえに、やはり待つことは難しいのです。

しかし、待てる経営は、時として大勝ちする場合があります。というか、待てることが大勝ちする条件です。

検索エンジンの歴史。待てなかった日本企業と、待てたgoogle

その昔、インターネットが流行し出すと検索エンジンが来るんじゃないということで、日本の企業も大量の開発費をつぎ込んで日本製検索エンジンを作っていました。しかし検索エンジンをいくら作っても儲かりそうにありません。結局、収益化を急いで検索結果に広告を差し込んでしまいました。今のリスティング検索ではなく、オーガニックの検索結果の上位に、広告のサイトを表示したのです。

当時、出来たばかりだったgoogleは収益化を急ぎませんでした。検索結果の精度が悪くなった検索エンジンからユーザーは離れ、どんどんgoogleはシェアを伸ばしていきました。日本企業は検索エンジンの開発に資金を投入しなくなり、結局シェアを確保したgoogleが数年後にリスティング広告を発表してありえない収益をたたき出すようになったのです。ちなみにgoogleの2013年1~3月期決算は、売上高が前年同期比31%増の139億6900万ドル(約1兆3720億円)だそうです。

WEB2.0の波が引いても待ち続けたクックパッドとアットコスメ

WEB2.0がブームになった時、集合知という言葉がもてはやされて次々にCGMサービスが登場しました。クックパッドとアットコスメは集合知がブームになるよりも前、90年代の終わりかけに登場したサービスですが、収益が起動に乗ってきたのは2005年以降です。
それまでに4、5年の月日を乗り越えたからこそユーザーが定着し、両社とも上場、クックパッドについてはすごい高利益体制を維持しています。通期で49億を超える売上を上げ、営業利益が26億で利益率が53%と驚異的な数値です。

60億の赤字を出しても投資し続けたアメブロ

プラットフォーム事業は莫大な投資を必要としますが、アメブロは5年間、60億の累積赤字を出しています。藤田社長は「会う人みなに止めた方がいいと忠告された」と書籍で語っています。しかし、藤田社長自らアメーバの統括責任者に就任し、3年で黒字を達成できなかったら社長をしりぞくと退路を断ち、3年めの2009年に黒字化を達成。
2012年9月期の決算ではAmeba事業の売上高は250億円で営業利益は74億円、営業利益率は29.6%となっています。藤田社長の書籍にもありましたが、広告代理店は非常に利益率が低いのです。藤田社長は、利益率の高い自社メディアを作るために、6年もの間「待った」のでした。

そして、藤田社長はブログでこんな発言もしており、待つことの重要性を話しています。

twitterが大ヒットしたのは、日本版がローンチして2年経ったある日、突然でした。それまでは目立った流行り方はしていませんでした。成功の要因は、その間粘り強くサービスを改善を積み重ねていたからだと思います。Facebookは最初から今のようなでかいところを狙いにいった訳ではありません。当初は学生のみに限定したサービスでした。機能を追加したり、オープン化したり、ダカイを繰り返して今に至っています。大きく成功すると、さも最初からそれを狙っていたように成功要因を解説する人が出てきますが、実際は、現場での試行錯誤の結果であって、しっかりとコンセプトとターゲットを絞ってサービスを確立し、リリース後、ダカイを重ねて拡大させていくというやり方がホームランを出せる確率が最も高い方法と私は考えてます。しつこいようですが、今年は地道にダカイゼンを積み重ねて、ホームランを待つ、というスタンスです。

巨額投資が必要な動画プラットフォームに賭けたニコニコ動画

ニコニコ動画も2008年以降2年弱の間、赤字事業でした。動画プラットフォームは、特に多額の投資が必要だったため視聴者数が伸びれば伸びるだけ赤字も膨らむ構造でした。しかし、固定ファンを惹きつけたニコニコ動画は有料会員制度を設け、現在その数は175万人に上り、今もまだ増え続けています。
2012年9月期第4四半期のニコニコ動画の売上は37億5千7百万で営業利益は6億3千2百万で利益率は16.8%ととなっています。この事業は「フェニックス・プロジェクト」と名付けられていたそうです。
当時ドワンゴの携帯ビジネスはひっ迫しており、会社を根底から盛り返すための一発逆転の事業が必要でした。ドワンゴの小林社長も「これでドワンゴは蘇えるぞ!との思いから付けました。」と語っています。

天文学的な累積赤字1兆円を回収したAmazon

世界で一番「待てる」企業がAmazonです。Amazonの累積赤字の最大額はなんと1兆円。普通だったらひるんでしまう天文学的数値ですが、ジェフ・ベゾスは周囲の批判にもめげずに6年で黒字化しています。ちなみに、2012年における日本での売上は78億ドル(!)。楽天の2858億円を抜いています。

ちなみに、ベゾスは来日時にインタビューの中でこんなやりとりもしています。
短期的利益を追求する企業が増えている中で、確かにアマゾンは辛抱強い。先行投資期間が長い印象があります。

ベゾス:おっしゃるとおり、私たちは辛抱強い。待つのは平気です。2、3年でうまくいく必要はまったくありません。状況によっても変わりますが、一般的に私たちの会社が見ているタイムラインは、5年から7年。 もちろんどこかの時点で顧みる必要は出てくるでしょう。うまくいかないものにいつまでも投資することはできませんから。しかし、1つの事業を構築するために5~7年にわたって投資する用意は常にあります。 我々は市場シェアを自分たちで決めることはできないと常に思っています。最高の顧客経験を提供することに重点を置いてビジネスを展開するだけ。あとは顧客がアマゾンのシェアを決めます。アマゾンで買い物をするのか、それとも別のところでするのか。これは常に顧客が決めることです。
待つというのは受動的な言葉ですが、この「待てる経営」している企業は受動的な体制ではありません。投資から改修までを「待つ」ということは、それをはばむ外部要因から事業を守り、積極的に攻めに出て維持していかなくてはならないのです。

そして、待つことの出来る企業には、ほぼ全てに当てはまる共通点があります。それは、創業社長が最高決定権を握っていることです。数年ものスパン赤字でありながら事業を守るということは、もはやそれは信念以外の何物でもありません。創業社長だからこそできる、きわめて攻撃的な事業運営なのです。

※「トリブログ」からの転載です。
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