靖国参拝と国益(1)緊張の高まりは、テロを呼ぶ!

2014年01月09日 11:33

「靖国参拝支持論」を代弁するつもりで書いた「首相が『国のために戦死した兵士』に敬意を表して何故悪い!」の評判が良くなかった事に安堵する思いであった。

靖国参拝支持論の中には学ぶべき真摯な信条論もあるにはあるが、木走正水氏の記事の様に、炎上狙いのアジびらみたいな酷いものが多く、池田信夫、松本徹三、石井考明、站谷 幸一各氏などの碩学が如何に客観的、実証的な論考を出しても文字通り「馬の耳に念仏」である。

そこで歴史観や信条論は横に置き、この時期の首相の靖国参拝と国益の関係に光を当ててみたい。


安倍首相の靖国参拝が東北アジアの緊張を高めた事に異論を呈する人は居るまい。

私は、日中韓の政府レベルの緊張関係の高まりはそれ程心配していないが、心配なのは、民族間の異常な緊張の高まりが日本を標的にしたテロを招き易い環境にしたことである。

首相としての最大の職責が、国民の生命・財産を守る事である事を考えると、首相の靖国への思い入れの深さは理解するにしても、自己の信条を満足させる為に日本国民を危険に晒す価値があるのかと言う疑問である。

第二次大戦後の世界の「熱い戦い」の主流は、政府間の正面戦争より、民族、宗教などの対立を巡ったゲリラ闘争であり、テロ攻撃であったが、このパターンは今でも変らない。

無差別テロは、1962年に起きた日本赤軍によるイスラエルロッド空港の乱射事件が始まりで、この事件以降、搭乗時の手荷物検査や空港ターミナル内における警備が世界各国で強化されることとなったが、未だに有効な対策はできていない。

当時としては前例のないこの事件の実行犯が自国民であった日本政府は、世界の反発を抑える為にイスラエル政府に公的に謝罪し、犠牲者に当時の金額で100万ドルの賠償金を支払った。

無差別テロの最初の実行犯が日本人なら、オウム真理教のサリンテロ事件もアーバンテロの先駆とされている。

新型のアーバンテロとして柱目を集めたこの事件をきっかけに、海外ではその対策に腐心し、その成果がシリアのサリンガス処理に活かされている

それに対し「破防法」も発動しなかった日本政府の対策は、ゴミ箱の除去と慰霊碑の建立だけと言う「能天気」ぶりであった。

この「能天気」ぶりにも拘らず、日本が海外からのテロの標的とされなかったのは幸運としか言い様がないが、日本が宗教的に中立であった事と、他民族との緊張関係が無かった事も多いに影響していたに違いない。

だからと言って「原発安全神話」で実証済みの様に「テロは起こらなかったから、テロの事は心配するな」と言う事にはならない。

「平和ボケと言う安全神話」と言う記事の中で池田先生が指摘している様に、http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51882337.htmlもし安倍首相が「平時にはきれいごとを言って正義の味方を気取れる」メリットを計算して参拝したとすれば、無責任過ぎる。

池田先生が指摘する様に、アメリカの安全対策が常に戦争を予測した厳重なものである事は、日本人観光客にも御馴染みのゴールデンゲート・ブリッジやNYマラソンの出発点のベラザーノナロー・ブリッジなど、外洋に面する全ての橋の周辺に軍事基地がある事でも良く判る。

然し、9・11テロの発生で全面戦争を前提とした安全対策では充分ではないことを知った米国は、即座に安全対策の全面的な見直しに着手し、愛国者法を成立させたり、国内の安全情報に関する情報機関を統合した米国国土安全保障省と言う巨大組織を作りあげたが、これも成功したとは言えず依然としてテロ対策には頭を痛めている。

日本がテロに特別弱い国家である事は、その地形、地政学的な位置、行政制度やインフラの配置などを見れば直ぐ判る。

地形面では、海峡や東京湾を含む重要な湾口にサボタージュをかけられると日本はたちまち麻痺してしまう。

更に心配なのは、日本の生命線を握る石油・ガスをはじめとしたエネルギー資源は勿論,物作り日本を支える鉱物資源は「シーレーンの賜物」である事実だ。

このシーレーンを取り囲むインドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシア,タイなどの諸国の経済は実質的に「華僑」が握っており、フォーブスマガジンによると、これ等各国の十大富豪の過半数も華僑に占められている。

政府間の正面戦争と異なり、テロは少数の狂信的な人間が財政的な支援を取り付ければ直ぐ出来ると言う恐ろしさがある事実は、アルカイダやアイルランドのテロ闘争の例を挙げるまでもない。

日本がいくらシーレーン関連国の政府と親交を深めても、各国政府がテロ防止に果たせる役割が限られている理由はここにある。

日本の対テロ弱点はこれに留まらない。地方分権の米国と異なり、全体主義国家に似た「中央集権行政」の日本は、一部が麻痺すると全体が麻痺すると言うテロ攻撃に特別弱い体質の国家である。

ソ連崩壊の後の大混乱も、共産主義体制の唯一の全国的な行政インフラであった共産党組織の崩壊で、全国的なインフラの役割を果たしたのがホワイトマフィア(KGB)とブラックマフィア(コーカサス出身を中心にした闇金融組織)であったが、ここに腐敗を武器に食い込んだ一部の人間が、オリガーク(新興財閥)と呼ばれる億万長者や共産階級独裁に変わる個人独裁として登場する一因となった。

日本の物理的なインフラの中心である新幹線、高速道路を含む日本の交通ライフラインが沿岸部に集中していることも、外部テロリストには又とない標的である事も日本の弱点である。

ここに挙げた「大規模無差別テロ」とは別に、民族間の緊張が引き起こす「突沸」現象により、日本人だと言う理由だけで国民がテロの対象になったとしたら、首相はどの様に弁明するのであろうか?

理念は中々行動に結びつかないが、感情は人を駆り立てやすい。その意味からも、国家間の緊張より、民族間の緊張による「突沸」現象の方が恐ろしい。

ソチのオリンピックを眼前にしたロシアのプーチン大統領も、チェチェンを中心にした南コーカサスの民族主義者のテロ圧力に苦戦を強いられているが、2020年に東京オリンピックを控えている日本も他人事では済まされない。

このまま中韓との緊張関係が改善されなければ、2020年の東京オリンピックの行方も心配である。

安倍首相の靖国への強い気持ちに大きな影響を与えた祖父の岸信介元首相が、生前心底から尊敬しその死に際して葬儀委員長を務めた陽明学者の安岡正篤氏は「他人を変えようと思ったならば、まず自分を変えることである。」と言う言葉を残している。

信念を曲げない事と挑発する事は別であり、テロ防止の最善策は無用な緊張関係を避ける事にある。
その意味でも、この時期の首相の靖国参拝は国益に反するといわざるを得ない。

2014年1月9日
北村隆司

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