カトリックは“フランシスコ効果”だけではダメ --- 長谷川 良

アゴラ

オーストリアのローマ・カトリック教会司教会議が1月14日発表したところによると、同国の昨年の信者脱会数は5万4854人で前年比で4・8%増だった。同国のカトリック教会信者総数は約531万人となった。
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▲ウィーン大司教区のシュテファン大聖堂(2013年1月10日、撮影)


司教会議関係者は「教会脱会傾向はここにきて落ち着き、安定してきた」と評価し、脱会者急増傾向にストップがかかったと受け取り、「将来への潜在的な希望すら感じる」と述べている。

同国では2010年、脱会者数は8万5960人と過去、最悪を記録したが、それ以外の年の信者脱会数は5万人台だ。この年、教会信者脱会者が急増したのは、世界各地で聖職者の未成年者への性的虐待事件が発覚し、教会内外で教会の信頼が大きく揺れ動いた年だった。

教会はその衝撃から次第に立ち直りつつあるといえるが、聖職者の性犯罪はその後も各地の教会で発生している。ちなみに、「国連子供の権利条約」(UNCRC)委員会は16日、第65会期でカトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待問題を審議したが、「バチカンは聖職者の性犯罪の詳細な情報を提供していない」と批判している。

教会脱会者の急増傾向にストップがかかった主因は何といっても南米初のローマ法王フランシスコの就任が大きい。古い慣習を破り、信者とのスキンショップを重視する一方、豪華な生活を戒め、貧者への支援を諭すフランシスコ法王に新鮮な驚きを感じている信者たちが増えてきた。通称、フランシスコ効果と呼ぶ現象だ。

それに対し、同国代表紙プレッセ(15日付)は「フランシスコ法王は奇跡をもたらすラビではない」と指摘し、教会の実情は新法王の就任で一挙に改善するような簡単な問題ではないと戒めている。

例えば、首都ウィーンの大司教区では昨年、1万5889人(前年1万6217人)が教会から脱会し、信者総数は124万6608人(前年125万8210人)だ。

少し詳細に見ると、教会会費(所得の1・1%)を支払う信者は全体の37・1%に過ぎないのだ。教会から脱会しないが、礼拝には参加せず、教会費も払わない信者が大多数を占めているわけだ。

同国の最高指導者シェーンボルン枢機卿が焦るように機構改革を進めるのは当然なわけだ。聖職者不足など、教会を取り巻く現実はフランシスコ法王の登場後も何も変わっていないからだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。