さすがに年貢の納め時か、任天堂の岩田社長 --- 岡本 裕明

アゴラ

WiiやDSで一世を風靡した任天堂の決算見通しに衝撃が走りました。

売上高見通しは従来予想(9200億円)を3300億円も下回る5900億円
営業損益見通しは昨年の岩田聡社長らのコミットメント、1000億円の黒字予想から350億円の赤字に転落
「U」の今期世界販売予想は900万台から280万台、ソフトも3800万本から1900万本と大幅に下方修正
経常損益は従来予想の900億円黒字から50億円の黒字と18分の1。それも円高効果でようやく黒字

などなど惨状と言いたくなるような数字が並んでいます。株価は金曜日の終値で14645円という水準で引けていますが、月曜日以降、どこまで売り込まれるか、見当がつかない状態になりつつあります。1万円割れは必至、中期的に半値覚悟かもしれません。特に同社株式は外国法人の所有が47%と割合が大きいため、見切り処分は避けられないことになりそうです。


私は同社の経営姿勢に一貫して否定的でした。たとえば

今、最新の技術一杯の3D花札を発売するとします。(どんな商品だかわかりませんが、要は花札を改良した商品という仮定です)売れるでしょうか? NOですよね。花札自体が時代遅れだからです。(2011年8月21日)

任天堂は据え置きゲーム一本でここまで快走してきましたがゲーム環境が携帯/スマホに移行するに従い、厳しい状況になってきています。同社は当然ながら時代の要請を受けた変化をしていくことになりますが、今までは「時代を先取りする会社」がいまや「時代を追う会社」に変貌したわけです。(2012年8月3日)

私が挑戦しなくなったと思う経営者は任天堂の岩田聡社長。彼は確かに任天堂を世界の水準に押し上げ、据え置き型ゲームではソニー、マイクロソフトとの戦いを制したと思っています。しかし、その栄光の美酒に酔いすぎたような気がします。このところ凋落ぶりが激しいのですが、新製品が枠からまったく変わっていなくて新鮮味がなく、時代のニーズから完全に外れているのに独りよがりになってしまっているのです。(2012年12月23日)

とかなり長期間にわたり私なりに警笛は鳴らしていたと思います。ですが、岩田社長は同社オーナーの山内溥氏からの圧倒的信頼を得ていましたので誰も殻を破ることができなかったのだろうと思います。また、確か2年ぐらい前の日経ビジネスで情報発信度で好感度経営者では岩田社長はかなり上位に食い込んでいた記憶があります(たしか5位前後)。つまり、岩田社長に一種のカリスマ的人気があったことも災いしたのだろうと思います。

業績が下方修正されるたびに彼はインタビューで「回復する」と言い続けてきました。営業益1000億円見込みを発表するに当たり、昨年だったか、岩田社長が自分の首を賭けるという趣旨のことをおっしゃっていました。よって、私は任天堂の復活を賭けるならば、まず、岩田社長の辞任は不可避であると考えています(多分、株主が黙っていないはずです。ずっと騙され続けてきたわけですから)。

なぜ、間違えたか、それは任天堂が素晴らしいゲーム機を作ったことのよる成功神話にすがりついた、それだけです。任天堂はもともと、花札の会社。そして私が子供の頃はトランプといった地味な会社でした。それがここまで化けたのですから岩田社長の業績は素晴らしいものがあったことは事実です。

ですが、一つ、言えることは人の才能はシングルの人とマルチの人がいるということです。ある分野に深堀し、精通してその道のプロフェッショナルになる人と何をやってもうまくできるタイプの人です。岩田氏は私の見立てはシングルの人です。ユニクロの柳井さんもシングルですが、例えばブックオフから「俺のフレンチ」、「俺のイタリアン」で復活した坂本孝氏は明らかにマルチの才能を持っています。

シングルの才能の人の場合、方向転換ができないという弱点を持っています。経営が一方通行で爆死するまで突っ込むケースすら見られるのです。欧米スタイルの経営の一つに業績判断で社長のいすはいつでも挿げ替えられる、という点でしょうか? これにはもちろん、反論があります。一つの技術やアイディアはそう簡単に生まれない、と。その通りです。ですが、それに固執し続けていいものでもありません。このあたりのバランス感覚や切り替えに失敗する会社が日本には多い気がします。

任天堂の業績については残念な結果となりました。同社の再生は簡単ではないと思いますが、ファミリーエンターテイメントとは何かというのをもう一度、じっくり考え直してみるには良い機会になるのではないでしょうか? 私はどこかに解があると信じています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年1月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。