トヨタの「高級車ブランド」創造はこれからだ --- 岡本 裕明

アゴラ

トヨタが二年連続で世界自動車販売台数のトップに躍り出ることが確実になったようです。GM、VWという強敵を相手によく頑張っていると思います。その記事にはレクサスも北米、中東で健闘したとあり、日本をリードする高級車専用ブランドが25年の歴史を経て少しずつ、開花している感じがいたします。

ですが、現実は微妙なのかもしれません。


私は日本未発売のレスサスESというセダンに乗っているのですが、新型が一昨年、発売されたこともあり、車の定期点検で待っている間、ショールームでじっくりと拝ませていただきました。以前から買い換えたい車が見つからない中、新型のESのスタイルが素敵だったのでこれにしようか、と考えていたのです。結論からすると、その気が消えた感じがします。

理由は装備やフロントグリルのデザインは洗練されたと思うのですが、シートに進化がなかった気がしています。特に後部座席はただそこにシートがあるだけに見えてしまいます。高級車としてのもう一段上の風格がなぜか感じられなかったことが多分大きなポイントかもしれません。

最近の車は大衆車でも装備は高級車並みでデザインもテイストが出ていて素晴らしいものが増えてきているので何をもって高級車というのか、非常に難しい課題かと思います。

韓国の現代が総力を挙げて開発したのが二代目「ジェネシス」。BMW5シリーズ、ベンツEシリーズ、レスサスGSがライバルと称されているのですが、当地の自動車評論家はレクサスとの勝負になると記しています。つまり、BMWやベンツの相手ではないが、レスサスなら対抗馬になるというこの評論家もずいぶんだとは思います。ただ、長くこちらに生活していて思うことはドイツ車にはかなり高いプレミアムカーとしてのプライドがあることは事実です。

レスサスの全世界販売台数は50万台という水準からなかなか抜けられない状態が6年以上続いています。その間、BMW、ベンツやアウディは50万台以上販売台数を増やし、それぞれ150万台水準に上伸しています。たしかに北米ではレクサスは人気があるのですが、ヨーロッパで苦戦するのはなぜでしょう。

ではここで視点を変えてみましょう。高級時計といえばスイスです。いまや高級時計も100万円の予算では選択肢が限られるほどであります。その市場で日本からはセイコーがグランドセイコーとして1960年から参入しているのですが、スイス勢を相手に国内では一定の知名度と価格優位性があり好調のようですが、世界のラグジュアリー品としてはまだまだなのはやはり歴史でしょうか?

車にしても時計にしてもお父さん、おじいさん、あるいは自分が憧れている人が使っていたというストーリーはブランドに対する殻を破る点も含めた重みがあるのかもしれません。

以前アメリカのラグジュアリーカー、キャデラックに私が乗っていた時の印象は装備が価値の意味を持つ国柄だということでした。長く乗る車ではなくても目新しさを重視するといった方がよいのでしょうか? その点、ヨーロッパの製品は何年乗っていても飽きが来ないテイストを持っていると思います。高級品の品格とはこういうことなのでしょう。それはトヨタの豊田章男社長ご自身が述べている「足りないのは歴史とストーリー」がズバリ、その答えなのかもしれません。

ならばと思い返し、今乗っているレクサスももう少し乗って20年後にバトンを繋いでみようかな、と考えたりしている今日この頃です。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年1月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。