日本の強硬な対外メッセージへの懸念…安倍、田母神、靖国

2014年01月24日 00:01
dabos600

ダボス会議で演説する安倍首相(首相官邸HPより)

「日中関係は1914年の英独関係に似ている」?

ダボス会議で安倍首相が失言した。「日本と中国の緊張関係は、1914年の英独関係と似ている」と述べた。今年は第一次世界大戦の100周年。この戦争では、1300万人が死亡し、欧州では第二次大戦と同じぐらいの重大な出来事だ。

「安倍首相は本音では、そこまで現状を危機であるとの認識をしていたのか」と私は驚いた。諸国のジャーナリストもそうであろう。そして、この発言は中国への挑発と受け止めかねられない。もしかしたら、この戦争の意味を、安倍首相は知らないのかもしれないが。(追記。24日1500、ただし通訳の誤訳かもしれないとの指摘が出ている。朝日新聞記事


ロイター通信が「Abe sees World War One echoes in Japan-China tensions :安倍首相、日中間の緊張と第一大戦を類推」 、BBCのコラム「Japanese PM Shinzo Abe urges Asia military restraint:安倍首相、アジアの軍事緊張を強調」、フィナンシャルタイムズ「ダボス出席の安倍首相、日中関係と第1次世界大戦前の英独を比較」(日本語訳)など、今でも世界に大きな影響を与える英国のメディアは大きく反応した。

英語メディアでは、最近、第一次世界大戦の前夜と現代東アジアの政治状況の類似を指摘するものがあった。英エコノミストの話題になった記事「Look back with angst :苦悩を振り返る」では、経済的に密接だった英独が、「何も起こらず平和が続く」という事前の楽観論を覆し、戦争に突っ込んだ失敗を指摘している。

確かに状況は似た点がある。力を失う覇権国(英帝国と米)、勃興する新興国(帝政ドイツと中国)、衰退する地域大国(フランスと日本)、複雑で混乱する周辺諸国(トルコ帝国・バルカンと朝鮮・中国周辺国)が存在するのは同じ構図だ。

だからこそ安倍首相は1914年に例えるならば「そうさせない」ということを強調しなければならなかった。ところが「中国の軍事拡大」を、強調する文脈で使っている。ここでの安倍氏の評論家めいた発言が私は不快だ。自分は外交の当事者なのだから、緊張緩和に全力を尽くせと思う。

計算して挑発、強硬な言葉を使うのならよい。けれども、そういう感じもしない。国際感覚の鈍さと歴史教養のなさから失言したように思えるのだ。

同大戦とは何か、私の記事「望まなくても戦争は起こる–歴史書「八月の砲声」から」を参照いただきたい。

懸念すべき世論の過激化

これだけではない。最近、日本から発信される情報は、「対外的に強硬になった」と、外国から評価されかねないものばかりだ。

安倍首相は、過去の対外強硬策や旧軍と密接につながっていた靖国神社に昨年12月に参拝した。

元航空幕僚長の田母神俊雄氏が都知事選に出馬した。私は、田母神氏が主要4候補で政策的、人間的に一番まともだと評価している。しかし、その歴史観には違和感を持っている。日本の戦争を正しいとし、さらに米国との同盟に疑問を示し、核武装を主張してきた。彼の選挙での善戦、そしてもしかしたら当選した場合には、日本が右傾化したという内外への強いメッセージになる。都民として悩ましい状況だ。

今の米国は日本と距離を置きがちな、民主党政権だ。ケネディ大使は、靖国参拝で外交儀礼に反する形だが、「失望した」と日本を批判する。オバマ政権は、安倍首相に冷たい態度を示す。そしてイルカ漁にまで批判を向けてきた。

そして何よりも懸念されるのは、世論の対外的な強硬化、過激化だ。

最近、出版不況、そして広告離れ不況に苦しむメディア関係者の間で、次の現象が話題になっている。「中韓朝は悪い」「日本はこんなにすごい」。こんな記事が売れるそうだ。過激な情報を読者、視聴者が求める傾向にある。

これまでのメディアの外交報道は明らかに日本の国益を反映しないバランスを欠いた面があった。その反動が起こっていることは仕方がないが、その振り子が右に振れすぎつつあるように思える。

そして、日本のメディアは安倍首相の発言の重要さを、英国メディアの報道で初めて知ったようだ。左ボケしている大多数も、中国と韓国への攻撃に熱心な一部メディアも、歴史・軍事の知識不足がひどく、感覚が鈍すぎる。

記者とメディアの質が劣化する一方で、世論が過激化している。これでは民主主義を支える適切な情報が流通しないだろう。無責任な煽りと興奮が、政治家や国外に響き、社会を緊張させていく。

国内と国外のメッセージの受け止め方

ここで私は、日本と外国が、一つのことをまったく正反対に受け止めた歴史的な出来事を思い出す。1941年(昭和16年)の近衛内閣の崩壊と、東条英機内閣の誕生だ。

日米交渉は暗礁に乗り上げた。米国が日本の膨張を警戒し、経済制裁に動いた。陸軍は米国との戦争は、危険と認識し、さまざまな対策を打っていた。しかし本音と建前の違うのが日本の常だ。当時陸軍大臣だった東条英機は、陸軍外部に、そして閣議で強硬策を繰り返して、交渉を停滞させる。

孫の細川護煕氏と同じように無責任な近衛文麿首相は、同年10月に政権を投げ出した。昭和天皇に内大臣の木戸幸一が首相として推挙したのは、強硬策を唱えた東条だった。その真意は陸軍を抑えるため「毒を以て毒を制す」(木戸)。天皇は東条に、日米交渉の「白紙還元」による再交渉を命じた。誰も米国と戦争はしたくなかったのだ。

ところが、米国はこれを「開戦準備」と受け取った。当然だろう。外国政府にとって、日本政府の内部事情など分からない。そして公開情報で判断するしかない。開戦を覚悟していた米国は、日本への強硬姿勢を強めてしまう。

250px-Hideki_Tojoその後に東条内閣は、日米交渉を打開できず、開戦せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。12月8日の太平洋戦争の開戦の日の未明、東条は首相官邸の自室で「宮城に向かい、嗚咽、その後に号泣していた」という。妻カツの証言である。破局を予見していたのだろう。彼が国民の怨嗟の声を集め、東京裁判で死刑になったその後を考えると、気の毒だ。しかし、それは自らの強硬策の主張が招いた面もある。(写真は東条英機、Wikipediaより)

軍事的な方法でないにしても、対外的に強いメッセージを打ち出す安倍首相が、同じような道をたどらないか心配だ。

参考文献
陸軍省軍務局と日米開戦(ちくま書房)昭和陸軍の興亡(朝日新聞出版) 保坂正康
ルーズベルト秘録 産経新聞取材班
(もちろん開戦への経緯は複雑で私の上記の文章では説明しきれていない。かなり要約している。)

破局は想像できない形でやってくる

さて、現代の日本についてである。

中国、韓国、北朝鮮の日本への挑発行動への怒りは、私も共有する。特に北朝鮮による日本人拉致問題は絶対に、許されない。今の東アジアの緊張は、日本にとって「売られた喧嘩」である。

しかし、だからといって対抗するのに、後先も考えず殴り返すような、短絡的行為はとても危険だ。私はいわゆる平和を至上のものとする「空想的平和主義者」ではない。しかし「落としどころ」が見えない東アジア情勢に、不安を抱いている。相互に経済的な依存関係が深いゆえに東アジアが「Win-Win」(共栄)の形で経済発展する可能性がある。それなのに各国の政治家の愚行が可能性を台無しにしている。

政治から民間まで、対外的に勇ましい発言が目立つ。しかし、発言者は、それが現実になり、対外的な紛争が深刻になる状況を、考えている形跡がない。

ちなみに第一次世界大戦は、熱狂と興奮による政策が悲劇をもたらす、教訓の宝庫だ。この戦争は誰も望まないのに、偶発とミスが重なり起こってしまった。(上述の私の記事参照)そしてドイツなどの帝国が崩壊し、1300万人の人が死んだ意味を、戦後、誰も説明できなかった。「何のための戦争だったのか」という問いに、勝者も敗者も答えられなかった。

政治家から、世論まで、外交面で今こそ、立ち止まる冷静さが必要ではないだろうか。未来は見通せないが、今は歴史の転換点であるかもしれない。だからこそ軽挙盲動を慎むべきということだけは、はっきりしている。

まもなく訪れるかもしれない「想像をしなかった破局」の後で、2014年の日本を振り返って「なぜあのとき、あんなに興奮していたのだろう」と思うときがくるかもしれない。それだけは私たちの世代は避けなければならない。

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写真は筆者知人より。1916年のソンムの戦いの戦死者墓地。英仏と独軍あわせて30万人の死者が出たが、4カ月の戦いで連合軍が13キロ前進しただけの戦果しかなかった。墓石が戦争の虚しさを伝える。

石井孝明
ジャーナリスト

メール ishii.takaaki1@gmail.com
ツイッター @ishiitakaaki

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