バロンズ誌、1914年の類似説を否定し急落を悲観せず --- 安田 佐和子

2014年01月27日 14:18

バロンズ誌は、今週号も前週に続きラウンド・テーブルの討議内容をお届けしてましたが、あえて今回は相場急落を分析するコラムを取り上げました。以下、ご笑覧下さい。

世界経済フォーラム(WEF)が開催されたダボスに今年も各国から政界、経済界、企業などあらゆるトップが集結した。23日にダウ平均が174ドル安、24日も300ドル安も急落し、ダボスで話題に持ち切りとなったのは言うまでもなく。21世紀の「破滅博士(Dr. Doom)」との異名をもつニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授は、リスク資産が次々に雪崩を打って急落する直前の22日、ダボスでこうツィートした。「2014年は1914年に似ている」と。尖閣諸島をめぐって、日中が戦争という「ブラックスワン」を引き起こすのか——悲観派の最高峰である同教授の胸によぎった暗黒シナリオは、ツイッターを通じ全世界の人々に拡散された。

金融危機の到来を的中させたとはいえ、常に悲観的な見解で有名です。

1914

(出所 : Twitter)

1914年といえば、欧州が第1次世界対戦に突入した年。類似点とは、当時のドイツと同じく中国が経済的にも軍事的にも勃興中であり、大英帝国の名を欲しいままにした存在が今の日本にあたるということだ。

現状は、本当に1914年に類似しているのだろうか?

むしろ、中国は2007-08年の米国と相似点が多い。米国は当時、サブプライム・ローン(低所得者層向け住宅ローン)を背景に信用の山を築いたツケがたまって金融危機を引き起こした。一方で、中国では債務超過の地方政府、炭坑会社、不動産開発業者の資金調達に投資銀行やヘッジファンド、投資会社などシャドー・バンキングが暗躍、大手銀行や保険会社を介し信託商品を販売してきた。マークイットのクレジット・リサーチ部門ディレクターであるギャバン・ノーラン氏は、シャドー・バンキングによる資金調達が2013年全体の3分の1を占めたと指摘する。砂上の楼閣のごとく膨れ上がった信用は中国が制御するかに掛かっており、市場関係者の一部はリーマン・ブラザーズのように「モラル・ハザード」の見せしめに一部を債務不履行させうると懸念する。とはいえ、世界経済全体に及ぼす影響を考慮するなら 、中国政府は救済を決断するのではないか。

仮に中国のシャドー・バンキング問題がスムーズに処理されるなら、エマージング諸国の通貨が売られたなければいけないのか。確かに、経常赤字の補填を海外直接投資に頼る「脆弱な5カ国(Fragile Five)としてトルコ、インドネシア、南アフリカ、インド、ブラジルが挙げられる。アジア通貨危機やロシア通貨危機に見舞われたタイ、ロシアにも、不安がくすぶる。とはいえ、エマージング諸国は主に自国通貨で資金調達を行って来た。自国通貨安に陥った場合でも、ドル建てベースでの借り入れより打撃は少なくなっている。

ではなぜ、エマージング通貨や株式相場が急落しているのか。

2つの理由が考えられる。

1つに、テクニカル的な要因がある。①トレ—ダーは現金化が簡単な高リターンのポジションから手仕舞いする傾向が高い、②急落中のポジション手仕舞いができない場合、別の投資先でショート戦略を講じる(例えばエマージング債を売らない代わりにS&P500のショートをふる)、③ポジション手仕舞いと同時に、資金調達通貨を買い戻す動きが加速する(円キャリーの巻き戻し)——ため、リスク資産の下落という負のスパイラルが発生するというわけだ。

2つ目に、ファンダメンタルズの要因がある。米連邦公開市場委員会(FOMC)による資産買い入れの追加減額だ。

S&P500は前年末のピーク時点から約3%下落したものの、2013年12月にテーパリングを開始したばかりで方向転換すれば、市場をさらなるパニックに陥れるだろう。また米10年債利回りはテーパリング開始後、上昇を続けるとみられたものの足元で30bp低下し24日には2.72%付近と落ち着いており、テーパリングを早々に中断させる理由はない。

恐らく現状のリスク資産の急落は、米日欧をはじめ低金利をテコに跳ね上がった資産の修正であり、適正な価格へ向かう調整の一環ではないか。S&P500が3%下落する間にVIX指数は50%急騰し18をつけたが、それでも米連邦政府機関が閉鎖されたた2013年10月8日の高値21.34には程遠い。

ニューヨークを訪れたシカゴ居住者いわく、摂氏マイナス10度の大寒波に対し「小春日和だね」。現時点の急落も、本物の相場氷河期 と比べれば緩やかものなのかもしれない。

以上、バロンズ誌が指摘するように「1914年と2014年の比較」、筆者もナンセンスという印象を禁じ得ません。誤訳といっても過言ではないせいか、あえて同誌は安倍首相の発言を取り上げ危機を煽ったりしていませんでしたよね。ルービニ教授の発言を取り上げたCNBCも、安倍首相の発言に触れながらも報道官の説明を引用。逆に中国による軍備増強と突然の防空識別圏の設定などが不安定要因とする内容を紹介していました。また格差拡大を受け「1914年より、欧州でウィーン体制が崩壊した1848年、あるいは社会主義および共産主義運動、学生運動が盛んになった1968年に似ている」と結んでいます。

ダボスといえばトーマス・マンの名作「魔の山」の舞台でしたが、山を降りれば戦場が待っていたなんて行き過ぎた悲観に過ぎないでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年1月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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