エネルギー資源の質の低下と経済成長

2014年01月29日 14:43

イギリスのTim Morganの“Life after growth: How the global economy really works – and why 200 years of growth are over”という本が昨年出版された。

主な主張は、エネルギー資源の物理的な制約から、経済成長は不可能になっている、ということである。 この主張自身は、実は新しいものではなく、既に、多くの地質学者が主張していることである(たとえば、「Global Equilibrium(持続可能社会)へのスムースな移行を目指して」で紹介したOlduvai理論)。しかし、最近のエネルギー資源のEROEIの動向(The future of oil supply)を取り入れて、定量的な考察を行っている点が、目新しいので、内容を紹介したい。


エネルギー効率の低下

エネルギー資源に求められるのは、安価であること、大量に手に入れることが出来ることの2つである。 

この中、安価に手に入れられる、という性質を物理的に表現したものが、EROEI(energy return on energy invested)で、これは、産出したエネルギー資源の持つエネルギーを、産出に要したエネルギーで割った比のことである。つまりEROEIが大きいということは、少ないエネルギーを使って、大きなエネルギーを得られることを意味する。

従ってEROEIが大きいほど、優れたエネルギー源である。しかし、現在、エネルギー資源のEROEIは下がり続けている。
EROEI-and-energy-sources

1900年台初め、原油のEROEIは100ほどもあった。しかし、現在の原油のEROEIは17、新規発見される油田のEROEIは凡そ10程度、深海油田やシェール資源といった新顔のエネルギー資源は10未満である。エネルギー資源の質が下がり続けているのだ。これは何を意味するのだろうか。

我々の生活全てに渡って、エネルギーはなくてはならない。

  物質的豊かさ = エネルギー投入量 × エネルギー効率

であるから、エネルギー投入量が減少すれば、生活の質は低下する。たとえば、牛肉が鶏肉より高いのは、同じ重さの肉を作るのに必要な飼料が3倍以上も必要なためで、それだけエネルギー投入量が大きいからであり、地鶏がブロイラーより高いのも、肥育に日数が掛かり、それだけ飼料(=エネルギー投入)が掛かるからである。

また我々の食卓に上る食品は、そのカロリーの10倍以上のエネルギーを使って、作られ、運ばれ、調理されたものである。このように、エネルギー資源のもつエネルギーは、実際に我々が使う(上の場合は、食べる)までに、元々のエネルギーに比べて大きく目減りする。

これは言い換えれば、EROEIが高いエネルギー資源を採掘することによって得た、余剰エネルギーを社会で上手に分配して使っているから、今日の工業文明は成り立っているのである。たとえばEROEIが3以下の資源では、遠くに運ぶだけで、エネルギーロスが、余剰エネルギーを食い尽くしてしまうという。
 
ではエネルギー資源にどの程度のEROEIが必要だろうか? Hall教授らの研究What is the Minimum EROI that a Sustainable Society Must Have?によれば、エネルギー資源のEROEIが平均10以上ないと我々の文明は成り立たないとされる。

量があるだけでは何故駄目なのか

どんなに生産効率が悪くても、大量に存在する資源なら、頑張って採掘すればよいではないか、と思う人も多いだろう。 しかし、それは正しくない。

一時、250年分の天然ガスと持てはやされた、シェールガスだが、現在、その先行きに暗雲が立ち込めている。 シェールガス田はガスの産出が始まって3年経つと産出量が75%以上減少してしまうので、常に新しい井戸を掘り続けないと継続生産が出来ないからである。 藤和彦氏の記事:『「シェールガス」バブルの崩壊は目の前、日本のエネルギーが危ない』によると、シェールガス田の自転車操業に必要な費用が米国全体で2012年に420億ドルに達しているが、これでも全米のガス需要の40%を供給するにとどまる。このことだけから考えても、シェールガスは、主要エネルギー源になるとは考えられない。シェールガス事業は2012年度、年間100億ドルの大赤字だから、今後、シェールガス価格は大幅に上昇するか、ガス産出は減少せざるを得ない。

このように、低EROEIのエネルギー資源は、あくまでアドホックなものであって、主要エネルギー源にはならない。 シェール資源やオイルサンドは、いくらその埋蔵量が膨大でも、そのエネルギーだけで生活するのは困難なのだ。

エネルギー効率の低下は具体的に何をもたらすか

エネルギー資源のEROEIが低下すると、生産コストが上昇し、エネルギー価格が高騰する。しかも、悪いことに化石燃料エネルギーのEROEIは今後、必ず低下する。なぜなら、エントロピーは増加する一方だからである。

だから、化石燃料に依存している限り、エネルギー価格は上昇し続ける。なぜなら、シェル石油が1バレル$100の水準でも油田の発見、開発コストが嵩み、減益した事実 が示すように、化石燃料の新規発見、開発のコストは急上昇しており、たとえ、経済がエネルギーコストに耐え切れず、需要が縮小して価格が低下したとしても、エネルギー資源の新規開発が滞り、これがエネルギー資源の供給を低下させるからである。 エネルギーコストが高くなり過ぎれば、経済成長は困難になる。

それでは、エネルギー価格が、どの程度高くなれば、経済成長は不可能になるのか、というと、イギリスのシンクタンクnefの研究報告書:The economics of oil dependence: a glass ceiling to recoveryによれば、原油が1バレル100ドルを超える水準では先進国の経済成長は困難になるのだという。

これは概ね妥当な水準だろう。 

次のグラフは、Tim MorganのLife after growthからの転載で、EROEIと、エネルギーコストがGDPに占める比率を表している。
Energy-returns-vs-cost-to-GDP

これを見ると、エネルギーコストが2020年前後にはGDPの10%を超えてくる。日本の場合、年間、現在価値で4-50兆円のエネルギーコストを必要とすることを意味する。こうなってくると、経済成長どころではなく、その先のエネルギーの崖へとEROEIが低下してゆく中では、経済の絶え間ない縮小が続くと見てよい。

真の問題は金融と実体経済の乖離

このように、我々の前には、経済成長の終わりが待ち構えている。このことが何故、問題なのかというと、金融システム、乃至、資本主義自由経済が、指数関数的成長を前提としているからである。

日本はバブル崩壊後、0.9%前後の成長を続けてきたが、この成長率が低すぎたため、国債の発行残高は増え続け、政府債務はGDPの200%を超えてしまった。このような事情は、程度の差こそあれ、先進国に共通する問題である。

昨年のサマーズ氏のIMFでの講演で、触れられているように、最早、自然利子率がマイナスという状況に、先進国は突入していると見てよい。
今後は、先進国のエネルギー代謝、物質代謝が、低下し続けることは、上で観察した物理的制約から明らかであり、この状態は、ほぼ永続的に続くのではないかと思われる。

だとすれば、成長を目指すよりも、指数関数的な成長を前提とした金融システムを、現実に合ったものに変更するべく、経済学者は知恵を絞るべきではないだろうか。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑