「処遇に不満のある年収200万円」はごく普通の人 --- 城 繁幸

アゴラ

先日、「アクリフーズ」群馬工場の農薬混入事件で容疑者の男が逮捕されたが、男の職場環境を巡っていろいろ議論が起きている。

当たり前の話だが、面白くないことがあったからと言って農薬入れるなんてやっちゃいかんわけで、その点で情状酌量の余地は一切無いが、背景を論点整理しておくのは意義のあることだろう。というわけで、現時点で思うところをいくつかまとめておこう。


正社員との格差は日本企業全体の問題

正社員との間に、生産性では説明できないほどの大きな格差があったかどうかは、現時点では何とも言えない。ただ、日本企業の現場というのは、賃金に競争原理が働きづらいため、景気の良い時に好条件で就職した50代の正社員(時給3000円超とか!)と氷河期世代のフリーター(時給千円以下)が平気で同じ仕事をしていたりする。で、そこに派遣社員がいたり請負がいたり、もうなにがなんだかわからない百鬼夜行状態なわけで、誰も賃金格差の理由なんてわかっちゃいないのが実情だ(今度は限定正社員なるものが出来るそうだから、カオス状態にはますます拍車がかかるだろう)。

「入社時に結んだ契約は何があっても絶対に保護すべきだ、負け組は生まれた時代を恨め」というのが厚労省のスタンスだが、それで納得できる人は多くは無いだろう。正社員と非正規の格差問題というのは、日本企業共通の課題と言っていい。

賃金への不満は無い方が珍しい

「容疑者が処遇に対する不満を口にしていた」という報道もあるが、筆者の経験で言うと、どこの労組でもアンケートとるとたいてい過半数の従業員が賃金に不満を抱えているもので、それ自体特に違和感は感じない。ちなみに、以前1社だけ「従業員みんなが現在の賃金に満足している」という企業の人に会ったことがあるが、創業者の著作を全部そろえて手帳に格言とか書いてる目のすわった人だった記憶がある。

地方の工場で年収200万円は別に珍しくない

容疑者の年収200万円という金額も話題となっているようだが、地方の工場だと別に違和感は感じない。東京の感覚で言えば「学生のバイトレベル」なのかもしれないが、とにかく今の地方は仕事が無いのだ。

「でも年収200万円じゃ人生設計なんて出来ないだろう」という声もあるだろうが、そもそも会社に従業員の人生設計なんてする義務はない。それは国の仕事であり、雇用と社会保障を切り離した上で、現役世代向けの新たな社会保障制度を作るのが筋だ。

従来、国は終身雇用の名の下、国民の人生設計を民間企業に丸投げしてきた。結果的に現役世代向けの社会保障は、GDP比で他の先進国の半分程度に抑制できたものの、それを提供できる大企業に入れる人材と入れない人材との間に深刻な格差を生じさせた。

厚労省はバカの一つ覚えのごとく「非正規の正規雇用化」を推進しようとやっきになっているが、地方で年収200万円で働いている人は冷静に考えてみるといい。ある日突然、会社が「自分の人生設計が成り立つくらいの金額」をポンと出してくれるなんてことがありえるだろうか?そんなことが出来るのは政府だけである。

まだまだ事件の背景などはこれからいろいろ判明するだろうが、日本の労働市場や社会保障の歪みがいろいろと垣間見られる事件であることは間違いないだろう。

※個人的には消費税引き上げ+給付付き税額控除がおススメだ。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2014年1月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。