ロビーイング2.0のすすめ(その1)

2014年02月07日 18:08

2月3日付 日経新聞朝刊1面に掲載された、「企業とルール:『守る』から『創る』へ ㊦ ロビー活動 信頼も作る」と題する記事は、ロビー活動が活発な米国で起きている新たなうねりを紹介している。ニューヨークタイムズ紙が「ロビーイング2.0」と呼んだ動きである。 「著作権法がソーシャルメディアを殺す」のエピローグ 「ロビーイング2.0のすすめ」で紹介しところ、日経記者から取材を受けた。記者の質問に答えるために脱稿後の動きも調べたので、以下、それらも含めて紹介する。ネット選挙がようやく解禁された日本でも、ネットユーザーにとって示唆に富むロビーイング手法だからである。


ウィキペディアサイトのブラックアウト
ニューヨークタイムズ紙が「ロビーイング2.0」とよんだ現象は、 上書の第1章 「世界の潮流に逆行する日本の著作権法」で紹介したので、以下、その抜粋をもとに補足する。

2012年1月18日、ウィキペディア英語版の画面が真っ黒になり、丸1日サービスが停止(ブラックアウト)された。サイトには米下院に提案されたオンライン海賊行為防止法案(Stop Online Piracy Act:SOPA)、上院に提案された知的財産保護法案(Protect IP Act:PIPA)に反対する声明が表示された。グーグル、フェイスブックなどネット大手もネット上での抗議を呼びかけた。SOPA、PIPAとも、司法省に著作権侵害行為を行っている米国外のサイトへのアクセスや送金を停止する権限を付与する法案である。

カリフォルニアの南北戦争
米国では著作権関連の新たな立法や既存の法律の適用をめぐっての裁判は、「ハリウッド対シリコンバレー」のカリフォルニアの南北戦争に発展するケースが多い。著作権保護強化を主張する南カリフォルニアのハリウッドと、著作権法が想定していなかった新技術が生み出す、便利な新製品・新サービスをユーザに提供しようとする北カリフォルニアのシリコンバレーの攻防である。

今回も北カリフォルニアのネット企業は、SOPAが提案された翌月の2011年11月、グーグル、フェイスブックなどネット大手9社が連名で、上下両院の司法委員長に反対の手紙を送付した。手紙の内容は主要紙にも全面広告で掲載された。中国などが使用している技法を用いて米政府にウェブを検閲する権限を与えるものだと批判した。

均衡を破ったネットユーザーの声
今回「ハリウッド対シリコンバレー」の綱引きの均衡を破ったのが、ネット企業の呼びかけに応じたネット市民の抗議だった。図のウィキペディアの黒塗りサイトには1億6千万人以上が訪れた。白抜きの文字部分には以下の説明がある。

知の自由が奪われた世界を想像してみよう
われわれは人類史上最大の百科事典をつくるために10年以上にわたって、数百万時間も費やしてきた。合衆国議会は現在、自由でオープンなインターネットを致命的に脅かす法案を審議している。この事実を知ってもらうためにウィキペディアを24時間ブラックアウトする。詳細はこちらへ

あなたの選挙区の議員にコンタクトしよう
あなたの郵便番号 

郵便番号を入れる白抜きのボックスに自分の番号を入れると、選挙区の議員の名前が出てくるようにして、コンタクトしやすくしている。

こうした至れり尽くせりの仕組みも手伝ってか、3000本の抗議電話を受けた上院議員もいた(英ガーディアン紙)。抗議を受けて、それまで法案を支持していた議員が次々と支持を取り下げたため、ブラックアウト2日後の1月20日、両院とも法案の審議(下院)や採決(上院)の延期を発表した。

今回の両法案をめぐる攻防もネット企業が抗議運動の音頭を取った点では、きっかけはいつものカリフォルニアの南北戦争の再現だった。しかし、抗議運動に加わったネット市民が議員を動かして、両法案を棚上げにした帰結から見ると、「ハリウッド対ネット市民」の戦いだったともいえる。

定評あるハリウッドのロビー力をも凌駕
これまでハリウッドは、豊富な資金力にモノを言わせて提案した法案をほとんど通してきた。著作権保護期間を20年延長した98年の著作権保護期間延長法は、旧法では2003年に保護期間の切れるミッキーマウスの著作権を2023年まで延長するためにハリウッドがロビー力を駆使して実現したため、ミッキーマウス保護法と揶揄された。

今回の著作権強化法案のロビーイングにも2011年だけで9400万ドル使った。しかし、資金力はないが数では圧倒するユーザーの反対の声が政治家を動かし、廃案に追いやった。ネット市民の票の力がハリウッドのカネの力を凌駕したわけである。こうした全く新しい形態のロビー活動をニューヨークタイムズ紙はロビーイング2.0とよんだ。

ソーシャルメディアとスマホ普及の産物
ロビーイング2.0出現の背景には、ソーシャルメデイア、特にフェイスブック、ツィッターの利用の爆発的拡大がある。政治家、議員、行政機関、報道機関などがこれを積極的にかつ最大限に活用している。さらに有権者がネットに容易にアクセスできるスマホの普及も大きい。ソーシャルメディアとスマホの爆発的普及が政治家と有権者の距離を縮める効果をもたらし、それらがロビーイング2.0を産む土壌となっている。

米国で著作権強化法案を葬り去ったロビーイング2.0は、ただちにヨーロッパへも飛び火し、2012年7月、欧州議会は日米が主導した著作権強化条約の批准を見送った。その動きおよび日本へのインプリケーションについては、(その2)で紹介する。

城所岩生

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