需要不足はなぜ起こるのか?

2014年02月08日 12:21

著名経済学者のサマーズ氏が、需要不足から、先進国経済が長期停滞に入った可能性があると警鐘を鳴らしている

ここでは、何故、需要不足が起き、何故、先進国経済は長期停滞に直面しているのか、また、それをどう乗り越えるのかについて考えたい。


エネルギー制約

サマーズ氏の言うように、現在、我々の直面している問題は、需要不足である。それでは何故、需要不足が起きているのだろうか? これを解く鍵は、エネルギー制約にある。

前記事:「変調をきたす石油生産」で書いたように、現在、原油生産は停滞しており、原油輸出量は既にピークアウトしている。 石油メジャーは、その油田開発コストが巨大化しており、現在の1バレル100ドル前後の原油価格では、開発投資を縮小せざるを得ない状況に直面している。実際、油田の発見の推移を見ると、1960年をピークに減少しており、新しい油田を発見することは、加速度的に困難になっている。

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([M-S]から転載)

原油生産がピークアウトすると、その後は、年に少なくとも2%の減産が予測されているが、これは実際にはもっと大きくなる可能性が高い([M-S])。原油生産が2%減少することによる、エネルギー生産の減少は、出力1GWの原発90基分に相当する。これは、現在、世界で稼働中の原発の約4分の1に相当する。つまり、原油生産がピークアウトした時点で、エネルギー生産の減少を埋め合わせるには、毎年、原発を90基作らなくてはならない計算になる(これは日本で考えると毎年10基以上の原発を建設するペースである)。これは、どう考えても不可能である。

こうした状況下で、一人当たりのエネルギー使用量は、先進国では既に停滞し、エネルギーコストは急上昇している(アメリカの例を下に挙げる。赤線が一人当たりエネルギー消費、緑線が一人当たりのエネルギー支出)。

US-Per-Capita-Energy-Consumption-and-Expenditures-EIA

需要不足は何故起きるか

こうした、エネルギーコストの急上昇は、実質賃金の低下をもたらしている。

wage-base-divided-by-gdp

[T]から転載)

従って、先進国では、実質賃金の低下とエネルギー価格の高騰ににより、消費者の購買力が低下している。 しかし、消費が減退すると経済成長は困難になる。そこで、消費を増加させるために、先進国は、負債を膨張させてきた。 たとえば、アメリカの住宅バブルに見られるような、個人負債の増大、政府債務の増大である。日本の場合を振り返ると、財政赤字を巨大化させながら、公共事業を行うなどの、ばら撒き政策が実行される一方、必要な増税は先送りされてきた。

しかし、こういった、負債の増大による消費の維持は最早限界に達している。

最近の先進国経済の姿を俯瞰すると、アウトソーシングで生産が新興国に移転する一方、負債の増大による消費拡大が起きており、これは持続可能ではない。  

「壊れゆく資本主義」に書いたように、エネルギー制約がある場合には、リカードの比較優位論は、成り立たない。つまり、先進国から新興国への生産の移転が起きても、エネルギー制約から、既成の需要の外側には需要が生まれないために、先進国で新しい産業が生まれ難いのである。 グローバル化は先進国を貧しくし、新興国を富ませるのである。 しかも、これは不可避なのだ。

現在の先進国は、国内生産(国内での価値創造)を減少させながら、負債の増大によって、消費を支えている状況であり、これは持続可能ではない。

先進国は消費を減少させる必要に迫られているといえる。日本の場合は、国内生産の空洞化と、化石燃料の高騰により、貿易赤字が定着し、経常収支も赤字に転じる兆しを見せている。経常収支の赤字が定着すれば、政府債務の金利が上昇する危険性が増すため、これ以上の債務拡大は困難になってきている。

行き詰まる成長物語

債務の拡大が困難になっている現在の先進国では、普通にやっていたら、モノは売れず、成長はできない、という状況に陥っている(自然利子率がマイナスになっている)。
 
だから、経済成長にも「物語」が必要になっている。 それが「IT革命」、「金融革命」、「シェール革命」である。

しかし、これらは全て実体を伴っていない。実際、IT革命、金融革命はバブルを生んだだけだった。そして、現在進行中のシェール革命にも実体はない ([FT1], [FT2] 参照)。現在、アメリカの景気が持ち直しつつある大きな要因はシェール革命だが、これは、石油メジャーや日本の投資でシェール資源を採掘する一方、生産過剰でガス価格が暴落したために、不良鉱区をつかまされた企業が大損失を蒙る一方で、アメリカが安いガスや雇用をを手に入れたためであり、持続可能性はない([F])。大阪ガスが不良鉱区をつかまされて、290億円の損失を出したことは記憶に新しい。

従って、現在、新たな成長物語は、どこにも見当たらないと言ってよい。

多くの経済学者が、グローバル化の推進の必要性を説くが、空洞化する先進国の国内生産を埋め合わせるだけの産業創出は、エネルギー制約にブロックされた状態である。

エネルギーと経済成長のデカップリング

現在、[K-M]が示すように、エネルギーの化石燃料依存を減少させる社会の低炭素化が必要であり、エネルギー使用量を減少させながら、経済成長を実現するという、エネルギーと経済成長のデカップリングが必要なのである。

これは、極めて困難ではあるが、これを実現する方法は、基本的には、低モバイル社会の実現、つまり人やモノの移動を如何に最小化するか、ということであり、都市への人口の集中、通勤せず、自宅で仕事をする人を増やしたり、航空機による生鮮食料品の輸出入を控えるといった政策が求められよう。

その一方で、製造業のアウトソーシングで失った、国内の価値創造を埋め合わせる、国内での価値創造を行わなければならない。

参考文献 

[F] なぜシェールガスはカベにぶつかっているのか(東洋経済)

[FT1] US shale is a surprisingly unprofitable miracle

[FT2]Is shale a miracle, revolution ? or bandwagon?

[K-M]Oil’s tipping point has passed, King and Murray

[M-S] The future of oil supply, R.G. Miller and R. Sorrel

[T] Gail Tverberg High Oil Prices Are A Bigger Problem Than You Realize

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