地方私立大学の一年生課程を予備校化しよう --- 酒井 峻一

アゴラ

日本では大前提として少子高齢化と、就職活動に便利な首都圏の大学の方が人気という実態があり、また大学進学希望者の割に大学数が多いと指摘されているため、地方私立大学の窮状を解決することは非常に難しい問題です。

地方私立大学の問題といえば
・定員割れ
・学生の学力低下
が大きいでしょう。他にも問題点は挙げられるかもしれませんが、基本的にはこの二つが大きいはずです。


大学の定員割れを解決するには付属校や留学生を利用して増やすという即席的手法もありますが、私としては学生の学力について良好な循環を形成することが有用だと考えます。

この場合の良好な循環とは、学力の低い学生の学力向上⇒勉強が楽しくなる⇒益々の学力向上と中退率の低下⇒就職実績の向上⇒その学校の人気拡大、という循環です。

そのために提言したいのが、窮地に立たされている地方私立大学(文系学部)の一年生課程を予備校化することです。

具体的には、その実験対象校に限っては、まず志望者に面接を課し、そこで意欲があると認められた者は「新制予科」に入学してもらいます。学力を問われずに入学できるので当然、入学者の平均学力は低いはずです。次に彼らの学力レベルについて、英語と国語と社会科一科目と作文能力を4月から12月までの9カ月間で偏差値60付近にまで押し上げます。この間、通常の大学の教養課程で行われている教養論や概論などはあまり行わずに夏休みもなく、講師とメンターと通信授業の下で基礎学力を上げてもらいます。

学力の低い学生が9ヶ月間で偏差値を60付近まで上げるなんて不可能だと思う人もいるでしょうが、英語・国語・社会という文系三科目ならば可能です。作文能力については国語や英語と並行して学んでもらえば向上するでしょう。

学生の基礎学力を上げると一部の学生が都市部の有名大学を再受験する行動に出ると考えられますが、それは一向に構いません。合格すればその大学に入学し、落ちたら当初の大学で二年生に上がってもらえばよいだけのことです。

もっとも、入学した学生の大部分が他大学に流出しては、普通の予備校と殆ど変わらず大学として形になりませんから、その大学の学費については一年目のみを高めに設定し、二年目以降を安めに設定すれば、インセンティブと学生数をある程度コントロールできます。このような実験案には、とくに他大学の流出が著しい水準にあるときには、文科省による補助金も必要でしょう。

一年生から二年生への進級要件については、センター試験と同じ問題か同水準の問題を、例えば三科目平均で7割5分以上とれれば進級させることにします(センター試験文系三科目での7割5分得点は偏差値60に達していないでしょうが、進級要件としてはこんなものでしょう)。そして7割未満で留年、7割以上7割5分未満の得点で追試あるいは小論文試験を課したりすればよいでしょう。日本の大学は入学試験が難しく進級が易しいと指摘されますが、この案においては一年次から二年次の進級が大学入試としての形を実質的にとっているため、勉強に慣れていない人にとっては多少難しいということです。

大学二年生以降については一般の大学と変わらず、学生は教養課程として特定の学部学科を選択し、さらに三年生・四年生を専門課程とします。一年次で取得できる単位が少ないので、上級生課程で取得させる単位数は多めに設定せねばなりません。

従前の地方私立大学のように基礎学力が低いまま専門課程に突入させるよりも、基礎学力を上げてから教養課程・専門課程に入らせて上げた方が、大学での授業が楽しく感じられるはずです。勉強が楽しくなれば学力の向上と中退率の低下が進行し、就職実績も上がるでしょう(一年次での他大学への再入学は中退に含めないものとします)。

首都圏の大学との人気格差を是正するために、この実験は学生集めに不利な地方にのみ認めれば、より効果的でしょう。地方の方が都市部よりも娯楽が少ない分、基礎学力の向上に集中できるはずです。

実験が成功すると入学者偏差値が上がってしまうでしょうが、そうなったら適用校を改めたり、進級要件の点数を上げたりすれば、制度は維持できるはずです。これは理系教育にも応用できるかもしれません。地方の私立大学は厳しい状況におかれている以上、このくらいの改革を実施したり実験したりしないと生き残れないでしょう。

これでも大学の淘汰は進行すると予想されますが、それは致し方ないこと。現代日本の状況は大学に限らず、それだけ厳しいのだと思います。

『近代:社会科学の基礎』著者(個人事業主)
酒井 峻一
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