経常収支・貿易収支赤字の何が問題か?

2014年02月28日 12:42

経常収支は,赤字が悪くて黒字が良いというものではありません。けれども,それはそうかもしれないけれどもやはり,黒字から赤字に大きく変化しているのには理由があり,それが日本経済にとって良いのか悪いのかは考えておくべきでしょう。

私は,構造問題が収支赤字に反映されていて,日本経済は大きな変化の過渡期にあるかもしれないと考えています。そこで,いくつかの論点のうち,貿易構造の変化から収支赤字の問題点を指摘したいと思います。

<参考:ちょど,先日のロイターの記事に「焦点:貿易赤字拡大の裏に構造変化、太陽電池・半導体・スマホ輸入急増」(2014年 02月 25日)というのがありました。>


経常収支の赤字化について,短・中期的な論点は3つあると考えています。(長期的には少子高齢化も。)

1つはコスト高で,エネルギー価格の上昇,円安,原子力発電の停止によるものです。このコスト高は主に電気代の上昇につながります。電気はおよそ1/3が家庭で使用されています。たぶん皆さんの家庭でも,以前と比べで数千円程度,月の電気料金が増えたのではないでしょうか。さらに増えます。

2つめは,こちらでも書いたように,海外からの短期資金流入です。この構造はEU債務危機後に生じました。当初は国債など債券でしたが,最近では株式市場でみられます。このような資金の流入は,今後,金融市場において激しい変動が生じる可能性があることを意味しています。

そして3つめが貿易構造の変化です。

私は,円安になっても輸出は増えないと考えていました。(「円安がすすむと日本経済にどのような影響を与えるのか?」2013年1月21日)ただ,それでもスマホ普及の影響は甘く見ていました。

下の図は,スマホなどの通信機の輸入額(円建て)と,音響映像,電子部品,カメラなどの科学光学機器の輸出額(円建て)について,3ヵ月ごと(四半期)の額の推移を示したものです。2013年の輸出額は点線にしています。

図から明らかなように,通信機の輸入は,円安・円高にかかわらず増え続けてきました。2010年後半と2013年後半とで比べると,約2.4倍の増加です。(2013年の増加には円安による円建て額の増加も含まれています。)

一方で,これまで日本が得意としてきたような電気機器などの輸出はまったく増えていません。そして,円安や円高はそれほど影響していないように見えます。

大学生をみると,テレビ,オーディオ,パソコン,固定電話などを持っていない人が結構いますが,すべてスマホでできます。図からは代替効果までは分かりませんが,おそらく,スマホの輸入が増大して,日本製のテレビや音響機器,映像機器の輸出が抑えられるというのが,マクロ経済でもみえるようになったのではないでしょうか。

exim2013_01

(出所)財務省「貿易統計・貿易概況」より作成。

さて,貿易全体では天然ガスなどの鉱物性燃料の輸入額が膨らみ,日本からの輸出が増えなくて,貿易赤字となっています。次の図は,鉱物性燃料輸入額と,輸出の中心である自動車一般機械の輸出額の推移を示しています。

私は,EUなどの世界経済が回復してくれば,Jカーブ効果は小さくても輸出は改善するのではないかと考えています。けれども,改善したとしてもその規模は,輸入増加に比べるととても小さいだろうというのがわかります。

たとえば,自動車産業は最近好調ですが,輸入増と比較すると輸出額の伸びは小さいものです。また,2010年の1ドル82.5円の円高時と比べると,最近の円安の影響はほとんどないように見えます。

おそらく,自動車産業は消費税駆込みの内需や,現地生産で利益を伸ばしているのでしょう。駆込み需要はもうすぐ消えるため,その反動に備えておく必要があります。そうすると,円安で自動車会社の(海外生産による)利益が維持されたとしても,日本国内の生産は増えなくなるため,とくに中小企業での景気感の改善はなくなってしまいます。

exim2013_02

(出所)財務省「貿易統計・貿易概況」より作成。(注)図中には,2010年第4四半期と2013年第4四半期の期中平均の為替レートが示されている。

いずれにしても,円安でも円高でも,海外経済が回復しても,どうやっても貿易収支赤字が大幅に改善される見込みがありません。構造的な問題だからです。(経常収支については,海外資金の動向からも影響を受ける。)

こう考えると,日本経済が工業生産において今後も繁栄を維持するというのは,とても難しい課題だということが分かります。貿易収支や経常収支の赤字はその一側面に過ぎませんが,背景には構造問題があります。そして,そのカギとなるのがエネルギーです。

( 日本経済の動きを構造的に理解するための教科書を3月に出版します。是非,読んでみてください。『入門 日本経済論』(新世社) )

岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)
@tsuri_masao

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