日韓問題をこじらせる外務省の前例主義

2014年03月07日 01:04

慰安婦問題はこじれにこじれて、外務省も訳がわからなくなっているのではないか。ジュネーブの国連人権理事会で、岡田大使が「河野談話を見直すとは一度も言っていない。菅義偉官房長官も政府の立場は河野談話の継承だとしている」と「反論」したのは大失敗である。官房長官は「南京大虐殺の否定」に反論しただけで、河野談話を継承するとはいっていない。結論が決まっているのでは、河野談話の「作成経緯を検証」する意味がない。


2007年にも、第一次安倍内閣で

慰安婦問題については、政府において、平成三年十二月から平成五年八月まで関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかったところである。

という答弁書を閣議決定して「強制連行」を否定したのに「[河野]内閣官房長官談話のとおり」と書いたため、韓国側が「強制連行を認めた河野談話を継承する」と解釈した。このときも「河野談話の部分は必要ない」と安倍首相は難色を示したといわれるが、外務省が前例主義を押し通したため、河野談話を撤回する閣議決定が台なしになった。

このような前例主義が、戦前から続く霞ヶ関のDNAである。官僚が交渉するときの殺し文句は「それは前例がない」だ。官僚機構では既成事実が唯一の参照点なので、一度コースをはずれると、ますます大きくはずれてゆく。1941年の御前会議では、開戦を避けようとする近衛首相を東條陸相は「それは方針を決める時にいうことだ。決まった以上は断固としてやり抜くしかない」と叱りつけ、近衛は辞職した。

こういう前例をリセットして目的を設定するのが政治家の役割だが、自民党にそういうアジェンダ設定のできる政治家はほとんどいない。今回も外務省の中で、勝手に前例踏襲の「反論」が決まったのではないか。これで今の内閣では、河野談話の見直しは不可能になった。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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