消費税は「第2法人税」的な性質をもつ

小黒 一正

今年(2014年)4月から現行5%の消費税率が8%に引き上がる。その際、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため、「消費税転嫁対策特別措置法」(以下「特別法」という)が昨年(2013年)10月1日から施行されている。

2003年税制改正で消費税法63条の2が新設され、2004年4月1日から、「総額表示」(消費税額を含む価格表示、内税方式)が義務付けられた。新設の理由は、当時まで主流だった「税抜表示」(消費税額を含まない価格表示、外税方式)では、消費者がレジで請求されるまで最終的にいくら支払えばよいのか分かり難く、また、同一の商品やサービスでありながら「税抜表示」と「税込表示」が混在しているために価格の比較がし難いといった問題が生じていたためである。

しかし、上記の特別法第10条により、一定の期間(2013年10月1日-2017年3月31日)、「総額表示」(内税方式)のみでなく、「税抜表示」(外税方式)も認められるようになった。理由は、2014年4月や15年10月の二度にわたる消費税率の引上げに際し、事業者による値札の貼り替えの事務負担などに配慮するためと説明されている。

この理由は一見常識的で妥当に思えるが、「消費税は第2法人税的な性質をもつ」ことが分かってくると、やや奇妙な対応に思えてくる。


そもそも、消費税に対する一般的な誤解は、「消費税は個々の財・サービスごとに課税している」という見方である。しかし、これは正しい見方でない。理由は単純で、消費税の納税方法には「個別対応方式」と「一括比例配分方式」の2方式があるが、大雑把に表現すると、消費税の納税方法は「(売上-仕入)×消費税率」であるからである。

このため、内税方式では次のような価格設定も可能である。いま議論を簡略化するため、仕入がゼロのX社が、消費税5%込みの価格で105円の商品Aを10個、210円の商品Bを20個販売しているとする。税抜きの売上は5000円で、消費税の納税額は250円(=5000円×5%)である。

このとき、消費税が8%になると、商品Aの価格を108円、商品Bの価格を216円に設定する必要があると思われているが、価格支配力の強い商品Aの価格を120円に引き上げ、競争の激しい商品Bの価格を210円に据え置くことも可能である(注:具体的事例は、こちら14ページの増税に伴う鉄道の運賃改定などを参照)。どちらも、税抜きの売上は5000円で、消費税の納税額は400円(=5000円×8%)である。

つまり、消費税は販売した個別の財・サービスに対する課税でなく、企業の付加価値である「粗利」(=売上-仕入)に対する課税となっている。やや大雑把には、「最終利益=(売上-仕入)-(人件費等の経費+減価償却費+利払い費)」であるから、法人税の課税ベースは「最終利益」であるものの、消費税の課税ベースは「最終利益+人件費等の経費+減価償却費+利払い費」となる。

すなわち、「重箱の隅を楊枝でほじくる」議論をすれば色々差異はあるが、企業側の視点に立つと、消費税も法人税も基本的に企業の付加価値に課税する税という点では同じなのである。このため、昔から一部の間で、消費税は「第2法人税」とも呼ばれる(注:家計の視点に立つと、消費税は比例賃金税の性質をもつ。詳細はこちら)。

もっとも、企業側の視点に立つと、「消費税が第2法人税」的な性質をもつ」からといって、法人が税(例:消費税や法人税)を負担する訳ではない。法人は単なる「導管」に過ぎない。「法人」が税負担をするのではなく、「税の転嫁や帰着」を通じて、暗黙裏に企業の「顧客」や「従業員」「株主」が負担を強いられている。それは、税負担分、消費者価格を引き上げたり、賃金や配当を減少させる必要があるためである。

いわゆるメディア等の「常識」では、消費税は前者(消費者価格を引き上げ)の傾向が強く、法人税は後者(賃金や配当を減少)の傾向が強いと思われているが、「消費税は第2法人税的な性質をもつ」という視点に立つと、「違う風景」が見えてくるはずである。消費税と法人税の違いは消費者への価格転嫁に対する公認性の存否にあり、それが実際にどの程度可能かは別問題である。

このような視点に立つ場合、法人税と異なり、なぜ消費税だけが、「税抜表示」と「税込表示」の違いに拘り続けるのか、やや奇妙な対応に思えてこないだろうか。つまり、内税方式のみで十分なのである。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)