収益ビルやマンションの耐震対策問題を考える --- 江本 真弓

2014年03月16日 11:28

東日本大震災から早3年。震災後、旧耐震基準建築物の耐震対策の必要性がクローズアップされたが、政府の強力な推進政策にも関わらず対応の腰は鈍い。多少落ち着いて考えられるようになった現在、旧耐震基準建築物の耐震対策の問題について、一般収益ビル・マンションの観点から提起したい。


旧耐震基準建物の全ての建物が倒壊する訳ではない
あたかも全ての旧耐震基準建築物が耐震対策を施さなければ、震災で倒壊するかのように言われがちだが、それは違う。耐震対策が必要とされる建物は、旧耐震基準建物のうち耐震診断で構造耐震指標Is値が0.6以下の建物だけだ。

また法律による耐震対策義務付けは、特定建築物(旅館・百貨店・大型ビル等)学校等(耐震改修促進法)及び東京であれば「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」対象建築物のみ。加えて分譲区分所有マンション及び住宅は地方行政の支援制度がある。しかし一般ビル・マンションに対しては、何ら法制度及び支援制度は存在しない。

耐震診断には問題が多い
それでも耐震診断くらい受ければ良いと思われるかもしれないが、耐震診断には問題が多い。例えば同じ建物で複数の耐震診断を受けると結果が異なる。というのも何しろ築30数年以上のビル・マンションでは、竣工時の構造計算書が残っていないことがほとんどだ。

だからといってコンクリート調査等を行えば、それだけで数千万円かかる。多くの場合、不十分な情報で耐震診断を受けざるを得ず、不足の情報は耐震診断を行う建築士の判断で補われる。結果はばらつく上、不足情報は保守的に考慮される傾向があるから、厳しい結果になりがちだ。これではおいそれと受けられない。

耐震補強も難しい
耐震補強も難しい。現在の耐震補強の主流は大まかに2つ。建物にブレースと呼ばれる補強枠をつける方法と、内部に補強壁を追加する方法だ。

ところが建物外側のブレース設置は、建物外観を損なう。工事は大がかりで内部使用者の負担も大きい。繁華街に多い建蔽率100%の商業地防火地域では、土地いっぱいに建物が建てられており、外側にブレースを付ける余地が無い。

一方建物内部のブレースもしくは補強壁の追加は、収益ビル・マンションにとって貸床面積の減少を意味する。工事のためには、現在のテナントを退去させて空室にし、工事後は再度内装工事も必要だ。収益に余裕がある大型ビルならばともかく、収益規模の小さい中小ビル・マンションにとって、経営として不可能だ。

問題は建物耐震対策だけではない
耐震対策が難しい理由は、技術問題だけではない。

収益ビルオーナー・マンションオーナーと言えば、未だ左団扇の印象が強いが、現在多くのビル・マンションの経営の実情は大変厳しい。街を見れば一目瞭然だが、古い一般ビル・マンションでは、賃料は下落し空室も多い。

一方で老朽化建物設備の維持更新に多額の費用がかかる。固定資産税の負担は重く、借入金返済が残っている場合も少なくない。例え多少の補助金・助成金が出たところで、耐震対策費用の重さは変わらない。しかも耐震対策は、建物が崩壊しない技術レベルの目安であって、震災後に建物が使用可能な状態であることまでは保証していない。

より深刻な問題は、現在の日本では、収益ビル・マンション経営に今後のビジョンが持てない現状だ。なにしろ今後日本は人口が減少する。いつまでテナントが入るか分からない建物に、高額の耐震改修投資は出来ない。

かといって今後の需要が不確かな時代に向けて、容積率をオマケしてあげると言われたところで建替えも難しい。「また」巨額の負債を負って大きな建物に建て替えたところで、今から20年後30年後にテナントが入居を続け無事に借入金の返済が出来る保証はどこにもない。

もちろんだからといって、自らの利益のために所有ビル・マンションが原因で人が死んでも良いと考えるオーナーはいない。ただ現在の耐震対策議論は、ビル・マンションという建物の人の安全に関わる問題が、耐震対策ではないという視点が抜けているため、身動きができない。たとえ耐震診断をクリアした建物でも、建物倒壊以外に外壁落下・ガラス落下・天井落下等多くのリスクがある。

また震災だけではなく、古い建物が適切に維持されなければ、エレベータ事故・水質悪化・漏電火災等のリスクも高まる。ことさら耐震問題だけを取り上げられても、問題がそれだけではないと判っている当事者は、考えざるを得ないのだ。

都市の市民の皆にとっての問題
この問題についての現在の日本の問題は2つあると考える。

1つは、日本の国土交通省は、この問題が見えないのか、見たくないのか、相変わらず高度経済成長期時代のデベロッパー利益を優先させるスクラップアンドビルドモデルから抜け出せないこと。

もう1つは、日本人の、こと不動産問題に対する距離感だ。確かに持てる資産家オーナーと不動産建設業界の利益の問題と考えられても仕方ない時代もあった。けれどもその利益の前提条件はくずれつつある。

旧耐震基準建物の耐震対策問題は、今後も更なる議論が必要な問題だ。けれども単に災害対策のコンテクストのみならず、より根本的な私たち市民の暮らす街と生活環境のこれからのあり方の問題として、フラットな市民目線で、より広く議論されるべき問題だということを、強く強調しておきたい。なにしろ震災時のみならず生活環境の衛生安全が損なわれれば、害を被るのは都市の市民生活なのだから。

江本 真弓
江本不動産運用アドバイザリー 代表

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