横綱鶴竜に期待すること

2014年03月27日 23:47

大相撲春場所、13勝以上の優勝で横綱昇進、と言われていた鶴竜が14勝1敗で初優勝した。

これを受けて横綱審議委員会が開かれて、「横綱鶴竜」が誕生することになった。

久々に3横綱が並び立つ大相撲。一相撲ファンの僕はひたすら嬉しい。


2年前に鶴竜が大関に駆け登った頃はすぐにでも横綱になると思った。相撲ファンのほとんどは僕と同じ気持ちだっただろう。

しかし、彼のその後は期待外れだった。大関昇進後の2012年夏場所から昨年九州場所までの勝ち星は、8、9、11、9、8、8、10、10、9、9。

優勝争いにほとんど絡めないどころか、平均するとほぼ常に9勝6敗。ダメ大関の代名詞である「クンロク大関」そのものだった。

ところが、先場所彼は14勝1敗と活躍した。それを基に今場所13勝以上の優勝なら横綱へ、という道筋ができていた。

彼はハードルの13勝を一つ上回って優勝した。従って横綱に推挙されて然るべきだし、また今後もきっと活躍もするだろう。

いや、活躍するべきである。なぜなら、大関時代の彼の成績を思えば、横綱昇進に至った基準が正直言って少し甘過ぎるように見える。その疑念を吹き飛ばすには、土俵上で暴れまくるしかないだろう。

横綱昇進直前の彼の2場所の成績は、優勝同点の14勝1敗と、その次の場所つまり今場所の14勝1敗での優勝。それだけを見れば文句のつけようのない成績である。

だがその前の場所は「いつもの」クンロク、9勝6敗に過ぎなかった。昇進直前の3場所を通して見ると、横綱の条件の一つである安定感に欠けるきらいがある。

また彼の取り口のうちの悪癖である“はたき込み”での勝ち星も多い。3場所前の9勝のうち、はたき込みでの勝ちが5番もある。次の場所でも14勝のうちやはり5勝ははたき込み。

綱取りの春場所こそ3勝と少な目だったが、取り組み中に何度も引き技を見せる場面があった。

引き技の“はたき込み”は相撲のりっぱな技の一つである。だが攻めるよりも受身の勝ち技であり、多用すると墓穴を掘る。また安易に勝ちに行く傾向の強い技で安定感もない。

そして何よりも、真っ向勝負を避けて「逃げながら勝つ」という印象があって、見た目が良くない。横綱相撲にはなりにくいのである。

加えて鶴竜は、上位陣のライバルにはからきし弱い、という欠点もある。2日前に終わった春場所とその前の初場所では、上位陣相手にも強さを見せた。しかしそれまでは横綱、大関との対戦成績が極端に悪い。特に白鵬には4勝30敗(優勝決定戦を含めると32敗) と大きく負け越している。

鶴竜が白鵬に初めて勝ったのはつい最近のこと。また4勝のうちの2勝は今場所と先場所のもの。それまでは非常に対戦成績が悪く、初勝利までに21連敗と全く歯が立たなかった。

日馬富士にも良く負ける。最近引退した元大関の把瑠都や琴欧州を含む大関全員にも負け越している。

しかし、今回彼は2場所連続で横綱、大関陣を全て撃破。初場所は日馬富士が休場していたものの、一皮向けた力強さも見せた。だからこそ、横綱審議委員会は彼を横綱に推奨することを決めたのである。

そうは言うものの鶴竜は、取り口の問題や垣間見えるひ弱さを別にすれば、人品においては既に横綱と呼ばれるべき域に達していると思う。控えめな性格、高い知性、また穏やかで礼儀正しい物腰は、今後きっと彼が獲得するであろう安定した強さと相まって、必ず鶴竜の「横綱の品格」を形成して行くだろう。

そうしたこと以外にも鶴竜にはぜひ意識して精進してほしいことがある。それは大関として多大な実績を残し、また綱取りの機会には横綱昇進の条件を彼以上に満たしていたと考えられるにも関わらず、横綱に推挙されなかったハワイ出身の元大関小錦のことだ。

小錦は1991年~1992年に13勝、12勝、14勝と3場所連続で好成績を残した。このうち13勝と14勝は優勝した勝ち星。普通なら横綱に推挙されて然るべき成績だが、見送られた。大相撲の歴史では、それよりも見劣りのする成績で横綱になった者も少なくないのに、である。

小錦の横綱昇進が見送られたのは人種差別が原因ではないか、という議論が当時沸き起こった。

相撲協会はもちろんそれを否定し、それを口にしたとされる小錦は、バッシングさえ受けて罰則(謝罪)を課せられた。

その出来事の真相は闇の中ということになっているが、今ならもう断言してもいいのではないだろうか。あれは人種差別だったのだと。

目立つ外国人幕内力士と言えば、高見山に続いて小錦自身しかいなかった時代、外国人が「国技」大相撲の横綱になるという現実は、大相撲界もまた日本社会全体もきっと受け入れ難かったのだろうと思う。

差別という言葉を軽々しく使うべきではないが、当時の日本社会には戸惑いがありその戸惑いが小錦の横綱昇進を阻んだ。つまりそれは、やはり差別だったのだ。

大相撲はその負の歴史を克服して、間もなく曙と武蔵丸という外国人横綱を誕生させ、さらに朝青龍、白鵬という歴史に残るモンゴル人大横綱も誕生させた。

今や大相撲には外国人力士への差別はほとんどない、と言っても過言ではないだろう。

鶴竜はそうした歴史の恩恵も受けて大相撲の最高位に就いた。精進して名横綱・大横綱を目指してほしい。

また大相撲界が、日本の伝統の真髄を守りつつ、さらなるグローバル化を目指して発展するよう、外国出身横綱としてぜひ心を砕いてほしい。

なぜなら閉鎖的な日本社会の中で一歩先んじてグローバル化を成し遂げた大相撲界は、この先日本が決して避けては通れないであろう社会全体のグローバリゼーションの手本として、確固たる地位を築く可能性も大いにあるのだから。

仲宗根雅則
テレビ屋
イタリア在住

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