あなたの回りで外国工作活動? --諜報戦への警鐘

2014年04月09日 05:22

中国人実業家の豹変

日本でソフトブレーンを起業して上場させた中国人実業家の宋文洲さん(@sohbunshu)の行動がおかしい。

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テレビ番組のコメンテーターとして、「(隕石が)尖閣に落ちて島がなくなれば、領土問題がなくなる」と13年2月に発言。また最近は、中国のメディアに日本を批判する寄稿やコメントを繰り返している。さらに福島原発事故をめぐる放射能の危険を繰り返し述べ、規格外のイチゴを放射能で危険と騒いだ。(記事)(写真)

また日本の「731部隊」などの戦争犯罪をめぐり、偽造された写真を拡散した。(まとめ)そしてツイッターで「ネトウヨ」という侮蔑語を連呼して、日本の右派を挑発し、口汚く罵っている。

私は宋さんに5年ほど前に、何度か取材をした。彼は大変聡明な人で、工学博士でもある。放射能デマに踊る人ではない。そして明るく温厚な人だった。一連の発言は、彼の本意とは思えないのだ。

私は記者として、取材者の許可を得ないと、取材した情報は原則公開しない。しかし5年以上前のメディアの過去記事を調べれば同内容の彼の発言は各所に出ているために、話の一部を限定的に紹介することは許されるだろう。

当時は小泉純一郎総理の靖国参拝が話題になっていた。彼は「戦争を肯定するようで不愉快だ」と言っていた。ただし日本人の大半がアジア諸国民を戦争に巻き込んだ歴史を反省し、中国人の戦争被害を気の毒に思っていること、あらゆる戦争に否定的であることは「当然知っている」と述べた。さらに「日本人は平和愛好に変わっている。変なことにはならないだろう」とも話していた。そして日本と中国でビジネスをしているために、「あまり政治の発言はしないようにしている」と慎重だった。また彼の兄弟の多くはまだ中国にいるそうだ。

また文化大革命で、父親や親族が当局や紅衛兵に暴行を受けた経験があると振り返った。そのために中国共産党への露骨な批判はしなかったが、警戒感を持っていた。また詳細は明かさなかったが、ソフトブレーンの上場で得た利益の一部を使い、中国の民主化運動を手助けしたそうだ。

過去の発言から見ると、宋さんの行動の豹変の理由が分からないのだ。

中国をめぐる不思議な事件

ここで私は、一つの事件を思い出した。宋さんは1985年に来日した中国の国費留学生だ。同時期に国費留学した中国の理系研究者が、デンソーに就職。情報を奪い失踪したという事件が2006年に起きた。後で調べると、この留学生は中国の軍関係企業に、留学前に勤めていたそうだ。

当時背景を聞くために取材した、あるIT企業の情報セキュリティ担当幹部が自社の経験を述べていた。「産業スパイは、国内の企業同士でも、また海外企業との間でもかなり多い。ただし多くの企業は被害を公表すると、さまざまな悪影響があるので泣き寝入りしてしまう。当社も中国にある関係企業に情報を盗まれたようだが、中国事業であっちの当局に復讐されるかもしれないので、その漏洩疑惑を追求しなかった」。

指令が一本化されているか分からないが、中国政府の関係部局が、日本に対してさまざまな「工作」をしかけているのは、確かなようだ。

そして中国では昨年習近平政権になった後で、思想の締め付けが厳しい。日本在住の中国人が帰国すると、当局に拘束されるなどの事件が頻発している。(「朱建栄氏、7カ月ぶり日本に 中国で一時拘束」など)宋さん本人に直接最近の発言の豹変の理由は聞いていないが、中国当局から彼に何らかの圧力があり、行動を変えたということは、不自然な想像ではない。

もちろん「工作員」と言うつもりはない。宋さんの言論活動は、工作にしては洗練されておらず、日本人の怒りだけを集めている。それよりも宋さんは誰か(中国の公安当局?)に、中国の愛国者としての自分をアピールしているように見える。隠された理由があるのだろうか。

日常の中の諜報活動

私たちは知らないうちに、外国政府の絡んだ諜報戦に巻き込まれているのかもしれない。

私は記者活動の中で2004年ごろ、不思議なロシア人と会ったことがある。彼はロシアの大手通信社の名刺を持っていた。

2000年に、パラジウムという特殊貴金属の国際市場が混乱した。貴金属の担当として、私は最大需要国の日本の輸入再開、そして商社の動きを調べていた。ロシアはこの金属の最大生産国だ。そしてこのロシア人に3度会った。ある取材先では上手な日本語のやり取りをしていたのに、別のパーティ、そして商社ではまったく日本語を話せないふりをしていた。また意図的であろうか、野暮ったい服装だった。

私は英語で話しかけ名刺を交換して話し、最後に試すつもりで「〇〇さんのところでもお会いしましたね、またお会いしましょう」と日本語で話しかけた。先方は分からない振りをしたが、二度と会うことはなかった。メールへの返事もなかった。そしてその後、このロシア人の署名記事をみたことはない。諜報関係者なのだろうか。

もしかしたらあの有名人も…

諜報活動は一般に、とても地味なもののようだ。英国対外情報部「MI6」が、創立100周年の2009年に、外部の歴史家に自由に文書を読ませて歴史書を編纂させるプロジェクトを行った。主任の編著者のベルファスト・クイーンズ大学のキース・ジェフリー教授は、この歴史書「MI6秘録 イギリス秘密情報部1909-49」で「冒険物語などない」と強調した。ちなみに007シリーズの主人公で、派手な活劇をする主人公のジェームス・ボンドはここに属している設定だ。

ジェフリー教授らの見た文章は、日常の軍事、政治活動の単調な報告ばかりだった。そして分析担当者の評価が加えられていたという。しかしそうした地味な活動の中から、英国を2回の世界大戦で勝利に導く鍵となった情報をMI6はいくつも見つけ出していた。

日本でも英国情報部は活動していた。日英同盟(1902-23)があったときから諜報網をつくり、第二次世界大戦前には約70人のさまざまな立場の協力者(エージェント)を獲得していたという。主に海軍軍備と政治情報を調べていたそうだ。

日本での協力者の氏名、そして得た情報は、示されていなかった。これは記録があって省略されたのかどうかは、本に書かれていなかったために不明だ。ただしMI6は歴史家らに、どの文章を扱う際にも、エージェントの名前は対外的に伏せるように要請したという。

私は日本人のある有名な夫婦を連想した。両方とも名家の出で、夫は英国に留学していた。夫は太平洋戦争中に徴兵もされず、田舎で優雅に過ごしていた。戦後に2人は有名になり政財界、そして文化面でも大きな影響力を持った。彼らの謎めいた行動、そして豪華な浮世離れした暮らしは、もしかしたら…。いや、まだ関係者がいるので憶測はやめておこう。

外国のスパイ行為への警戒を

もちろん、私は外国人への反感を煽るつもりは毛頭ない。しかし私たちの身近で、そして見えないところで、諜報戦は密かに、そして熾烈に戦われているのかもしれない。

どの国も、組織も、スパイ行為を当然のように行っている。そして自分がするために、相手がすることを警戒する。ところが日本では、同質性の強い社会であるためか、いわゆる「平和ボケ」のためか、「悪い人物がスパイ行為を働く」「ある行為の裏に外国政府の意図がある」という警戒がすっぽり抜けている。

この3月に日本で騒ぎになった特定秘密保護法は、防諜強化の当然の意図があった。それなのに「言論の自由の侵害」という負の側面ばかり、社会の中で強調されてしまった。そして日本のメディアは防諜の話をあまり取り上げない。

2500年前、既に軍略書「孫子」では「兵は詭道なり」(軍事は騙し合いである)「間を用うる」(スパイを使う)と解説している。したたかな軍事国家の中国は、当然、何らかの「工作」を21世紀の日本にも仕掛けていると見るべきであろう。

そして私たち一般人が、国家の諜報戦に巻き込まれるかもしれない。取材でお世話になった、宋さんの行く末も心配だ。

石井孝明
経済ジャーナリスト

メール:ishii.takaaki1@gmail.com
ツイッター:@ishiitakaaki

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