分裂する日米同盟(下):見捨てられる日本

2014年04月16日 10:32

分裂する日米同盟(上):長期課題・欧州中東重視の米国」からの続きです。

2.乖離する日米の戦略の方向性とその危険性
(1)乖離する日米の戦略

 これまでの検討から、米国は長期的課題対処・欧州中東重視の方向性を持っていることが分かったが、これは日本の方向性とは真逆なのである。


今年度の防衛予算や改訂された防衛大綱や中期防衛計画を見れば明らかなように、日本は短期的課題対処・南西諸島重視の戦略となっている。何故ならば、研究開発費は、中国や韓国にすら抜かれたがほとんど横ばいであり、長期的課題に対する備えは低い。

他方で、近視眼的とすら評価すべきだが、短期的な課題対処は盛りだくさんである。例えば、中期防衛計画では、離島防衛のために海兵隊機能付与の為に 水陸両用装甲車52両やティルトローター機(おそらくオスプレイ)17機、機動展開用の機動戦闘車100両、潜水艦や護衛艦の増勢15隻を調達することになっている。そして、これらは南西諸島防衛が主な目的と評価できる。

このように、米国の長期的課題対処・欧州中東重視とは裏腹に、日本は短期的課題対処・南西諸島重視なのである。このような防衛戦略の相違は冷戦後では最も大きなものであり、極めて危険であると言わざるを得ない。実際、日米同盟重視では古株のパトリック・クローニン(CNASアジア太平洋安全保障プログラム上級部長)も最近の論説で筆者と同様に、長期の課題に専念する米国と短期の課題に専念する日本の戦略目標のズレを懸念している。

(2)防衛戦略の相違が生むリスク
まず、現状を分かりやすくまとめると、米国は長期的な課題に対処したいし、欧州中東の火事を消化しなければならないので、短期的には中国と仲良くしなければならない。正直、現状では、シリア・ウクライナ・北朝鮮・中国と二正面ならぬ四正面対応は物理的に不可能だと思っている。他方、日本は、中国の巨大な軍拡を一身に受けているので、欧州中東はどうでもよく、中国を刺激してでも「今日の戦争」に備えようとしている。

これは米国からすれば、日本は戦略性もなく、「岩」の為に無謀な日中戦争に挑む「ルーピー」としか思えないし、日本からすれば米国は自分を見捨てようとしている「腰抜け」としか見えず、双方に不信感が高まっていく一方となる。

つまり、現状の日米同盟は戦略目標が真逆であり、それ故にお互いに不信感が高まっているのである。こうした結果は互いに相手の利益を尊重しなくなる。事実、日本側は、ウクライナやシリア情勢で後ろ向きとなるし、米国側は靖国問題をこれまで以上に深刻にとらえるし、中国に対して宥和的となる。

こうした傾向が助長されれば、日中紛争時に米国が関与しないという可能性高くなる。実際、民主党系の知日派の代表格のジム・ショフ(カーネギー国際平和財団上級研究員)の提言はそれを示唆している。ショフ氏は、フロントオフィスとバックオフィスの概念を提示し、前者を米国、後者を日本とする役割分担こそ、新ガイドラインの内容にふさわしいとした。つまり、日本側は従来の後方支援から、偵察や情報、共同作戦計画、サイバーセキュリティ、電子戦闘•対潜作戦•ミサイル防衛、より直接的な兵站支援に踏み込むべきとしているのである。

だが、ショフ氏は驚くべきことに、彼の表現を使えば「無人の尖閣諸島」を巡る軍事的もしくは準軍事的紛争では、日本がフロントオフィスを担当し、米国がバックオフィス(つまり先にあげた偵察や兵站支援、対潜・ミサイル防衛)を担当するとしているのだ。つまり、日本が前に行けと言っているのである。

御承知のように、今回のガイドライン改訂は、尖閣諸島等のこれまでのガイドラインでは想定されていないグレイゾーンを埋めるため―はっきり言えば、日米共同で前に出ることを明文化することが日本の目論見―であって、わざわざ米国は後方にいると書くのであれば「あいまい戦略」で何も書かない方がいい。何のためのガイドライン改訂なのかわからなくなる。

正直、ショフ氏のような軍事的な側面から日米同盟を重視しているような人間から、悪気もなく、このような提言が出てくるのは衝撃であったが、これが今の米国側実務者の空気なのである。実際、ガイドライン改訂の交渉では、各種報道や漏れ伝わる話などが示唆するように、米国は対中問題では日本を前に出そうとしている。つまり、日本は見捨てられようとしているのである。

(3)安倍総理側近も認める「見捨てられる日本」
こう書くと疑いを持つ人も多いだろう。だが、この事実は安倍首相が「宮家氏の複眼的な分析力を信頼している」と著書の推薦文で絶賛した、宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)も認めていることなのだ。宮家氏は、ニューヨークタイムズの記事に、元安倍総理アドバイザーという肩書で登場し、以下のように述べている。

「もし日本が攻撃されたのに米国が対応することを拒否するならば、その時はアメリカが日本から出ていく時だ。日本の基地がなければ、米国はもう太平洋の大国ではなくなる。米国はそれを知っている(はずだが?)」

池内恵(東京大学准教授)もこの記事を引用し同様の指摘をされているが、「強烈」の一言に尽きる。かつて、首相の側近が、米国に対してここまで明け透けに、「対日防衛をするのか、それとも覇権国家の座から降りるのか」と「脅迫」した例はない。それほど、現在の安倍政権が「見捨てられる恐怖」に怯えているのである。これほど雄弁な証拠はない。

このように、表面上のレトリックとは裏腹に、日米同盟は安全保障の面では、かつてない戦略目標の分裂を抱えてしまっているのである。今必要なのは、いかに米国を引きずり込むかであって、いじけて米国を遠ざけてみたり、夢みたいな自主防衛を妄想することではない(政治的資金的技術的に不可能であるだけでなく、そもそもそ何年かかると思っているのか)。

具体的には、既に指摘したようにウクライナ問題等で密接な協力を行い、現在の近視眼的な防衛戦略を改めることで分離した日米の戦略目標を一致させ、併せて、米国を引きずり込む為の諸政策(自由主義の強調、ASATや敵地攻撃能力といった紛争を拡大し米国の介入を余儀なくさせる能力の強化)が今必要とされているのである。

当然、靖国参拝のような、日本の安全保障を棄損するような行動はもってのほかである。そもそも、明治にできた長州の神社でしかなく、日本を破滅に追いやった指導者が祭られている神社のどこが日本の古き良き伝統なのだろうか。

站谷幸一(2014年4月16日)

twitter再開してみました(@sekigahara1958)

※なお、前回の記事で辻先生からの鋭いコメントを頂戴しましたので、twitterにて返信させていただきました。有難うございます。皆様のコメントは拝読させていただいておりますが、FBを当方は持っておりませんので、もし返信を希望される方は上記のアカウントに呼びかけていただければ幸いです。

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