なぜ日本の不動産は割安のままなのか --- 岡本 裕明

アゴラ

カナダと日本で不動産の仕事をしながら思うのは日本には不動産価格が上がらない要因が多すぎる、ということでしょうか? 先日の日経の記事に日本と海外の不動産価格の比較の記事が出ておりましたが、東京を100とすれば香港、ニューヨーク、パリなどは3~5倍となるなど主要都市と比べ東京の「激安ぶり」が強調されていました。この違いがどこから来るのか、考えつく理由を拾い出してみましょう。


1. 家に対する考え方 戸建でもマンションでもリノベをして価値を引き上げるという発想に乏しい気がします。最近では日本でもリノベーションが少しずつ浸透しつつあるとはいえ、家に対する価値観の重さが違います。私の見る北米のリノベーションとは自分のためもありますが、将来の売却を前提にした価値向上のためでもあるのです。

2. 税制 木造住宅は22年で減価償却されます。銀行ローンは償却が進んだ中古物件に対する融資はせいぜい土地のみ。つまり、建物の部分のローンが付かないし、売り主もひたすら減価していく建物に涙、というのが日本の仕組みです。こちらはリプレイスメント方式ですから今、この家を建てたらいくらするか、という発想で建物の価値が年により上がったりすることになります。

3. 相続 日本人は国土、土地は神様からの授かりものという発想が大根底にありますから人が死んだらその土地には高い相続税を負荷し、土地が一族の長期的な私有化を防ぐような仕組み、つまり「精神的な私有制」をどこかで拒否しています。また、年貢と同じで役人は庶民から巻き上げるという発想も加味されているのではないでしょうか?

4. 住環境 最近の日本の大規模開発を見ていると容積率を目いっぱい使い、いかに儲けるか、という主眼が強い開発案件が主流です。敷地内にアメニティを入れた建ぺい率の高い建物が多いのですが、建物と建物の間の眺望ラインや都市計画に基づく緑化計画は弱く、都市の大規模開発はひたすらコンクリートで地面を固めているように思えます。

5. 人口 これが最大の理由ですが人が増えれば住宅が売れるというのは不動産の方程式であります。少子高齢化で移民はダメな中で住宅は現時点で700万戸も余剰でさらに年間100万戸も作り続けて誰が買い、誰が住むのか、という疑問であります。

6. 外国からの投資 海外の富裕層は住宅を2軒、3軒持つ人は多く、季節や時期ごとに住むところを変える人はずいぶんいるものです。そういう富裕層を取り込む不動産の魅力が東京にあるのか、これは大いに疑問かもしれません。バンクーバー、サンフランシスコ、ハワイは住環境がその不動産価値を高めたところにヒントがないでしょうか?

では、それでも日本の不動産は底打ちし、上昇に転じる気配があるのか、ということですが、私の見立てではダイリュージョンを起こしているように見えるのです。つまり、駅近くの高層マンションに人が移り住み、古い住宅やマンションが空き部屋になるということでしょう。よって、上がるところは上がるし、売れない土地はいつまでたっても需要がない、ということでしょう。

もっと簡単に言えば世代間のライフスタイルのチェンジが進み、親は戸建て、子供はマンションという住み替えの発想がどんどん進んでいるということでしょうか? この仮説が正しければ駅前の高層マンションには高い需要、都下の住宅街は需要が下がるということになります。以前にも申し上げましたが日本に土地神話があった時、「日本は島国、狭い国土」がテーゼでした。今、高層マンションは空高く無限の空間に突き進んでいるのですから全体的な土地の価値は下がるのですが、高層マンションができた人口集積地は不動産の価値が当然上がる、ということになるのです。

突き詰めていえば人が集まるところの不動産は上がり、閑散とするところは下がる、ということです。そして上がるところは限定され、一般個人が売り買いして利益を出すような不動産は極めて限られるように思えます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。