精神的に病んではいないか? 朴槿惠大統領

北村 隆司

教育熱心で勤勉と言う似通った国民性を持つ日韓両国民だが、旅客船セウォル号沈没事故の顛末やこの事故に対する韓国官民の反応を知れば知るほど、日韓両国は近くて遠い国だと言う感を強くした事は残念でならない。


それにしても韓国の事故は多すぎる。

昨年7月にはアシアナ航空がサンフランシスコで着陸失敗事故を起こし、8月には韓国が誇りとする韓国高速鉄道(KTX)の三重衝突事故が起こり、9月には国産の韓国海軍最新の大型輸送艦が黄海で漂流し、今年の2月には慶州市のリゾート施設の体育館が倒壊し10人の死者を出しかと思うと、4月にはセウォル号沈没事故が起き、その息つく間もなくソウル地下鉄が追突し、5月に入るとKTX列車が故障で止まったり、建設中の7階建てビルが突然傾き出すなど、韓国の安全無視の風潮には驚くばかりである。

何処の国にも事故はあるが、韓国の人災に共通する特徴は、過去の失敗に学ばないお粗末な安全対策であろう。

セウォル号沈没事故のように防ぐ事の出来た人災で、300人もの愛する家族、特に将来を期待された子供を失った遺族の方々の無念さは想像に絶するものがあり、衷心から哀悼の意を表したい。

乗客192人が命を落とした2003年の大邱地下鉄放火事件で捜査の指揮をとった経験のある金成浩・元法務部長官は頻発する事故について「韓国社会は『まやかし文化』」だと指摘したと韓国の大手新聞は伝え、ネットには「韓国は過去の事故から教訓を学ぼうとしない」「経済的には成長したが、社会システムは途上国の水準だ」などと怒りの声が書き込まれたと言う。

その一方、日本が世界トップクラスの安全対策と人命救助率を誇る陰には、過去の失敗に学ぶ習慣を身につけているからだと「日本に学べ」と言う大合唱が起きている。

中央日報も【時視各角】と言うコラム欄で「韓国は今度も「忘却の国」になるのだろうか」と言う疑問を呈しているが、外遊する度に「歴史に学ばない日本」と悪口を重ねている朴槿惠大統領の感想を聞いてみたい。

慰安婦問題を巡る朴大統領の感情的な謝罪要求の執拗さには辟易とするが、今回の事件でも被害者家族が謝罪の仕方が気に食わないと相手をぶんなぐる韓国の謝罪へのこだわりや取り乱して泣き叫ぶ韓国と悲しみを抑えながら涙する日本の悲しみの表現の大きな違いも知った。

また「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」式の朴大統領の不合理な「反日政策」もなるほどと思えるエピソードも報道されている。

それによると、韓国国会は国立顕忠院(国立墓地)にカイヅカイブキなど日本原産の木が多く植えられているのは顕忠院建立の趣旨と合わないという理由で日本固有の木を引き抜き、他の樹木に替える法案を可決し、来年から段階的に樹木交替作業が行われると言う。

引き抜かれる木の樹齢は40~50年と言うから、日本には関係ない事は間違いなく、日本色を排する為に撤去するなら戦前に建設された学校、道路、鉄道は勿論、日本のODAで建設されたソウルの地下鉄や全国の下水道施設など膨大なインフラを取り除くほうが合理的だと思うが如何だろうか?

朴正煕元大統領の七光りで大統領になった朴槿恵女史に好都合であったのは、韓国経済最大の課題であった米韓自由貿易協定を成立させた為に人気の凋落した前任者の李明博大統領が、人気維持策として採用して効果を挙げた竹島、歴史認識、慰安婦問題での強硬な「反日政策」であった。

これに便乗し、強硬な反日政策を継続する事が支持率のアップに繋がり、国政運営がしやすくなると踏んだ朴大統領には、日韓首脳会談を開くインセンテイブは何も無い。

しかし、これだけ強硬な「反日政策」を掲げる事は父親である朴正煕元大統領を全面的に否定しなければならず、娘としての朴大統領の悩みも大きいに違いない。
と言うのは、朴正煕元大統領が :

(1)日本の陸軍士官学校を首席で卒業した秀才で、高木正雄と言う日本名の日本軍人であった事。
(2)日本を模範とした経済政策を布き「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長へと結びつけ、セマウル運動を主導して農村の近代化を実現した事。
(3)人権無視の強権政治家で、中央情報部による反政府勢力に対する弾圧は苛烈を極め、現在の北朝鮮並みの不法な拷問・冤罪事件が頻発し、その残虐さは日本時代の比ではなかった事。
(4)朴正煕元大統領指揮下の韓国軍のベトナム参戦は、ベトナム住民への無差別機銃掃射や大量殺戮、家屋への放火など蛮行、女性に対する強姦殺害の酷さで名を馳せ、慰安婦問題どころの騒ぎではない野蛮性を発揮した記録と生き証人が残っている事。

などの事実は、朴大統領の対日批判政策には誠に都合が悪いからだ。

朴大統領の日本を意識した親中政策も韓国の将来を危うくしていると思うが、この問題は別紙に譲りたい。

現在でこそ中韓貿易額が日韓貿易の倍の2100億ドルを突破し、対日貿易収支が300億ドルを超える慢性的赤字であるのに対し対中貿易が400億ドル近い黒字だが、日中貿易の付加価値額を見れば明らかなように、中国が日本の技術と信用を必要としているのに対し、韓国自身の調査でも、製品の品質、価格、技術を数値に換算して見ると殆どの製品で韓国製品が中国より質と技術力で優位にあるという考えは幻想となりつつあると指摘している。

この問題について、韓国の大手新聞も「こうした現実を直視せず、錯覚の中に安住すれば、堕落の道しか残されていない」と報じ、韓国製品が中国にとっては単なる使い捨て商品になりつつあると警告している事でも判る通り、韓国の将来にとって必要な事は日韓両国の相互補完技術の進捗である。

話は飛ぶが、日米韓の三カ国首脳会談で安倍首相の韓国語での挨拶に対して返事も会釈もせずふくれっ面で横を向く朴大統領の姿が話題になったが、それより気になるのは朴大統領の就任式に始まり、米国議会での演説、欧州歴訪で繰り返した「対日告げ口」演説や日米韓首脳会談のTV動画には、決まってどんよりと暗く、無表情に下前方を見る伏し目がちな大統領の姿が映っており、ひょっとして大統領は精神を病んでいるのではと言う疑問が湧くことである。

それも無理はない。

朴大統領が学生であった22歳の頃に、在日韓国人に母親の陸英修女史を暗殺され、その5年後には父親の朴正煕元大統領も側近のKCIA部長に暗殺されただけでなく、実弟は麻薬法違反の容疑で幾度となく逮捕され、自分自身も遊説中に暴漢に襲われ、顔面に大怪我を負うなど筆舌には現せない不幸な人生を送って来た事実がある。

最近の東亜日報は「韓国はセウォル号のため、この時期集団的うつ病にかかっている」と報道した位だから、朴大統領個人にこれだけの不幸が続けば、如何に強靭な精神の持ち主でも何らかの心的外傷後ストレス障害(PTSD)に襲われても不思議ではない。

それに加えて、日本に比べて遙かに家父長制の強い韓国で、父親を裏切り否定して生きる毎日は辛いであろうことは想像に難くない。

朴大統領は父親の朴正煕元大統領の事は黙して語らない理由には、朴正煕元大統領が残したと言う「我が半万年の歴史は、一言で言って退嬰と粗雑と沈滞の連鎖史であった」とか「(韓国社会は)姑息、怠惰、安逸、日和見主義に示される小児病的な封建社会の一つの縮図に過ぎない」と言う言葉が表面沙汰になったら、自分の政治生命が終ると言う恐怖感に苛まされているためかもしれない。

以上のように、現在の朴大統領には日韓の首脳会談を開催するメリットは全くなく、理性的に物事を処理出来る心理状態にあるかどうかも不明な時に、安倍首相が首脳会談を求め続ける事は「ストーカー外交」と韓国の新聞に皮肉られるのももっともである。

この際、対韓外交は拙稿「対韓外交は『無為』『無策』『無関心』の『三無』に限る」で提案したように、韓国から特段の要請が無い限り日本からアプローチする事は避けると同時に、安倍首相のお友だちに多い 「お前が本当の戦争の原因だ!」「韓国人は信用できない!」と言う類いの中傷発言は厳に戒めるべきである。

2014年5月14日
北村 隆司