不動産投資は、ローリスク、ミドルリターン、ハイコスト

2014年05月14日 22:58

江本真弓さんの記事を拝読し、専門屋として納得する部分もあれば、反論したい部分もあり、いろいろと述べたいことはあるが、「とにかく不動産投資はやめた方がよい」と理解した方がいるとすれば、再考してほしい。不動産投資は、投資対象として優良なものの一つであり、人に勧められないようなものではないからだ。

まず、江本さんのタイトルにあるように、「老後の安定のために」マンション投資を考えている人は、やめた方がよい。正確に言うと、老後が何年後に来るか、によって投資スタンスは異なる。「老後」が10年後に来る貯金のある人には、不動産は優良な資産になるが、「老後」が40年後に来るような人は、不動産投資などせずに自己啓発にもっとお金と時間を使った方がよい。不動産の管理は手間がかかるので、建物管理を楽しんで家賃収入で余生を過ごしたい人は、不動産のオーナーになるのは良い選択だ。借主や管理会社とのコミュニケーションを楽しみながら、充実した老後を送れる。一方、現役バリバリで仕事が忙しい人は、不動産のような手間のかかる投資は時間を無駄にする。投資信託のような他人に運用を任せる投資に徹した方がよい。

不動産投資は、投資のリターン(収益率)とリスク(収益変動の標準偏差)の関係でみると、優良な投資(左上に位置する)であることが、(一社)不動産証券化協会の調査などでわかっている。しかし世間では、「不動産投資はリスクが高い」と認識されやすい。それはなぜか。小生は、不動産投資に失敗する人は、コストが読めていないからではないか、と感じている。

まず、不動産投資の特徴を考えてみよう。


メリット:

1.収入が安定している

家賃収入は、一度契約すれば月毎に決まった額が安定的に入ってくる。収入の変動は小さい。空家になるとその戸は収入がゼロになるが、家賃設定が適当であれば、借りる人は必ず現れる。人口10,000人以下の小さな町は別であろうが、人が住んでいる町であれば、家賃が安ければ、仮住まいや倉庫・物置としての利用など、だれかが必ず利用する。持って入れば何らかの収入が得られるのが不動産の特徴である。

2.価値がゼロにはならない

株式の価値は、会社が倒産/債務超過になればゼロになる。不動産の価値は、土地上の建物が使えなくなっても、土地を持つ限りゼロにはならない。稀に、建物の解体費が土地の価値を上回って空家が放置される(廃墟となった田舎のリゾートホテルなど)例があるが、そのようなものはそもそも投資対象にはならないので、考える必要はない。ゼロにはならないのだから、価値の保全という観点からは優良な資産である。

デメリット:

3.すぐに売れない

上場株式などと異なる点で、大きなデメリットである。不動産の売却は、通常3ヵ月~1年ほどかかる。売りたい時にすぐ売れることが重要な立場の人には、不動産投資は適さない。

4.管理・運用コストが大きい

これが最も重要な点で、不動産投資で失敗する人(会社)は将来のコスト予測が甘い。コスト予測を明確に行っていないために、予期せぬ(認識できたはずなのに甘い見込みで稟議や融資を通すなど)支出に耐えられなくなり、物件を安値で売却せざるをえなくなる。不動産を保有すれば、日常的な修理・修繕だけなく、機器の交換や全面改修、機能向上のためのバリューアップ投資が必要になり、買ったら収入を得るだけ、とは決してならない。空室が出れば広告費や手数料が必要となるし、入退去の度に内装や設備の入替を行う必要がある。管理会社に一括委託していたり、家賃保証をさせている場合でも同じで、不動産を維持するためには、収入の3割程度の支出が長期では必要になる。

5.日々の価格がわからない

上場株式のように毎日毎時価格が変動するものではない。都度保有資産の価値を判断しようにも、価格変動を判断する指標がなく、「なんとなく」売却可能価格が上昇しているか、下降しているか、が認識されるのみである。公表される統計指標は3ヵ月から半年前のものが多く、今の市場動向は数値ではわからない。仮に、不動産市場全体でのトレンドが読めたとしても、市場の動向が個の不動産価値にダイレクトに影響するとも言えない。個々の不動産の価格判断は容易ではない。

6.情報の逆非対称性

売手が知っている売買対象の情報を買手に伝えないために生じる、「レモン市場」については、アゴラメンバーの経済学者の先生方に解説をお任せするとして、不動産市場の特徴は、買手や借手はその不動産の価値を理解しているのに、売手・貸手は保有している不動産の価値が分からない、という、情報の「逆対称性」が存在することである。事業者としての不動産の買手・借手は、綿密な調査を行い開発計画や出店計画を立てるが、売手・貸手には買手・借手の考えている手の内がわからない。このため、素人の不動産所有者は、買手・借手に物件を買い叩かれてしまう。

上記のような特徴により、不動産投資は「めんどうな」投資であることは間違いない。これを、デメリットとみるか、チャンスとみるか。それにより、不動産投資に対するスタンスが変わってくるだろう。

1億円~5億円程度の賃貸物件は、中小企業に向く

1億円の貯金のある人は、銀行に預けておくくらいなら、1億円の賃貸マンションを買った方がよい、などと言っても、1億円の貯金のある人などごく限られているし、それくらいの貯金のある人は、資産運用のリテラシーが高いので釈迦に説法である。1億円から5億円程度の賃貸マンションや賃貸アパートはむしろ、中小企業の経営安定化のために有効である。

3,000万円近くの余剰資金があり、当面大きな設備投資を考えていない従業員10人程度の企業は、3,000万円を銀行預金として遊ばせておくよりも、1億円で10戸程度の賃貸マンションを、1億円の根抵当を設定して7,000万円借入を行い取得して、家賃収入を得ながら元利返済することを勧める。借入期間と賃料利回りの関係にも依るが、空室率が20%を超えない限り借入返済後も収入が残る。製造業などは景気や販売先の事情により売上が変動しやすいが、家賃のような安定収入があると従業員の給料支払などの固定的支出に対応できる。新たな設備投資が必要になり銀行借入を増やす際にも、根抵当に入れている担保があるので融資承認を早く得やすい。

個人の不動産投資は100%自己資金が理想

相続税対策で貸家と借金を持ちたい人でない限り、個人の不動産投資は自己資金100%で行うのが(当り前だが)最も安全である。借入を行いレバレッジを効かせるのは、機関投資家や不動産ファンドなどのプロだからこそできる手法である。個人は投資法人などのファイナンスコントロールを真似できないので、借入は低く抑えた方がよい。借金して不動産を買うのは、住宅ローンのような低金利・自己用に限るべきで、ハイレバレッジで高利回りの運用をしたいなら、投資信託の方がむしろ目的に合っている。不動産投資は「ハイコスト」。借入を大きくすると、将来掛けるべきお金をケチらならければならなくなり、機動的な運用ができなくなる。借入は買取資金の不足に対応する、短期・小額のものに留めておくべきである。

不動産投資は、投資というより事業

投資用不動産を買うということは、投資をするというより、小さな不動産「事業」を行う、と考えた方がよい。個人事業主として不動産事業を行う、と考えるべきである。実際、銀行融資は事業資金と認識されるし、税務申告においても事業所得と解釈される。賃貸用の不動産を買うということは、売上の安定した事業を開始する、と考えるべきである。収入は安定しているが、支出は大きく不安定である。コストコントロール如何で、収益性が大きく変わってくる。

江本さんの最後のコメントは、「くれぐれも投資は自己責任で。」であったが、私の最後のコメントは「不動産事業の成否はあなたの努力次第。」としたい。

伊東 良平
一級建築士/不動産鑑定士

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