日本に年20万人規模で移民の無謀 --- 岡本 裕明

アゴラ

3月にあった割と唐突感のある政府の移民受け入れを検討するニュース。話題の人口減問題に対処するため、出生率を上昇させるのみならず、移民も受け入れ、日本経済のみならず、社会そのものを支えていこうということであります。その検討されている数は実に年間20万人であります。

その後、この案に対して強い批判の声も出ており、十分なる検討を行う必要がありそうです。


まず、日本政府が企てる年20万人という規模は移民国家カナダが毎年受け入れている移民数を約2割程度下回る水準となります。カナダは国土の割に人口が少なく、経済活性化には移民の積極的受け入れはマストであります。その移民は元来、東ヨーロッパの国々の人が多かったもののインド、中国からも大挙して移民し、更に移民が出身国のアイデンティティを強く守る点においてアメリカとは相違します。これがいわゆるカナダのモザイク文化と称する特徴で、ちなみにアメリカはメルトポット(=アイデンティティを溶かしてアメリカ色に染めあげる)であるわけです。

では日本が突如年20万人もの移民を受け入れたらどうなるか、でありますが、移民受け入れに比較的肯定的な私でも計画が無謀と申し上げておきます。

まず、移民とは何かを政府は理解をしているかどうかです。

外国に住む人が日本に移住したい理由は何でしょうか? カナダなら環境があります。相続税がないなどの税制もあります。外国人が受け入れられやすい社会があります。ESLと称する英語を母国語としない人や子供の学校も充実しているし、カナダ国民が移民を重要な社会の戦力として認識していることがあります。

しかし、日本の場合、外国人労働者が多く住むエリアでは日本人との融合がはたしてあったでしょうか? 多くの外国人が日本に来る理由は単に金稼ぎでそれ以外に何を求めているのでしょうか? カナダの移民は政策的に富裕層が多く、移民7人で一軒の住宅が売れるとされています。日本にくる外国人労働者は本国の家族を養うため、日本での生活は節制する傾向があり、結果として日本の消費を助けることになるか、これは疑問です。

つまり、移民を募るのであれば外国から見て日本が魅力的でそこに永住したいと思わせる理由が必要なのです。ですが、私にはいま思いつく理由はありません。あえて言うなら中国人がPM2.5を理由に環境を求めて日本に来るでしょうか? しかし、地震が多く、いまだに原発事故の影響を気にする外国人もいる中、それが十分な理由には思えません。誤解されては困りますが、日本は美しく、歴史と文化と多数の観光遺産と食文化も備えていますが、観光目的と移住目的は全く違うのです。

インドネシアやマレーシアなど東南アジア諸国のイスラム系の人も日本に一定のリスペクトを持ってくれています。では住みやすいか、でありますが、例えばハラールと称する食事の制約に関して、日本食には致命的な欠点があります。それは醤油で、アルコールが入っているがゆえにハラールになりません。

私は、政府の移民年間20万人受け入れに対して集まらないという結果を生むとみています。つまり全く計画倒れになるということです。実際、日本の移民の制約は既に大幅に緩和されています。その上、あまり知られていませんが、政府は一定の移民促進目標をすでに持っています。ですが、その目標には全く達成していないのが現状です。

もう一つ、研究課題として移民が増えた場合ローカルの人はどういう反応を示すか、ということを掲げておきましょう。カナダでもイギリスでも移民を受け入れることは国家のプランでありますが、カナダ人でもイギリス人でも移民と宥和できない人は案外多いのです。その人たちは移民を避けます。結果としてロンドンにはイギリス人がいないとか、バンクーバーにはアジア人だらけといった極論も飛び交うのです。バンクーバーの場合、車で1時間も走ったら郊外都市、あるいはバンクーバー島といったアジア人の刺激を受けない所でひっそり暮らす人も結構いるということは付け加えておきましょう。

移民を語るには日本はまだまだ遠い話のような気がします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年5月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。