なぜ大都市で道路建設が簡単に進められないのか --- おときた 駿

アゴラ

果たして東京都に、道路は足りているのか??

これを巡って

「今さら道路をつくるなんて、税金の無駄づかい! そんなことより福祉を!」
「いや、東京の交通事情はまだまだ悪い。国際競争に勝てない!」

という論争が長きに渡って続いておりますが、データでみれば道路整備が不足していることは明らかと言えそうです。

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円滑に交通移動ができるかどうかの指標を「平均旅行速度」と言いまして、これは世界的にも使われている基準です。こちらの国際比較を見ると、東京都(区部)の道路事情は芳しくないことが伺えます。

ちなみにこの画像は東京都が発行している「2020年の東京」という冊子から引用しておりまして、

「アメリカの都市がないのは、何か恣意的にグラフ作ってるんじゃないの??」

と思って調べてみたところ、ニューヨークの平均旅行速度も29.0だったので、やはり東京都(区部)の18.8と比べても差があります。

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国内の比較でも、東京都の道路事情の劣悪さが見て取れます(国際比較と数値が違うのは『混雑時』である点と、データ取得年度の違い)。

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実際に、世界各都市における環状道路の整備状況を見ても、東京都の「整備率(計画に比してどれだけ整備が進んでいるか)」は著しく遅れており、これが平均旅行速度の差につながっていると考えられます。

そんなわけで、東京都は現在も「都市計画道路」としていくつもの道路整備計画を持っているわけですが、この中でも特に防災に寄与すると考えられる路線を

木密地域不燃化10年プロジェクト

における「特定整備路線」として、優先的に着工していくことを決定しています。これは以前にもブログで取り上げさせていただきました。

「道路=公共事業=悪」と思われがちだけど…

わが北区にも補助73号線、補助86号線と二つの路線が計画に入っており、現在も根強い反対運動が行われています。

前置きが長くなりましたが、こうした道路整備とそれに伴う立ち退き交渉というのが、以前に比べて格段に難しくなっているのではないかと感じるのです。

その主な要因と考えられるのは、以下の3つです。

1.権利意識の拡大

豊かになって教育水準が向上すれば、国民の権利意識が強くなります。もちろんそれ自体は悪いことではないとしても、国策で進める事業に対して反対する住民の数は増えることになります。

2.所得の向上

身もふたもない話ですけど、昔は貧しい人が多かったので立ち退き料を多めに払えば積極的に動く人も少なくなかったようですが、これくらい日本(東京)が豊かになると、金銭だけの解決は困難です。

3.高齢化

最大の要因は、やはりこれ。若い世代が多い地域であれば、

「立ち退き料で新しい商売でも初めて、新天地で一発やるか!」

なんて人もいると思いますが、だんだんお年をめしてくると「お金なんていらないから、ここで余生を過ごさせてほしい」と考えるのは、ごく自然な流れともいえます。

簡単に言えば、豊かな先進国では価値観が多様化するため、「国策だから」「お国の発展のため」というだけでは、住民が納得してくれなくなります。成熟した民主主義国家が直面していく課題ともいえるでしょう。

とはいえ、以前の記事にも書いた通り、必要な道路は子どもたちに形として残すことができる貴重な財産です。

「災害時に強い、安心安全の街」
「産業発展のため、交通インフラが整った環境」

を将来世代に残すことは、今を生きる現役世代の責務でもあります。

道路の必要性と、その街に住む住民の納得。難しい調整ですが、数値による必要性を丁寧に説きながら、事業が円滑に進むべく活動していきたいと思います。

それでは、また明日。


編集部より:この記事は都議会議員、おときた駿氏のブログ2014年5月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださったおときた氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はおときた駿ブログをご覧ください。