日本の企業社会は「真のM&A」ができるほど成熟していない --- 岡本 裕明

2014年06月03日 11:12

山崎豊子の「華麗なる一族」では都銀第十位の阪神銀行に迫りくる金融再編の波に飲み込まれないように「小が大を食う」企業合併を画策する話が主題のひとつであります。官僚から「せめてランクがシングルでないと」と言われるシーンは70年代初頭の小説にも拘わらず今日の企業戦争に通じるものがあります。シングル、つまり、ランクをあと一つ上げるために銀行は熾烈なる預金獲得の指示を行い、企業戦士として過労死するところなど今と何一つ変わりない日本の社会を描いています。


私が中堅ゼネコンで働いていたころ、転換社債を大量に発行し、その転換が進んだことで会社の資本金が瞬く間に巨額になっていきました。本社の各フロアには総務部から「お知らせ」と称した新資本金のアナウンスがたびたび繰り返され、あたかも資本金の大きな会社は優良会社だ、と言わんばかりでした。

その後、日本のゼネコンは位置関係(序列)が決まっていて中堅ゼネコンは一生中堅で終わるという懸念から業務拡大を目指して海外に拡大の道を求め、飛び出していきます。年間受注額や施工高で国内公共事業の発注額が決まるという仕組みの中、海外事業は全受注の3割を超えていきます。更に画策したのはゼネコン同士の合併でした。東証一部上場のT興業との合併計画はゼネコン初とも言われ、注目を集めましたが、そこには「政治決着」が待ち構えていました。「ゼネコンに企業合併はふさわしくない」と。

月曜日の日経のトップは「第一生命、米生保買収へ プロテクティブを5000億で買収 保険で最大 海外展開加速」とあります。この記事の見出しは今回の買収の本質をついていないような気がします。いま、生命保険、損害保険業界は各社入り乱れての戦国時代にグループ化が進んでいます。生保に関しては横綱、かんぽと大関、日本生命が圧倒的地位で他社が入り乱れて戦っているという構図でしょうか? 第一生命は今回の買収を通じて一気に日本生命に肉薄する構図は正に私がゼネコンにいた時に成せなかった三段跳び技であります。

企業がランクにこだわるのは生き残りはトップ1、2社と言われる厳しさがあるのでしょう。勿論、業種より本当にトップ一握りしか生き残れないところもあれば建設業のように何十社と生き残れるところもあります。違いにはマネーを押さえるのか、人を押さえるのか、技術なのか、ノウハウなのかという違いに表れてくるかと思います。ただ、企業経営者となれば株主、銀行のしがらみの中、常に企業は成長させるという前提があり、売り上げと利益率というしがらみとの戦いであります。その中で企業買収という力技はホップ、ステップ、ジャンプで買収する側、される側、それを傍観する同業者それぞれが複雑な思いを馳せることになります。

日本企業同士のM&Aが少ないのは被買収企業の意地かもしれません。いわゆるネットバブルの頃は日本でも創業間もない会社を大枚はたいて買収するケースが目立ちましたがそれは買収される側にネット長者という特殊な目的意識が存在したからです。通常は日本の企業はファンドが持つ会社でなければそう簡単に身売りはしません。

ところがアメリカの企業は自社の技術やノウハウをこの会社に託し、更に大きくしてもらいたいという夢を持っているところも多い気がします(株主は3割も4割も上乗せしてくれる買収金額に酔ってしまうという意見もあるでしょうが)。

少子化は内需の減少ですから企業が今後大きく成長するには海外企業の買収を通じた成長を図るしかありません。ですが、私は最後に一言だけ申し上げておきます。海外企業の買収は金を積めば買えますが、買った魂を育てるか、だめにするか、本当の勝負は買収してからなのです。買収という苦労を知った人間だけが分かるその苦労を乗り越えるには日本の国際化しかないのでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年6月3日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。

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