カタリストとしてのガバナンス

森本 紀行

バリュー投資というのは、価格が価値を下回っている状況に投資することだ。では、そもそも、なぜにバリューになってしまうのか。ここを徹底的に考えておかないと、バリュー解消の道筋が見えてこない、つまり、バリュー投資が成り立たない。バリューになった原因を逆転させれば、バリューは解消するであろうと考えるのが、一番素直なのだ。


バリューになった原因を逆転させるきっかけをカタリストと呼ぶ。化学反応の触媒のことである。カタリストの到来は、適正な経営行動や経営環境変化(化学反応)を誘発し、バリューは解消に向かうはずである。

多角化の失敗を例にとろう。多角化に傾く誘引は、どの企業の、どの経営者にも、多かれ少なかれ、あるわけだが、現実には、多角化は成功するとは限らない。多角化事業の収益化の遅れは、バリューの原因を作る。本来の中核事業自体は、高収益であっても、多角化事業が足を引っ張り、その結果、企業全体の業績の低迷につながり、株式市場における評価を下げてしまうからだ。

この場合、バリュー解消の一つの道筋は、多角化事業の撤退である。この多角化事業の撤退は、カタリストではなくて、バリューを解消へ向かわせる化学反応そのものといえる。カタリストは、多角化事業の撤退という経営の意思決定である。ということは、そもそも、よく経営されている会社は、バリューにはなりにくく、仮にバリューになっても、カタリストは常にあるということなのだ。

適切な経営判断ができなければ、株価は低迷し、安い価格で高収益な中核事業を手に入れようとする外部の買収者に、格好の標的を提供することになる。ここでは、買収提案がカタリストだ。買収した企業による被買収企業の再編が、カタリストによって誘発される化学反応なわけである。

多角化の失敗は、わかりやすい例であるが、バリューに陥る原因は、他にも色々と考えることができる。企業が保有する資産の利用効率の低さも、代表例だろう。資産の運用効率が低いということは、不稼動資産を保有していることが経営効率を下げているのであって、そのような非効率を除去すれば、本業の収益性の高さが明確になって、株価は修正される可能性が高い、ということだ。こういうときも、カタリストというのは、結局は、適切な経営判断や買収等になるのだろう。

結局、バリューはカタリストがないと実現しない。そして、カタリストは、より多く経営判断の問題である。だとすると、そもそも、カタリストがあるような会社は、バリューに転じにくい、バリューになるような企業は、カタリストがないからバリューが実現しない、ということになってしまう。これでは、バリュー投資は成り立たない。困ったことだ。

困っていても仕方ないので、二つのことを考えるしかない。良い会社でも、自律的にカタリストがでてくるような良い会社でも、バリューになる状況というのがあるのではないか、ということ、これが第一。第二は、カタリストのないバリューに、どうしたらカタリストを作ることができるのか、この第二の点が、いわゆる株主の積極的な経営関与としての正しいアクティビズムの問題である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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