ワールドカップTV観戦記⑧~ブラジル崩壊の衝撃と陳腐と~

2014年07月09日 19:20

W杯準決勝のドイツVSブラジル戦は7-1でブラジルの大負け。非現実的な光景に唖然とした。ブラジルの崩れ方はあまりにもあっけなく、そして徹底していた。

それは対戦相手のドイツの大きな成功、ということでもあるのだが、当のドイツチーム自体が信じられない試合展開に喜びつつ困惑している、という風にさえ見えた。


ブラジルは、主将でDFのチアゴシウバ、FWのネイマールの2人が欠場するのでやや不利、という雰囲気は試合前からあった。

チアゴシウバもネイマールもそれぞれのポジションで世界屈指の優れた選手である。チーム内でも最重要な位置を占める。2人がいないブラジルには動揺があった。

しかし、古豪ブラジルの選手層は厚い。強いチームが常にそうであるように、ブラジルにも2人がいない穴を埋める選手がいて、それでも足りないものを補う戦略と知略と作戦がある。それでなければ、W杯を過去最多の5回も制覇できる訳がない。

それでもブラジルには危ういものが付きまとっていた。予選から準々決勝に至る戦いの中で露見した、たとえばイタリア語で言うところの「SENZA GIOCO(センツァ ジョーコ)=ジョーコの無さ、ジョーコの欠落」である。

伊語のジョーコ(GIOCO)とは英語のPLAYに当たる言葉だが、サッカー用語として使う場合はPLAYよりも複雑で微妙で深い意味がある。

それは遊戯であり、知恵であり、ゲームであり、展開であり、技術であり、戦略であり、狡猾さのことでさえある。要するにジョーコとは、サッカーのゲーム運びの真髄に当たるものである。

僕が知る限り「SENZA GIOCO(センツァ ジョーコ)に当たる英語の言い回しはない。それを日本語に置き換えた場合のニュアンスも難しいが、敢えて言えば「連携プレイの妙の無さ」とでもすれば少しは意味が伝わるだろうか。

各チームには技術レベルや才能の違う個々人の選手がいる。彼らはそれぞれが独自の能力を発揮して、味方の選手と「連携」して相手ゴールを目指す。従って連携とはパスワークのことである。

しかし、パスワークはそこに技術や、技術を活かす知略や、相手を出し抜く狡猾や、予測不可能なアイデアや、独創や想像力や驚き等々が加味された「ジョーコ」でなくてはならない。

ブラジルにはそのジョーコが希薄だった。その為にブラジルの戦いはFWネイマール1人に大きく頼り過ぎるような印象のゲーム運びになっていた。実はそれは、今回大会に関する限り、もう一つの準決勝進出国アルゼンチンにも当てはまるように僕は思う。

ジョーコも無く攻撃の頼みのネイマールもいないブラジルは、ならば絶望ではないか、という見方もあるかもしれない。が、決してそうはならない。ブラジルにはそれらを補って余りある経験と他とは違う奥の手のような「ジョーコ」があるのではないか、と少しサッカーを知っている者なら考える。

そんな訳で、ブラジルはドイツに比べて少々不利、というほぼ一致した見解はあったものの、誰もが世界サッカーの頂点にいるチーム同士の激突に胸を膨らませていた。大舞台では少しの不利が刺激になって、逆に力強いパフォーマンスが生まれたりもするものだから、余計に。

だが現実は、「信じられない」という言葉が空しく聞こえるほどの、ブラジルの大崩壊だった。W杯という大舞台の準決勝で、しかも誰もが知る強豪同士の戦いでの7-1という結果は、ほとんど笑い話だ。バスケットの試合じゃあるまいし。

そこで見えるのは、サッカーはやはり心理作用が大きく働くゲームだということである。ドイツとブラジルの間にはーブラジルが2人の重要選手を欠いての戦いを余儀なくされたとはいうもののー7対1の得点数に見合う物理的な差異はもちろん無い。だが、心理的な7-1の状況があったのである。

ブラジルは、自チーム不利という下馬評を粉砕しようとでもするように、試合開始と同時に攻勢に出た。ホームの大観衆がそれを後押しした。開始45秒では早くもコーナーキックを得、2分過ぎにはマルセルの惜しいシュートもあった。しかしブラジルの攻勢はほぼそこまで。

ドイツは試合開始5分前後から目覚め、逆に攻勢に出始めた。そして10分過ぎには最初のゴール。その後も攻め続けて、23分からほぼ1分置きに3ゴールを叩き込んだ。前半25分でドイツの4ゴール対0。ブラジルの心は完全に折れた。

最終スコアの7-1は異様な数字である。ここから多くの分析と議論と罵り合いも起こるだろう。心理的な圧力によって生じた結果はしかし、恐らく誰にも正確には説明できない。現場にいて選手と「ジョーコ」を指示し管理していたスコラーリ監督でさえも。多分。

なぜならブラジルの崩壊の規模は確かに衝撃的だが、スコアに現れた数字の大きさを別にすれば、心理的要素が強く作用する「肉体的ゲーム」であるサッカーでは、そうした恐慌が選手をそしてチームを襲うのは、極めてありふれた出来事でもあるから。

ともあれ結果がこうなった以上、僕は個人的にはドイツVSオランダの決勝戦を見てみたい。なぜなら今夜オランダとぶつかるアルゼンチンは、前述したようにブラジルに似て今のところは「ジョーコ」が希薄だ。その為に試合運びをメッシ1人に頼り過ぎているきらいがある。

それよりは、ドイツ同様に明確な「ジョーコ」を展開しているオランダが勝ち進んで、両チームが決勝で激突するのを見てみたい。

もしそうなった場合には、歴史的にドイツに少なからぬ怨念を持つオランダは、W杯初優勝の悲願達成の夢も相まって、見応えのあるゲームを展開してくれそうな気がする。

そして再びもしもそうなった場合には、僕は判官贔屓でオランダの肩を持ちたい。ドイツには何の恨みもないが。

とはいうものの、もしも今夜の準決勝のオランダVSアルゼンチン戦で、後者のエース・メッシが大いなる活躍を見せてくれるなら、1986年大会でマラドーナが大活躍をしてアルゼンチンを優勝に導いた夢の再来を期待して、アルゼンチンも応援したい。

そして決勝がドイツVSアルゼンチンになった場合にも、僕はやっぱりドイツではなくアルゼンチンの肩を持ちたい。なぜならメッシがマラドーナの神域に達する歴史的瞬間を見てみたいから。ドイツには何の恨みもないが。

仲宗根雅則
テレビ屋
イタリア在住

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