ワールドカップTV観戦記⑨ ~ブラジルの悪夢の金縛り~

2014年07月11日 01:50

ブラジルの大崩壊を受けて行われたW杯準決勝第2戦オランダVSアルゼンチンは、夢も興奮も魅力も何もない退屈な試合だった。両チームが前夜のブラジルVSドイツの亡霊に脅かされて、すっかり萎縮してしまったのが原因だと思う。


正確に言えば、前夜の試合の亡霊ではなく、7失点もの大敗を喫したブラジルの二の舞を演じることを怖れた両チームの選手たちが、攻撃に慎重になり過ぎたのだ。ガチガチに固まった印象の試合運びは、彼らの気持ちが多く守備に引きずられていて、攻撃は「相手のミスを待つ」という程度の構えでいたからではないか。

サッカーはメンタルな要素が強く働くゲームだ、と僕はこの一連の観戦記の中で何度も書いた。W杯準決勝のオランダVSアルゼンチン戦は、その典型的な例だと考える。対戦では試合開始と同時に、いや恐らく試合開始前から、選手たちが強い心理的ストレスに襲われていたことが明らかなゲーム展開に見えた。

その前日、文字通り世界中の耳目を集めて行われたW杯準決勝戦のドイツVSブラジルは、最終スコアが7-1という歴史的な「事件」になって終結した。オランダとアルゼンチンの選手たちはそのドラマを目の当たりにした。またそれに伴う地元ブラジルの動揺と騒乱、さらに試合結果に衝撃を受けた世界中のサッカーファンの反応等もひしひしと肌身に感じながら試合に臨んだ。

彼らは試合前からブラジルの大崩壊がもたらした混乱に心を奪われていて、ブラジルと同じ失敗をすることを極端に怖れていた。選手たちにそのことを問いただせば彼らはきっと一様にそんな事実はないと否定するだろう。なぜならそこでは誰もが、W杯の大舞台で相手を蹴散らして決勝進出を果たしたい、と心の底から願っていただろうから。

しかし彼らの思いとは裏腹に、前日のブラジルの転落の悪夢がもたらしている恐怖が、無意識のうちに彼らの動きを規定した。金縛りをかけたと言っても良い。つまり大量失点への警戒感が先立ってしまい、仕掛ける攻撃のことごとくが腰砕けになった。斬り込みに展開がなく華もなく動きも鈍い。結果シュート数も少ない試合内容になった。

シュート数が少ないとは、シュートを撃つまでに至る攻撃の組み立てが少なかった、ということである。攻撃には必ず相手の反撃を誘い込むリスクが伴う。リスクを取らなければ思い切った攻撃はできないのだ。

そしてオランダとアルゼンチンにとっては、攻撃と表裏一体のそのリスクが、昨夜の試合に限ってはブラジルの崩壊のイメージと重なって巨大に見えた。だからオフェンスの度に足が竦んでしまい中途半端な動きになった。延長戦までもつれこみながら、0-0に終わったのもそのことと恐らく無関係ではない。

レベルの高いサッカーの試合では、結末が0-0で終わっても十分に面白い、見応えのある内容であるケースには事欠かない。それは両チームがリスクを怖れず に攻めまくり且つ必死に守り抜く結果、見る者を飽きさせない価値あるメッセージが形成されるからである。オランダVSアルゼンチンの0-0にはそんなメッ セージは微塵も含まれていなかった。

ここで考えてみたいのは、ブラジルの悪夢は実はドイツの歓喜だったという事実である。オランダとアルゼンチンはブラジルの悪夢に振り回される のではなく、ドイツの歓喜の「二の舞を舞う」こともできたのだ。あるいは舞うことを目指して、リスクを冒しながら大胆に攻めまくることもできたのだ。しか し、彼らはドイツの成功を目指すよりも「ブラジルと同じ失敗をしない」道を選んだ。

それは-繰り返しになるが-ブラジルと同じ境遇に陥るこかもしれない、と内心恐怖に怯える集団が無意識のうちに選択した道である。怯えと呪縛と葛藤が積極果敢な攻撃を仕掛ける気持ちを挫いた。その結果、世界屈指のチーム同士の準決勝戦には相応しくない、大あくびを誘発するゲーム展開が生まれた、と結論付けることもできる。

ともあれ、アルゼンチンはPK戦を制して決勝進出を果たした。こうなったら捨て身の覚悟で強力軍団のドイツにぶつかっていってほしい。ブラジルを粉砕したドイツの成功をなぞる気持ちで当のドイツに挑む以外、今のアルゼンチンが成果を残せる道はないように思う。

仲宗根雅則
テレビ屋
イタリア在住

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