注文の多い客 --- 岡本 裕明

アゴラ

宮沢賢治の小説の話ではありません。最近の消費者のこだわりに対する経営の難しさが最近気になっています。お客さんは本当に情報通となり、下手をしたら店の店員やオーナーよりも知識を持っていることも多く、どっちが店員か分からないようなこともしばしばであります。ビジネスが難しくなったと言われる所以の理由がこんなところにもあるのかもしれません。


カナダの中古の集合住宅。不動産屋が顧客を部屋に連れていきます。10年も前なら部屋をざっと見て、眺め、間取り、クオリティをみて奥さんが欲しいと言い、旦那が価格など諸条件の交渉して決まるというのがごく普通でありました。が、最近は管理組合議事録をじっくり読み、過去の水漏れなどの状況と対策、デベロッパーの評判や他物件の噂話をチェックし、デベとの訴訟(こちらは不具合に関してかなり頻繁に訴訟が起きます)状況を確認し、建設会社を調べ、その評判をチェックし、隣人がどんな人か確認します。まるでそれは検査官が物件を査定するがごとく中味を詳細に調べていくのです。それをみて不動産屋から「やり切れません」と思わずため息が出てくるのもうなずけます。

日本ならともかくカナダでもこの細かさが最近はごく普通になってきたというのが世の中の変化というものでしょう。

私の会社のレンタカー部門。夏のこの時期はほぼ連日、車は全車出ずっぱり。その中で借りる人はまず、車種指定、おまけに年式も確認してきます。「あっ、最新型でないなら借りません」というお客さんにレンタカーにそこまで求めるのか、と思ったりします。この事業はまだ駆け出しなので改善するところはいくらでもあるのですが、私が思うレンタカー事業の将来の姿とは「ホテルと同じぐらいのホスピタリティ」で「ホテルの部屋と同じぐらい清潔で居心地の良いクルマの空間を提供する」ということになってくると思います。

カーシェアリングがイマイチ延び悩むのは車のメンテ不備が多いからです。ドロドロになった車、前の人の「匂い」が残っている車、身に覚えのない車の傷の弁償をさせられた話もあります。安ければ何でもよいというわけでもないのです。安くてさらに顧客の高い要求に答えなくてはいけないのです。

日本人は世界でもっとも品質にこだわる人種である、とされています。隅々まで完璧でないと気が済まない日本人は時としてクレーマーを生み出します。昔のクレーマーならほかの客がいる前で店員を相手に大声で文句を言い、商品や店の罵詈雑言を浴びせるわけです。ところが、最近はネットというもっと拡散しやすい方法でさらに掻き立てることで「気持ちをすっきりさせる」ことが日常茶飯事のごとく行われてしまいます。

結果としてそこに残されるのは売り手であります。世の中には完璧な商品はないし、全ての客を満たすものはありません。だからこそ、対抗馬の商品や店舗があるのであり、消費者は自分の好きな方を選ぶわけです。例えばスターバックスが好きな人と嫌いな人、気にしていない人などいろいろいます。嫌いな人は端からそこに行かなければよいと思うのですが、友達といやいや行き、その店で自分の好み通りにならなかったことでトラブルが生じるのでしょう。つまり、顧客の我儘なのですが、「お客様は神様です」という発想は日本だけでなく資本主義の国では基本的に同じです。よって文句の一つでもあれば「どうも申し訳ありません」と謝罪し、次回の割引クーポンなるものが出てくるという落としどころに至るのが最近の傾向のような気がします。

これが意味するものは資本の力が勝りやすいということです。小さな会社では顧客サービスのためのバックグラウンダーを十分整備することは厳しいものがあります。社員教育もしかり。私の顧客のホテルでは年中、社員教育のためのトレーニングが開催されていますが、私から見れば「羨ましい」の一言です。インターネットとソーシャルメディアによる情報の拡散がもらたすこの経営の難しさは「風が吹けば桶屋が儲かる」的な発想かもしれませんが、いやいや、小規模企業の最前線で顧客対応をしていると本当、よくわかります。私も「もう、やり切れません!」と思わず、叫びたくなります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月20日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。