資金調達2.0 塗り替えられるベンチャーキャピタルとIPOのビジネスモデル

大石 哲之

ビットコインは、資金調達やVCのビジネスモデルにも僅かではあるが影響を及ぼしはじめている。

ビットコインによる資金調達の事例が立ち上がってきているからだ。

クラウドストレージのMaid Safeはビットコイン建てで資金調達を行い数時間で5億円の資金をあつめ話題になった。それに続くようにいくつかの調達案件がでてきている。

8月に行われた Storjの調達では、910BTC(日本円にして5000万程度)の調達がおこわれれた。

最も金額が大きいのは、ethereumで、これはまさに現在公募中であるが、現時点で、少なくとも30,000BTC以上の資金を調達しており、これは15億円以上にものぼる。

指摘すべきは、これらは、暗号通貨を通して、暗号通貨の世界でおこなわれたことだ。

これは、既存の、株式会社と株式、ベンチャーキャピタル投資、IPOと株式市場という組み合わせとまったく違う生態系で動く経済圏であり、それが徐々に動き始めた。将来的に、スタートアップやIPOといった市場をガラリとかえてしまう可能性がある。

3つの重要な特徴を書いておく

①主体は株式会社ではなく、プロジェクトやサービスである

②資金調達は、独自の暗号トークンの発行によっておこなわれ、ビットコイン建てで一般から集める

③独自の暗号トークンは、交換市場が立ち、すぐに換金性ができる

まず、これらの資本調達の主体は、株式会社ではない。おおくがプロジェクトベースの取り組みであり、CEOやCTOはいるものの、株式会社という法律をつかっているわけではない。本社所在地とかそういう概念もないだろう。

彼らがサービス開発のために資金がほしいとおもったとき、VCを尋ねるのではなく、ビットコインによる資金調達を考えた。

彼らは、サービストークンというものを発行する。たとえば、Storjを例にだろう。この分散型ストレージサービスは、Storjコイン(SJCX)という名前の暗号通貨トークンを発行する。

ユーザが、Storjのディスク・スペースを使いたい場合、SJCXを持っていて、これを支払う必要がある。一方、自身の使っていないディスクスペースを貸し出したい人は、Storjのクラウドにリソースを提供すると、SJCXが貰える。こうして、Storj内での一種の経済圏が出来上がる。

その経済圏内の通貨がSJCXということだ。これを、前売りというかたちで発行し、販売する。SJCXが欲しい人は、指定されたアドレスにビットコインを送るだけでよく、その後、SJCXが送り返されてくる。

これは将来のリワードや利用券を約束して資金調達するクラウドファンディングに近い。

そのため、一般名称として「(暗号通貨の)クラウドセール」という名前がついている。この資金調達は、IPOといっためんどうな手続きを踏むことなく、全世界からお金を集めることができる。あつめるのに必要なコストも極めて低く、クラウドファンディングサイトのようにカード手数料もプラットフォームフィーも不要だ。

Storjの場合、全体発行量500,000,000 SJCXのうち、約35,000,000 SJCXを総額910BTCで売って、資金調達した。

Ethereumの場合、約600,000,000 ETHを売り、すくなくとも30,000BTC以上の資金調達が見込まれている。

そして、重要なのは、このSJCXは、すぐさま上場されるということだ。

Storjコインは、すでに、いわゆる仮想通貨の交換所でとりあつかわれていて、SJCX/BTCという通貨ペアがたっており、少量だが取引がある。

つまり、コインを発行して資金調達した瞬間にIPOがされて、上場がされて、Exitができるということだ。Storjに投資したひとは、すぐさまそれを市場で売り払うことができる。

従来の株式会社 – VC – IPOモデルと比べてみよう

従来の場合、株式会社が株式を発行し、VCやその他の投資家がそれに投資し、M&AやIPOをへて一般に売りだしてExitした。その後は東証などが市場を建てる。

暗号通貨企業とその資金調達の場合、主体は会社ではなく、独自の暗号通貨を発行し、BTC建てで世界中の一般投資家から調達する。その後は無数の仮想通貨交換所で市場が立つ。

このスキームで不要になるのはなにか。VCは確実にいらない。IPOやExitという概念はなくなる。株式市場は、仮想通貨Exchengeに取って代わる。

ビットコインは単なる仮想の如何わしいお金ではない。経済システムの根本を変えてしまう可能性を秘めている。