「食」へのこだわりと変遷するファーストフード勢力図 --- 岡本 裕明

アゴラ

中国の鶏肉業者が使用期限切れを使っていた問題でマクドナルドは思わぬつまづきをしてしまいました。業績好調で前向きの時ならばこれを打ち消してさらに余りある対策が取れるものです。ところが、マクドナルドには今、あらゆる逆風が吹き荒れています。日経電子版の長い記事、「マクドナルド、現場を襲う負の連鎖」はある意味、その恐ろしさを如実に表現しています。


どの世界でもそうなのですが、積み上げには時間がかかりますが、信用を失墜させ、ビジネスをダメにするのはたった一回、一日の失敗で十分なのです。理由はネット社会。失敗を理由に根掘り葉掘り、過去の問題や普段表に出ないことをメディアは販売力と考えます。従業員にインタビューし、内情が面白おかしく伝えられます。大衆を扇動してしまうと日本を含むアジアでは恐ろしいほどの力となり、どんな巨大企業でも押しつぶす力を持っています。

おまけに悪いことに同社のサラ カサノバ社長が顧客である大衆とコミュニケーションが十分にできていないことがもっとことをややっこしくしています。この場合のコミュニケーションとは直接的な記者会見のみならず、雑誌や新聞などのインタビューを通じたカサノバ氏個人のバリューの売り込み、更には彼女に共鳴する他の影響力ある経営者のサポートなどが必要です。

日本は残念ながら「外もの」に対して極めて警戒的であり、その人のクレジタビリティと評価が一定水準にならないと水面上に出ないという特殊性を持っています。「結局、外国人には日本のことが分からないのでじゃないか?」と思わせてしまったその理由はマクドナルドがもはや、日本の外食にしっかり根付き、期待値が高いこと、藤田田、原田 泳幸氏という経営者が築いた城はアメリカ流MBA手法だけではかなわない複雑な領域にあることかと思います。

そのハンバーガー。北米でも面白いことが起きそうです。バーガーキングがカナダのドーナッツ店、ティムホートンズ 買収交渉へ動き始めました。買収金額は10ビリオンドル、うち、ウォーレンバフェット氏の会社が3ビリオンドル程度ねん出すると言われています。

カナダの人にとってティムホートンズは日本人のマクドナルドと同じぐらい誰でも必ず行ったことのある大衆的なドーナッツとコーヒー、ブレックファストなどを主力としている店であります。その店舗数はカナダだけで3500店を超えています。人口でみれば1万人に一店舗です。ちなみに日本のマクドナルドは約35000人に一店舗ですからいかにティムホートンズが多いかお分かりになるでしょう。

ドーナッツの一人当たりの消費量はカナダが世界一であります。これもティムホートンズのおかげかもしれません。そのティムホは長年、ウエンディーズと組んでいました。今は資本関係はありません。ただ、今でも店舗によっては両店が一つの軒先に仲良く並んでいます。同社はバーガーキングとの交渉のテーブルに乗るわけですから、北米のハンバーガー業界も大きな勢力地図の塗り替えが起きる可能性があります。仮に買収が成功すれば世界第三位にファーストフードチェーンになります。

ところで、バンクーバーにはナショナルレベルのレストランチェーンがいくつもあるのですが、最近その最も有名な店に参りました。たまに行くのですが、決して安くない価格で決して美味しくないものをなぜ、人々は行列を作ってまで食べに来るのか、ビールを飲みながら考えていました。ビジネス街の店舗が流行る理由は「おしゃれ」「きれいなサーバーさんがにこやかに対応してくれる」で私が行った店は更に海と山の「眺望」というおまけがつくということでしょう。

つまり、そこに本当に食に対するこだわりはあるのか、と思わず聞き返したくなります。

私も自分のコーヒーショップで使っている豆がどうしても満足できず、近々変えることにしました。今度の豆は絶対的自信がありますが、旧知のロースターであるこの社長に「このコーヒーをどう自慢するのかね?」と聞いたら「飲んでみて自分で確認してもらいなさい」と言われた時、この社長のこだわりを感じました。

フードはこだわりであるとともに時代と共に変わるトレンドにいかに乗るかということでしょう。カナダのトレンドは店舗、サービス、クオリティの正三角形の関係が崩れているように思えます。

日本のマクドナルドもそういう意味ではクオリティに問題がありました。そんな中、もしもバーガーキングがティムホートンズと組んで日本にでも進出したら新たなるブームが起きることは間違いありません。それは人々が新しいものに飢えているからです。

ファーストフードとはそれぐらい勢力地図が変わるものです。逆に図体が大きくなりすぎて身動きが取れなくなっているのが日本の大手ファーストフード業界のような気もします。北米の買収は極めて大きな資本力で既存のビジネスを変えてしまい新たなる流行の風を吹かせ、人々はそれにまたなびいていくということでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。