欧州の経済状態は「抗生物質」の使い過ぎ --- 岡本 裕明

アゴラ

欧州中央銀行は政策金利を0.1%引き下げて0.05%とし、いわゆるブタ積みと称する銀行が余った資金を中央銀行に預けておく金利はマイナス0.1%からマイナス0.2%とその「フィー」を引き上げました。その上、資産担保証券(ABS)買い入れも決定し、将来的には量的緩和も検討しそうだということになっています。

マリオ・ドラギ総裁としてはあらゆる手段を講じて浮上しない欧州経済に刺激を与えようとしているように見えます。

それでも欧州経済が日米のように金融政策によって鋭く反応しないのはなぜなのでしょうか?


いくつか理由はあるかと思いますが、日米には中央銀行と政府が直接的にタイアップした強い関係が存在しますが、欧州の場合、寄り合いですから各国の事情がそこに出てしまい、全てを丸く収めるのが難しいことが最大のネックになっているのではないでしょうか?

私が大学一年の時、経済原論の講義でまず出てきたのがリカードの比較優位。その例えはイギリスの毛織物とポルトガルのワインの貿易を用いて説明したものであります。1800年代の経済学者が欧州の二つの国の得手不得手をベースに歴史に残る経済の原則を発表したのです。それは今日でも何ら変わりがありません。世界最大の工業国の一つドイツと地中海に面するスペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャと比較優位は今でも当然あるわけです。この温度差は何年経っても変ることがないとすればそれは国家の本質的問題といえましょう。リーマン・ショック後、欧州危機で苦しんだ際、ユーロ圏の構造的問題が取りざたされました。悲観論者のヌリエル・ルービニ教授などは欧州の終わりぐらいのトーンでその先行きに懸念を示しました。

ところがPIGGSを中心とする国々が危機から立ち直ったのは「イタリアのマリオ」、ドラギ総裁のおかげでありました。2012年9月、「改革を実行する国に対しては国債を無制限に買い取る。どんな手段を使ってもユーロを防衛する」という力強く勇ましいこの発言は瞬く間に世界を駆け巡り、欧州最大の危機から回復するきっかけとなりました。

ルービニ教授もこれには舌を巻き、欧州の当面の危機は去ったと述べていました。

しかし、金融政策が「抗生物質による即効性ある対処」であるとしたらそれを飲み続ければ当然副作用が発生します。日米はそれなりに漢方薬となる経済政策を通じた体質改善も行ったことで一定の効果と長期的なバランスが取れつつあると思いますが、欧州の場合、この漢方に当たる部分が国ごとになっているため、それこそ、頭、うで、内蔵、足…といった具合にバラバラの薬が投薬されているともいえるのかもしれません。その上、困ったことにロシアという「ばい菌」が体を蝕もうとしているのです。

私の俯瞰する欧州の病とはこんな感じであります。

ECBが予想するEUの2014、15、16年のGDP予想は0.9%、1.6%、1.9%。一方のインフレ率は0.6%、1.1%、1.4%となっています。明らかに低いと言わざるを得ません。

欧州はもともとの経済構造が硬直的でフレキシビリティの欠如が根本的な問題となっています。労働市場の問題はその最たるものであり、ネット社会やグローバル化が進んだ結果、あらゆる経済の原則、ルール、法律を見直さねば風化した経済体となってしまいます。欧州がデフレの「日本化」を恐れているようですが、私は日本よりも出口を見出すのが難しい状況すらあり得ると思っています。

ユーロ圏からの資本の離脱が起きることが最悪のシナリオ。こうならないよう対策を打ち立てられるかは各国の経済政策の見直し、それこそ、欧州版「○○ミクス」の到来が待たれるのではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年9月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。