いまだに使われるメラビアンの法則の不思議

尾藤 克之

最近、テレビを見ていたらメラビアンの法則について取上げている番組がありました。10年以上前にコミュニケーションの技術として広まった考え方ですが、いまでは提唱したメラビアン自身が「間違った伝わり方をしており日常では使用できない」ことを発表しています。ところが未だにメラビアンの法則は使われ続けています。何故でしょうか。


●メラビアンの法則とは

ご存知の無い方のために、若干メラビアンの法則について説明をしたいと思います。人に情報が伝わるとき、視覚(ビジュアル)、聴覚(音声)、言語(文字)の3つの要素があり、それぞれの伝わる頻度を数値化したものが「メラビアンの法則」と言われているものです。

イメージをつかむために分かりやすく説明したいと思います。研修やセミナーでは次のような感じで説明されていることが多いのではないでしょうか。

『視覚(ビジュアル)は相手と会って直接コミュニケーションをとることです。ところが相手と直接対面しても55%しか伝わりません。だからより伝わり易いようにボディランゲージやノンバーバル(身振り手振り)が必要となります。営業マンの方はお客様により伝わるようにノンバーバルを活用しなければいけません。次に聴覚(音声)です。聴覚(音声)では伝えたいことの38%しか伝わりません。聴覚とは音声ですから電話のことです。ところが電話で話していても伝えたいことが伝わらないことってありませんか?伝わり易いように声に抑揚をつけなければいけません。次に言語(文字)です。言語(文字)では伝えたいことの7%しか伝わりません。だからメールって伝わりにくいですよね。メールでコミュニケーションエラーを起こした経験のある人はいませんか?』

だいたいこんな感じだと思います。そしてメラビアンの法則を分かりやすく伝えるために幾つかのエピソードを使います。

『ノンバーバル(身振り手振り)の使い方の上手い人で誰を思い浮かべますか?最近ではApple社のスティーブジョブズを思い浮かべませんか。身振り手振りを交えながら壇上を右へ左へと歩き回っている事に気が付くでしょう。このような動作を入れることで、話の内容をイメージさせて伝わり易くする効果があるのです。リーダーや管理職の方は、質の高いコミュニケーションを部下と確立するためにもノンバーバルの要素を取り入れてください。視覚(ビジュアル)55%、聴覚(音声)38%、言語(文字)7%。各指標の数値を並べて「55、38、7」。これは「ゴーゴー(55)サバ(38)ンナ(7)。ゴーゴーサバンナ」で覚えてください。部下の方にもコミュニケーションの重要性を教えてあげてください』

メラビアンの法則は主に研修で、コミュニケーションの重要性を学習するときに使われる指標です。実は、私も10年前までは同じようなことを研修やセミナーで話していました。ところが、これは少々考えれば矛盾だらけの指標だということはすぐに気が付きます。

言語(文字)だけで7%しか伝わらないなら公的な文書はどうなるのでしょうか。7%しか伝わらないなら文書で残しても93%の人に伝わらないわけですから文書の必要性がなくなります。また言語で7%しか伝わらないわけですから、仕事であれば業務のやり取りや交渉はメールでは出来ないことになります。書籍も作者の意図している7%しか伝わりませんから大変なことです。

聴覚(音声)も38%しか伝わらないなら、外出先から上司に業務報告の電話をしても、38%しか伝わらないことになります。報告・連絡・相談が機能しませんからマネジメントに深刻な影響を及ぼす危険性があります。

一方でノンバーバル(身振り手振り)で55%が理解できるのなら、英語の分からない人が、洋画の字幕なし吹き替え無しの映画を見て55%も理解できることになります。言葉が分からずに内容の55%が理解できるとは凄いことです。

●なぜ未だに受け継がれるのか

推測の域を出ませんが、55%+38%+7%=100%なので数値の指標として使いやすい点があるのでしょう。またコミュニケーションの重要性は誰もが理解していますから、コミュニケーションの重要性を説明するにあたって便利な指標なのだと思われます。

ところが困ったことに、未だに「言語の効果は7%程度しかない」「電話でも伝わらない」「ノンバーバルが重要」と、メラビアンの法則の素晴らしさを教えている先生が大勢いらっしゃいます。最近では、大学生向けの就職セミナーや、ビジネスマナー研修などで形を変えながら受け継がれています。

メラビアンの実験は「maybe」いう単語を様々な声質で録音して聞かせて、どのような印象を受けたかを測定するものです。強い発音では、普通の発音よりも「そうかもしれない」と感じたことを立証したものです。研究自体は、「視覚」「聴覚」「言語」で情報が与えられた際の受け止め方を測定するものでした。

もし研修やセミナーで、メラビアンの法則を教えている人がいたら質問をしてみてください。メラビアンの法則はどのような実験をもとに導き出されたのですか?どんな学説なのですか?と。既にメラビアン博士は「間違った伝わり方をしており日常では使用できない」ことを発表しています。研究者の意図を超えて成長する「メラビアンの法則」。とても不思議です。

尾藤克之
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