認知症高齢者/認知症ケアの現状と課題(1) --- 川越 雅弘

アゴラ

■はじめに

現在、地域包括ケアシステムの構築が、重要な政策課題となっている。

同システムは、1. 住宅、2. 医療(特に、在宅医療、退院支援)、3. 介護、4. 生活支援、5. 予防で構成されるため、保険者である市町村には、これら多領域にわたる課題を把握した上で、課題解決に向けた対策を検討するといった「地域マネジメント力」がこれから求められることになるが、特に、重要となる課題が、1. 認知症支援策の充実、2. 医療との連携、3. 高齢者の居住に係る施策との連携、4. 生活支援サービスの充実である。

本稿では、これら重要課題のうち、「認知症」に焦点をあて、認知症高齢者/認知症ケアの現状と課題について言及する。第1回目は、まず、認知症高齢者の現状(認知症の出現率(=人口に占める認知症の割合)、特性、所在地)を整理する。なお、本稿における「認知症」とは、厚生労働省の基準に準じて、認知症高齢者の日常生活自立度がランクⅡ以上とする。


■認知症高齢者の出現率(近畿地区A市の場合)

認知症支援策やサービス提供体制を検討するためには、認知症高齢者数の将来推計が必須となるが、これを行うためには、性別年齢階級別にみた認知症の出現率が必要となる。

厚生労働省は、2025年までの認知症高齢者数の推計値(470万人)は公開しているものの、そのベースとなった性別年齢階級別にみた出現率は開示されていない。そこで、小職が、介護保険事業計画策定に関わっているA市の人口及び認定データをもとに、試算を行った。その結果、A市の65歳以上人口に占める認知症高齢者の割合は10.2%で、これを性別にみると、「男性」6.9%、「女性」12.7%と女性の方が高いこと、女性の認知症出現率を年齢階級別にみると、「65-69歳」1.6%、「70-74歳」3.3%、「75-79歳」9.2%、「80-84歳」20.3%、「85-89歳」37.8%、「90-94歳」57.1%、「95歳以上」72.8%と、80歳から出現率が急上昇していることがわかった(図1)。

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■認知症高齢者の特性 ─認知症高齢者と認知症高齢者以外との比較

A市の平成25年9月の介護サービス受給者は4,395人で、うち認知症高齢者(以下、認知症群)は2,500人(56.9%)、認知症高齢者以外(以下、非認知症群)は1,895人(43.1%)であった。

ここで、女性の割合をみると、「認知症群」71.4%、「非認知症群」66.3%と、認知症群で女性の割合が有意に高かった。
次に、要介護度をみると、認知症群では「要介護3~5」が59.7%を占めるのに対し、非認知症群では「要支援1~要介護1」が62.3%を占めていた(表1)。

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■認知症高齢者の所在地

次に、所在地をみると、認知症群では、「在宅」66.8%、「特養」18.2%、「老健」7.6%、「グループホーム(以下、GH)」4.4%に対し、非認知症群では在宅が9割以上を占めていた(表2)。

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ここで、在宅療養率を要介護度別にみると、非認知症群では、要介護4でも8割を超えていたのに対し、認知症群では、要介護3から低下し、要介護4~5では5割を下回っていた(図2)。

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■おわりに

A市のデータ分析から、
1) 65歳以上の認知症出現率は10.2%で、その割合は女性の方が高かった
2) 認知症の出現率は、男女とも80歳から急上昇していた
3) 認知症群は、要介護3以上が約6割を占めていた
4) 非認知症群では9割以上が在宅で生活しているのに対し、認知症群では26.2%が介護保険施設に、7.1%がGHや特定施設に入っていた
5) 非認知症群では、要介護4でも8割以上が在宅で生活しているのに対し、認知症群では、要介護4~5の在宅療養率は5割を下回っていた
などがわかった。

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2010~2025年間で、75~84歳以上人口は39.1%、85歳以上人口は92.5%増加すると見込まれている。認知症の出現率は、年齢が高いほど高くなっているため、出現率の高い85歳以上人口が急増することにより、認知症者が今後急増すると考えられる。また、現時点でも、全認定者の半数以上が認知症という事実と突き合わせると、認知症施策の充実は急務の課題であることが分かる。

また、今回の分析から、認知症群は、要介護3以上が過半数を占め、かつ、要介護4以上では特養や老健がその受け皿となっていることがわかった。

今後、後期高齢者が急増するなか、介護保険施設の整備量はその伸びを下回ると予想される。増加する重度要介護の認知症高齢者をどの様なサービスで処遇していくのか、できるのかを検証しながら、介護保険事業計画が適切に策定される必要がある。

次回は、認知症ケアに関する課題について整理したい。

川越 雅弘
国立社会保障人口問題研究所


編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年9月16日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。