ソニーには経営戦略というものがあるのか --- 岡本 裕明

アゴラ

イソップの「おおかみ少年」がふと頭をよぎったのは私だけではないでしょう。ソニーが今期純損失2300億円、無配転落の見込みであることを発表しました。原因はモバイル部門の不振。昨年は業績下方修正が三回ありました。今期もそれが続いています。これが何を意味するか、もともとの読みが甘かったということでしょうか? 今回の下方修正も今期第一弾でこれに続く修正が更にあるのでしょうか?

平井社長が就任した際、モバイルは今後の経営の柱の一つになると仰っていました。それからするとずいぶんな話であります。2012年4月に平井氏が社長就任の際に述べたのは「重点課題として、エレクトロニクスビジネスを支えるデジタルイメージング、ゲーム、そしてスマートモバイルの各領域の強化、テレビビジネスの立て直し、そしてイノベーションの加速と新規事業の創出を掲げる」としています。


確かにモバイルは頑張ってはいましたが、私は当初から疑問符をつけていました。それは当時、すでにサムスンが独走、アップルが自分の世界を確立していく中で低価格市場では中国製の安いスマホが市場を席巻し始めておりソニーのスマホがどういう体制でこの市場を制覇できるのかシナリオが見えなかったのです。

スマホのような爆発的普及が見込める市場は二極化しやすく、初めは中国製のような安いスマホ、そして、そこから一部のマーケットセグメントが上のクラスに乗り換えるというのが一般的な流れではないでしょうか?(過去の市場ではなく現在の世界的な市場の話です。)

そのスマホの価格構成からはサムスンやアップルのハイエンドはローエンドユーザーがもっと上位機種が欲しいと思えば一気に手が届く範囲であり、ステップアップの中間的位置づけの商品の必要性は薄いのではないかと思います(これは自動車のような価格帯が広いものと比べてスマホは絶対価格がある程度のレンジに収まっているという意味で中間価格帯の選択のチャンスはよりスリムであるという意味です)。ではハイエンドを狙えばよいとしてもスマホとしてのブランド価値や販売力はソニーは海外ではサムスン、アップルにどうしても劣りますから似たような商品を並べても勝てないということになります。

ところでスマホが長期的にどういう位置づけになるのか考えた時、「ある目的を達成するための必需的な汎用品」ではないかと考えています。その目的は何でしょうか?

例えばソフトバンクは買収したスプリントを利用し、iPhone6を利用した「日米かけ放題」を発表していますが、これは通話機能としての充実性です。ゲームのアプリはエンタテイメント性を高めています。GPS機能は様々なシーンで有意義に使われてきています。更にはデータ管理、写真や音楽、テキストのやり取りなどでしょうか? 今後は人間の記憶保持の補助機能、疾病のカルテ機能、クレジットカード機能などがごく普通に加えられるであろう中でスマホの機能はハードからソフトへ転換が進んでいると考えられないでしょうか?

そう考えるとスマホに訴えるのはハード性能よりも人々にとって必要としている機能が使いやすく、差別化できるか、更には欲しくなる商品か、ということではないでしょうか? その点、スマホではないのですがパナソニックの商品群の売れ行きが好調な点と比べて何が違うのかと考えた時、感覚的で申し訳ないのですが、パナさんは女性目線に対してソニーは男目線。これが大きな違いのような気がします。

では9期赤字だったテレビはどうでしょうか? テレビも確かに画面の綺麗さをうたってどこも必死にその性能をアピールしていますが、マーケットはシャローになっていくはずです。なぜならテレビという黒い物体よりそこに映し出される番組なり画像なりがユーザーにとって有意義なものであるかどうかが判断材料になるからです。ギャラの安いお笑い芸人の番組やニュース番組を見るのに迫力満点の大画面でなくてはいけない理由はないでしょう。つまり、成熟マーケットはハードからソフト重視の時代になり、消費者はそれに合わせたハードを選ぶことになるのではないでしょうか?

ではソニー。音楽、映画、金融、ゲーム、不動産…。いろいろ持っています。素晴らしい資産をお持ちなのにその相乗効果がうまく表現できていない気がします。もったいないの一言に尽きます。

それはソニーがソニーにこだわりすぎているのかもしれません。私は持ち株会社への移行も考えうる手段だと思います。ソニーの屋台骨がエレキだという自負を一旦横に置き、ソニーという素晴らしいアセットを持つ親とその子供たちという発想に変えてみたらどうでしょうか? もちろん、エレキは長男として頑張ってもらわねばならないのですが、ほかの兄弟姉妹たちとの切磋琢磨という関係にした方が責任所在がはっきりする気がします。

どうにかこの難局、打開してもらいたいものです。応援しています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年9月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。