東日本大震災の教訓を「減災」に活かす【アゴラ・シンポ関連】

2014年09月26日 00:12

photo池田浩敬
常葉大学社会環境学部長

【GEPR編集部より】9月27日に静岡で開催するアゴラシンポジウム「災害のリスク–東日本大震災から何を学ぶか」のポジショニングペーパーを、出席者の池田浩敬様から寄稿いただきました。

【本文】

1.広域での“最大”と局所的な“最大”とは違う

2012年8月(第一次報告)及び2013年8月(第二次報告)に公表された国の南海トラフ巨大地震の被害想定や、それを受けて行われた各県での被害想定においては、東日本大震災の経験を踏まえ、広域対応を含めた巨大地震に対する対策を検討するために、「発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な被害をもたらす、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波を想定する」という考え方に基づき、「最大クラス」の被害をもたらす巨大地震の被害想定がなされている。


例えば、静岡県では、想定対象とする地震・津波を「レベル1:発生頻度が比較的高く(駿河・南海トラフでは約100~150年に1 回)、発生すれば大きな被害をもたらす地震・津波」と「レベル2:発生頻度は極めて低いが、発生すれば甚大な被害をもたらす、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」の2種類に分類して想定を実施している。

「今回想定した被害は最大クラスを想定している」と言われると、その情報を受け取った側の住民は「もうこれ以上の被害は考える必要が無い」と受け取るのが普通であると考えられる。それは、国が言うような「東海地方の被害」あるいは「近畿地方の被害」といった広域のエリアでの被害の総量や“静岡県”といった都道府県単位での広がりを持った地域での被害の総量では、「最大値」と考えてほぼ間違いない、と思われる。しかし、局所的に見た場合には話は異なってくる。

例えば、静岡県の第4次地震被害想定では、レベル2の被害想定結果においても、東部地域では、一部で地震動の大きさ(震度)や津波高が、東海地震を想定した前回の第3次地震被害想定結果より小さくなる場所が出現している。

これは、ある広域エリアで見たときの地震動や津波高を全体として最大化するようなモデルの条件を考えたときに、それは必ずしも個々の局所的な地点での地震動や津波高を最大化する条件とは一致しない、ということである。ある程度、広域なエリアでの“最大クラス”と局所的な地点地点で考えうる“最大クラス”とは別物である。

しかし、例えば「津波避難計画」などは、被害想定結果としての浸水域を参考に計画が検討される。“最大クラス”を想定した新しい想定こそが“最大値”であり、それ以上の被害は考える必要は無い、という考え方は、こうした局所的な防災計画を考える上では危険であり、個々の場所で科学的根拠を持って想定しうる“それぞれの地点ごとの最大クラス”を考慮して検討することが必要である。

2.リスクの頻度に応じた適切な防災・減災の目標レベルの設定が重要

2012年3月、内閣府が南海トラフの巨大地震による震度分布・津波高について、初めて第一次報告を公表した。これは「想定外」を無くすため、低頻度であっても最大クラスの想定となっていた訳であるが、この結果をどう解釈しどう対応すべきかについて、出す側の説明も、受け取る側の理解も十分とは言えなかった。例えば、20~30mという津波高が想定されている地域では、「対策のしようが無い」といった諦めの声も聞こえてきた。

しかし、もし、本当に諦めてしまえば、より高い頻度で発生するそれ以下の津波を防ぐことも困難となる。対策はその頻度・発生確率に応じた適切な目標レベルの設定が必要である。つまり、例えば数十年に1度といった頻度の高い津波に対しては、防潮堤等の整備により人と建物の両方を守ることを目標にするが、千年に1度といった極めて稀な津波に対しては、同じレベルはコスト等の問題から困難であり、避難対策等により人の命を守ることを目標とする、といったものである。目標レベルの設定は実現可能でかつ社会的合意に基づくものでなければならない。

一方で「目標レベルまでの到達時間をどう設定するか」についても適切な設定と合意が必要である。地震がいつ発生するか予測困難な現状では、対策は一刻も早く実施されるべきではあるが、短期間で出来る対策は限られる。特に、既成市街地における土地利用の再編は一朝一夕には出来ない。現行の防災集団移転促進事業は2ヵ年以内に行なう事業であるが、実際には建てたばかりの家も存在するような地区において、それを即座に取り壊して別の場所へ移転することを合意するのは大きな困難を伴う。住宅の建て替えのサイクルを考慮し、数十年かけて徐々に高台へ移転することを支援するような手法の検討も必要ではないか。

3.部署横断的・総合的な議論のできる仕組みの構築が必要

東北の被災地での復興まちづくりを見ると、防潮堤の整備、住宅の集団移転、土地利用の改編、道路整備などについては、それぞれ担当部署が異なり、ばらばらに住民への説明を行い、個別項目ごとの計画に対し住民の判断が求められているケースも少なくない。しかし、実際にはそれらは密接に関連し、総合的な判断が必要となる。行政は住民に対し、まちづくりの全体像や項目間の関連について十分説明したうえで、総合的な視点からの判断が出来るよう努める必要がある。

同様に、まちづくりを進めるに当たって例えば“防災だけを取り上げた議論”というのは、無理があり有効ではない。建築で言うならば、一つ一つの建築物は必ず機能・役割を担っている。店舗ならば物を売る、学校ならば教育を行う。そうした役割や機能を果たせることは必須の条件で、その上で“安全”であることが求められる。店舗としての機能が全く果たせない“安全な店舗”が出来ても何の意味もない。

このように一つの要素だけを取り出した議論はバランスを欠き有効な結論が得られない。これはまちづくりにおいても同じである。まちづくりで大切なのは、部局間の連携により、住民ニーズに対応した多様な選択肢・アイデアを用意することである。そのためには、行政は縦割りの弊害を除去し、部署横断的な議論が出来る体制を整えることが必要不可欠である。

残念ながら、東北の被災地ではそれが十分とは言い切れない。それは被害があまりにも大きく行政の人的資源などが足りない、という側面も否定できない。しかし、まだ災害が発生していない非被災地においては、行政が住民の声に耳を傾け、部局横断的に取り組む体制を確立して行ってもらいたい。

池田浩敬(いけだ・ひろたか)常葉大学教授社会環境学部長。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。三菱総合研究所主任研究員などを経て現職。博士(都市科学)。専門分野は、都市防災、都市計画、災害復興計画論。現在は研究に加え、岩手県大船渡市三陸町綾里地区の復興、静岡県沼津市での地震・津波の避難計画の検討を支援している。

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