朝日の“第2の伊藤律"会見記事 --- 長谷川 良

2014年10月03日 16:49

北朝鮮ウオッチャー、五味洋治氏はその著書「父・金正日と私 金正男独占告白」(文藝春秋社)の中で金正男氏とのメール交換を掲載しているが、正男氏は2011年6月3日のメールの中で「父上と共に正恩が訪中したという誤報まで出ていました」(205頁)と書いている。これは朝日新聞が2009年6月16日と18日の2回、1面で北最高指導者・金正日労働党総書記の後継者に決定したといわれていた3男・正雲氏(現正恩第1書記)が中国を極秘訪問し、胡錦濤中国国家主席(当時)と会談したと報じ、詳細な会見内容を掲載したことを指す。正男氏はそれを「誤報」と指摘しているのだ。


朝日新聞の記事が掲載された直後、中国外務省側は「国家主席は金正恩氏と会見していない」と表明し、朝日の記事を全面否定している。すなわち、正恩氏の訪中記事と胡錦濤国家主席会見報道は朝日の北京特派員(当時)の全くの作り話だったというのだ。

当方は当時、知人の北朝鮮外交官に朝日の記事への感想を聞いた。知人は笑いながら、「クレージーだ」という。「どうしてそう思うのか」とその根拠を尋ねたら、「報道内容はわれわれの通常の思考では受け入れ難いからだ」と答えた。

会見記事の情報源は「金総書記に近い北の要人」と「中国駐在の北関係者」と書いてあった。知人は「彼らは多分、朝日から金をもらったのだろう。金を貰った北関係者が作り話を提供したのではないか」と笑いながら説明したものだ。

それらの批判に対し、朝日新聞はこれまで何も答えていない。無視だ。金正恩氏が実際、09年6月、極秘に訪中し、胡錦濤国家主席と会見していたことが事実ならば、朝日のスクープ報道だが、会見記事が全くの作り話となれば、記事を書いた北京特派員の責任問題だけではなく、朝日新聞社も読者の前に謝罪表明をしなければならない。そのうえで、作り話の会見記事を報道した背景について、各分野の専門家から構成された委員会を設置し、じっくりと検証していただきたい。もちろん、検証内容は紙面上で逐次報告すべきだ。

当方はこのコラム欄で数回、朝日新聞に説明を要求してきた(「金正恩氏の訪中に期待すること」2013年8月22日参考)。朝日新聞は慰安婦問題と東電の福島第1原発事故報道で大きな誤報があったことを認め、社長自ら謝罪したばかりだ。この際、金正恩訪中記事も「作り話であった」と正直に表明していただきたい。

朝日新聞は1950年9月27日の夕刊で日本共産党の伊藤律と会見したと報道したが、3日後、朝日新聞記者の作り話であったことが判明し、朝日は謝罪を強いられた(縮小版ではその会見記事の箇所は白紙という)。金正恩氏の訪中と中国国家主席会見記事は“第2の架空会見記事”と揶揄され、縮小版では同じように白紙となってしまうだろう。

慰安婦問題や東電の福島第1原発事故報道のように日本を世界に貶めた大犯罪ではないが、読者に間違った情報を提供した落ち度は大きい。「北京特派員の情報源が問題で、朝日新聞は被害者に過ぎないから、謝罪する必要はない」という声もあるが、誤報は誤報だ。少なくと読者に「報道しました記事は誤報でした」と表明し、謝罪すべきだろう。

正男氏は日韓メディアの北関連記事には「小説が多い」と述べている。作り話で事実ではないという意味だ。正男氏の論理で行くと、朝日の北京特派員の「正恩氏訪中記事」は国際面ではなく、文化欄で掲載すべきだったのかもしれない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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