“国民の叫び"は常に正しいか --- 長谷川 良

アゴラ

ローマ・カトリック教会のローマ法王フランシスコは10月5日、バチカンのサンピエトロ大聖堂で特別世界シノドスを開幕した。19日まで2週間開かれるシノドスには世界から191人の司教会議議長のほか、専門家62人が参加し、「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」という標語のもと、離婚、再婚、堕胎、純潔、同性婚などの家庭問題について意見を交わす。家庭問題をテーマとしたシノドス開催は今回が初めて。


フランシスコ法王は「家庭問題こそ今、考えなければならない課題だ。家庭は神の愛の計画が展開される基本的な土台だ」として、家庭が直面している諸問題を忌憚なく話し合うように参加者に求めている。

世界の司教会議は昨年、フランシスコ法王の要請を受け、「家庭と教会の性モラル」(避妊、同性婚、離婚などの諸問題)に関して信者たちにアンケート調査を実施してきた。それを基に今回のシノドスの協議の叩き台となる作業案が作成された。

シノドスでは、信者たちの現実の生活と教会の教えの乖離を克服するためにどのように対応するべきかが焦点となる。例えば、離婚・再婚者への聖体拝領問題では、婚姻の絶対性と離婚を容認しない教会の教えと、信者たちの現実を配慮し、離婚・再婚者にも聖体拝領を認めるべきだといった意見で聖職者の意見が分かれているのが現実だ。

フランシスコ法王はシノドス開幕前日(4日)、サンピエトロ広場に集まった参加者と共に、シノドスの成功のため祈りを捧げ、「世界の司教たちは神と共に、国民(信者たち)の叫びに耳を傾けなければならない」と強調、信者たちの喜び、希望、悲しみ、恐れを共有しなければならないと諭している。

興味深い点は、フランシスコ法王は5日、シノドス開幕記念ミサの中で「教会の教えが唯一ではない。聖霊が真の自由と謙虚な想像力の下で教会の教えを超克できる知恵を与えてくれる」と述べていることだ。この発言を聞く限り、南米出身のローマ法王は離婚・再婚者への聖体拝領を容認すべきだという方向に傾いていることが分かる。離婚・再婚者への聖体拝領に対しては、バチカン教理省のゲルハルト・ミュラー長官ら保守派聖職者は強く反対しているだけに、シノドスの議論の行方が注視される。

教会の固陋な教えに多くの信者たちが過去、躓き、教会から去って行ったことは事実だが、“国民の叫び”が常に正しい、というわけではない。羊飼いの教会が信者を導くことができず、間違った国民の叫びを正すことができなければ、羊の群れ(信者たち)は路頭に迷ってしまうだけだ。

ちなみに、フランシスコ法王は今年のノーベル平和賞最有力候補者といわれている。保守派聖職者は「法王が受賞すれば、法王主導の改革をもはやストップできなくなるだろう」と密かに懸念している。

なお、バチカンは来年10月、通常シノドスを開催し、今回の特別シノドスでの協議をまとめ、家庭問題に対する教会側の最終的対応を決定する予定だ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年10月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。