週明けから日米の株式市場が下げ続けているワケ --- 岡本 裕明

アゴラ

それにしてもよくここまで下げるな、と思わせる突っ込み具合だったのが月曜日のNY市場と火曜日の東京市場。ニューヨークは3日で673ドル下げ、東京は5日で953円の下落となっています。「秋の乱」のアノマリーは、今回も当たったのかもしれません。

原因は直接的にはアメリカのエボラ熱感染者が死亡したこととその看護師も陽性反応だったことを受け、感染リスクが急速にフォーカスされ、航空会社などの株価が急落したことも挙げられます。まさにSARSを思い出させる状況となっています。ちなみにSARSは2002年11月に中国広東省で始まり、2003年7月に制圧宣言が出るまでに約8000人が感染し、775人が死亡しています。


今回のエボラ感染はWHO発表の10月14日までの統計で感染者8914人、死者4447人となっていますが、国別感染の表を見る限り、西アフリカの一部の国に偏っており、実際にはもっと感染が拡散している可能性があるように思えます。米疾病対策センターは1月までに感染者は140万人に達するとみているようでWHOの発表とは相当の乖離がありますし、SARSとは比較にならないレベルだということが数字からも読み取れると思います。

また、感染者数が爆発的加速度で増えていることで対応が後手になりかねず、グローバル化のマインドがシュリンクしやすくなっているとも言えます。ちなみに私は中国がアフリカ諸国に相当投資資金と中国人を投入していることから仮に中国人に感染の疑いの報道でもあれば一気にアジアにエボラ感染の影響が広まりかねず、大いに懸念する事態であると言えます。

もう一つはイラク、シリアのイスラム国の動きが拡大していることが挙げられます。ISISがバクダッド空港に迫るとか、パキスタンの反政府武装組織がISISに同調するとか、シリアのトルコ国境までISISが侵攻しているといった一連のニュースに対してアメリカを始め、EU、トルコなどの反応の動きが極めて鈍いのであります。

オバマ大統領も中間選挙が3週間後に迫り、政策的に思い切った策が打てない弱みもあるのかもしれません。が、それにしてもアメリカの政策的動向はこのところ鈍さを増す一方にあります。

私が個人的に思うもう一つのファンダメンタルな理由はアメリカで噂される利上げに対する方向感の欠如ではないかと思います。市場のうわさがこれほど長くかつ、ぶれるのは利上げに向かう確固たる状況にないともいえるのではないでしょうか?

特に原油価格が下がり続けていることにも注目すべきです。本日のNYでは一時81ドル半ばと前日比5%も急落し、下落傾向に拍車がかかっていますが、アメリカの商品相場専門家は世界の原油需要に対して供給が多すぎる状態になっているとコメントしています。この状況になった可能性は二つ。一つは想定を下回る原油需要で国際エネルギー協会は世界の原油需要が当初見込みの一日90万バレルから65万バレルまで下がっているとしています。もう一つはサウジとアメリカが供給を減らすつもりがないことではないかと思います。個人的には後者、つまり、アメリカ、サウジなどが意図的に供給量を増大させ、原油価格を引き下げ、ロシア苛めを継続しているようにみえるのです。

アメリカが原油価格を恣意をもって下げるなら確かにロシアは苦しくなりますが、アメリカのインフレ率はさらに下がることになり、利上げは遠のくことになります。また、安い原油は少なくとも中国と日本にはプラスに働くと思われ、円は高くなるバイアスがかかってきます。

日本の株式市場が崩れ始めたのはFRBの議事録が公開され、行き過ぎたドル高はアメリカ経済にプラスに働かないという文書が明白になってからであり、ドル円相場もそれに呼応するように3円程度円高に振れたわけです。また、北米では円は今回もセーフヘイブン通貨としての買いと解説されていますから世界動向によっては円高には振れやすいかもしれません。

更にチャート的に見ても98年、02年、07年の円安ピークを結んだ直線が今回の110円と繋がるため、現在の106円台までの円高は既にピークから円安の修正局面入り(=円高)に向かう公算がみてとれます。

私の見方が正しく、アメリカの利上げのタイミングが遠のくことになれば円は上がるでしょうから株式市場にとっては不利になります。一方、金(ゴールド)は低金利が継続する可能性と世界の不和を反映し1200ドル割れから反発継続となり1235ドル程度となっています。こちらももう少し上昇する可能性を秘めているのではないでしょうか?

今日のNY市場は売り疲れからか小反発したものの引けにかけて売り直されてしまいました。東京はテクニカルにはそろそろ反発するはずですがあっても一時的なものかどうかの判断は今後続々と出てくるであろう企業決算の結果や世界の不和不信がその方向付けをするものと思われます。

どちらにしても大変読みにくい市況であることは確かであります。世の中の動きは本当に複雑だと改めて感じさせる今日この頃です。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。