「世論」の実像はいかがわしい-川内原発と反原発「市民」

2014年10月28日 01:00

反原発団体が、再稼働の迫る九州電力の川内原発の立地する鹿児島県内で活動し、「世論」と称する現象を作ろうとしている。地元の薩摩川内市の会社員、団体職員、メディア関係者に話を聞く機会があったので、状況を紹介したい。

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(反原発団体のポスター)


川内原発が7月、原子力規制委員会の新規制基準に適合する方向が示された。まもなく適合の正式決定が出る。ところがその認定が終わった後の再稼働の道筋がはっきりしない。法律上決められていない「地元同意」が、なぜか再稼働の条件になっており、それがどうやって認定されるか、誰も分からない奇妙な状況になっている。日本に「法の支配」はあるのだろうか。

この認定は「世論」が左右するだろう。世論とは、広辞苑によれば「一般の人が唱える論。社会大衆に共通な意見」という解説だが、意味は曖昧だ。川内原発をめぐる「世論」は、意図を持った人たちが形成しようとし、またゆがんだ形で発信されている。このおかしな状況を変えて、冷静な議論を始めなければならない。

「世論」は反対なのに、現地は賛成

毎日新聞が7月に全国の原発の立地自治体に原子力政策をめぐるアンケートを行った。鹿児島県の川内原発の周辺自治体では、9市町村のうち3市町村が再稼働に賛成、残りは無回答だった。(記事)朝日新聞の7月の世論調査では、全国で川内原発の再稼働の反対が「59%」になった。(記事

これらを見れば原子力をめぐる厳しい意見が多く、また賛否を自治体が示すことは政治的に難しい問題であることがうかがえる。しかし、稼働に「賛成」「反対」という単純な質問をされれば、「反対」という意見に傾くことは当然だ。世論調査の質問の仕方がおかしい点がある。

一方で川内原発の地元の薩摩川内市では、12年10月の市長選(投票率70.3%)で、再稼働容認を打ち出した岩切秀雄氏が、脱原発を打ち出す対立候補を4万4818票対9978票の大差で破って当選した。これも地元の世論だろう。

同市資料によれば、薩摩川内市では2010年度に原発の電源立地地域対策交付金で、約13億円の事業を行った。同市の同年度予算517億円から比べると一部だが、市民生活をある程度、原発関連の補助金がうるおしている。また原発は、13ヵ月に一度の定期検査とそのときに行う工事で、原発1基当たり1ヶ月で約1000人の作業員が訪れ、周辺地域に数億円の経済効果があるとされる。原発が長期停止すると、それがなくなり地元が経済的な打撃を受ける。同市の旅館、飲食店、建設関係者などは「早く再稼働してほしい」という意見で一致しているそうだ。

原発によって立地自治体にもたらされる金銭上の利益を多くの人が批判する。「金で民意を動かす」という批判は、その通りの点がある。しかし、そうした断罪は合っていても、他人の生活を考えない軽薄な空理空論の側面があるように、筆者は思う。原子力発電の利益を配分する仕組みが作られ、経済体制がそれで回り、人々の生活の一部を支えている。もちろん、その現実を全面的に肯定するわけではないが、全否定もできないだろう。それを無視していきなり現在の原発の長期停止を行う政策は、混乱と損害だけを生んでいる。

怪しげな団体がつくる世論

7月に原子力規制委が、審査の内定を出してから1カ月に数回、鹿児島市内で大規模な反原発集会が、開かれているという。最初の再稼働の認定になったので、同原発は反原発派から、目の敵にされているらしい。しかし全国メディアの支局記者に聞くと、「県外から政治団体が集結しているだけのよう。原発反対を名目に『反安部政権』を叫んでいる」いう。反原発団体は、「集会の規模は数千人」と県庁の記者クラブに告知するが、実際は100人前後のことが多いそうだ。

6月の鹿児島市内での集会を産経新聞は伝えている(「反原発運動で過激派暴走 距離置く住民」)「ストップ再稼働!3・11鹿児島集会実行委」が主催とする集団には、のぼりを見ると「アジア共同行動・日本連絡会議」「鹿児島大学共通教育学生自治会」「革共同革マル派九州地方委員会」など、極左団体が参加した。

そして「〈反ファシズム統一戦線〉を構築し安倍ネオ・ファシスト政権打倒に向けて前進せよ」「反戦反安保・改憲阻止の闘いを日本の原発・核開発に反対する闘いと同時的に推進し、ファシズムに対抗する労働者・学生・市民の大きな団結を創造しよう」などという文言のアジビラが配られていたという。

薩摩川内市の会社員によると、「鹿児島から出張する反原発派の街宣車が夏にうるさかった。ところが地元が原発の再稼働を支持している人が多いためか、隣の串木野市に行った」という。6月に串木野市民3万人の半数になる1万5000人分の署名を反原発団体有志と称する人々が提出した。前述の産経記事では、署名するまで高齢者宅に居残る、保育園児を含めた署名を母親にさせるなど、名簿集めでの異常な行動が報告されている。

こうした運動は、ほとんどメディアで報道されない。もちろん、地元住民の中で反対する人はいるだろうし、それは尊重したい。しかし、どうもそればかりではない。現地の反対意見は、県外の政治団体がつくっているものがかなりある。そして反原発に同情的な記者の多いメディアは、知ってか知らずか不明だが、正確な情報を伝えていないようだ。

現地を知らない東京の反対論

川内原発をめぐる今の反原発派の攻め手は「火山」だ。10月の長野県の御嶽山の噴火にからめて、川内原発でも危険を主張する。鹿児島県以外の人から見ると、同県は活火山の桜島のイメージが強く、それに引きずられているらしい。反原発派のパンフレットは最近、「火山があるから川内原発は危険」という批判で一色になっている。民主党の辻元清美議員は9月の原子力問題調査特別委員会で、素人であるにもかかわらず、原子力規制委員会に「火山の規制基準がおかしい」と迫っていた。

しかし薩摩川内市の住人はこの東京発の騒動を笑った。「川内原発が桜島の噴火に巻き込まれたら、九州が消滅するときだ」。地図を見れば一目瞭然だが、桜島から川内原発まで約50キロで山地が間にある。そこまでの火砕流がある大規模爆発はおそらく、桜島周辺が消滅してしまうほどの破局的な災害だ。

3万年ほど前に姶良(あいら)カルデラと呼ばれる鹿児島湾北部をつくった火山の大爆発があったとされる。しかし、そうした数万年に1度のリスクを強調するなら、被害を避けるために南九州全域の無人化を考えなければならない。原発のみ騒ぐのはリスク感覚がおかしい。再稼働の反対理由を無理に作っているのだろう。

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図表・鹿児島県東部の地図(グーグルマップより)

世論尊重より、「ルール作り」を

こうした、つくられた「民意」や「世論」に右往左往させられる九州電力、そして地元自治体の負担は大変なものだ。世論が正しく、その形成が冷静な対話の結果示されたものならまだいい。しかし、今示されている「世論」とは、感情的であり、県外の政治活動家が騒擾や反政府運動のために、作り出そうとしている。

感情的な一人一人の身勝手な専断から人々を解放することが、文明社会でつくられてきた「法の支配」の考えではなかったか。そもそも原発を稼働させるためのルールは関係法で定まっている。その中に、「地元同意」などは定められていない。誰が決めたわけではなく、「空気」が原発の再稼働を止めているのだ。ここで言う空気とは、日本特有の状況を動かしてしまうその場の集合意思と同調圧力である。

福島第一原発事故の結果、原発への不信感が広がった。そして日本での原発の運用と政策には多くの問題があることも浮き彫りになった。民意は尊重されるべきだし、問題は是正されなければならない。しかし、そうだとしても原発の運用を「世論」だけで決めてはいけないはずだ。そもそも国民の多数は原発の即時廃止を支持していない。それを表明する政党は国政選挙で勝っていない。また行政上、法律上、一度も原発の廃止を正式に決定していない。

原発の停止で、日本は年間3兆6000億円の燃料費の追加負担をしている。川内原発のように、ゆがんだ世論を聞いていたら、再稼働はいつまでもできなくなるだろう。それは日本経済を弱らせ、国民生活に電力料金上昇の形で負担を加える。

この混乱を、これから再稼働が議論になる残り47基の日本中の原発で繰り返すのであろうか。実態のない「世論」を恐れるのではなく、ルール作り、その実行という当たり前の行政活動を政府が行うべきだ。

そして、私たち一般市民にもこの状況を作り出した責任がある。過激派やメディアのつくるおかしな世論に疑問を示し、はねつけるべきだ。そして感情に流れがちな原発をめぐる議論を、事実に基づく冷静な合意を積み重ねるものに変える必要がある。

石井孝明
経済ジャーナリスト
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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