他のなに者でもないデ・キリコの美術展

アゴラ編集部

ジョルジョ・デ・キリコ、といえば、独特の空間表現と異形の登場キャラが際立つ芸術家です。生まれたのが1888年のギリシャ。イタリア人だったんだが、父親の仕事の関係で異国で生まれ育った。その後はドイツやフランスなど、欧州あちこちに拠点を移しつつ、シュールレアリスムへつながる領域を一人で切り拓いていきます。

どこか目眩のするような遠近法や非現実の空気感の中に、古代ギリシャのミューズが出てきたり、顔のないマネキンが立っていたり、手塚マンガが真似をした人間顔の馬がいなないていたりします。デ・キリコが開拓したのは「形而上絵画」というジャンルとされ、この領域にはほとんど彼一人しかいない、独創的なカテゴリーとなっている。

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JR新橋駅の汐留口を出るともう「デ・キリコ」の世界。


同時代に活躍した画家は、エドヴァルド・ムンク、グスタフ・クリムトなど、世紀末から象徴派、表現主義から、パブロ・ピカソを筆頭にサルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、アンリ・マティス、ジョルジュ・ルオーなどのフォービズムやキュービズム、シュールレアリスム、ダダイズムの画家といったように多士済々の面子がそろっているんだが、デ・キリコはそのどれでもないデ・キリコ、としか言いようのない画家です。

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どこかマンガっぽい画風のせいか、日本ではダリと並んでデ・キリコの人気が高いようなんだが、東京では約10年ぶりといわれるデ・キリコの回顧展が開かれています。作品の8割ほどが日本初公開だそうで、若くして高い評価を得た「形而上絵画」から古典主義への回帰、人顔の馬の絵で有名なネオバロックの画風を経て新たな「形而上絵画」、そして1978年に亡くなる直前まで描き続けた最晩年の作品まで約100点を展示。デ・キリコを俯瞰する見応えのある展覧会になっています。

当方、デ・キリコはあまり真剣に見たことはなかったんだが、今回、特別内覧会でじっくりと眺めさせてもらいました。やっぱりデ・キリコが描くギリシャ風円柱はおでんのちくわぶに似てるし、人顔の馬はもちろん逆に顔が描かれていないマネキンはちょっと不気味だし、クリアに澄んだ空気感は水蒸気豊かな日本にはないものだし、と興味深い作品ばかりでした。

内覧会では、会場であるパナソニック汐留ミュージアムの萩原敦子学芸員が、懇切丁寧に各作品を解説していただきました。デ・キリコは絵画と同じ題材で彫刻など立体作品も制作し、今回の展示の中に「不安を与えるミューズたち」を立体にしたブロンズ彫刻もあります。荻原学芸員から紹介されて気づいたんだが、この照明がパナソニック製の新製品である「Space Player」を利用したユニークなもの。これはかなり画期的な展示方法じゃないでしょうか。驚きますよ。

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ジョルジョ・デ・キリコ – 変遷と回帰
会期は、2014年12月26日(金)まで。開館時間は10:00~18:00(入館は17:30まで)。入館料:一般 1,000円、65歳以上 900円、大学生 700円、中学生・高校生 500円、小学生以下 無料(※20名以上の団体は100円割引、障害者手帳提示および付添者1名まで入館無料)。会場はパナソニック汐留ミュージアム(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階)。
主催:パナソニック汐留ミュージアム、朝日新聞社、テレビ朝日 後援:在日イタリア大使館、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、港区教育委員会、公益財団法人日仏会館、日仏会館フランス事務所

※写真は、主催者の特別の許可を得て撮影したものです。

金の夜に銀の月
汐留ミュージアムへ、キリコ展を観に行ってきました


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Image credit: Nikolay Usik / CC BY-SA 3.0.

Physicists propose identification of a gravitational arrow of time
PHYS.ORG
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Student with schizophrenia must have son adopted
the guardian
英国で、重度の統合失調症の既往歴のある女性に対し、彼女の息子を養子に出すよう家庭裁判所で裁定が出た、という記事です。息子は1歳で、彼女は育児ができない、と判断されたらしい。これはなかなか難しい問題です。

American Eagle Stopped Airbrushing Lingerie Models And Sales Are Soaring
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アゴラ編集部:石田 雅彦