専業主婦に関する5つの誤解

本山 勝寛

専業主婦に関する国会やネット上での極論対決が飛び交ったり、政府税調による配偶者控除見直し5案が提示されたりと、専業主婦世帯をめぐる議論が活発なので、ここで少し専業主婦に関する一般的誤解を整理してみたい。


1. 専業主婦世帯は金持ちである

これは以前にも「専業主婦は金持ちの高年齢層というレッテル」という記事で書いたが、最も一般的な誤解であり、レッテルだ。専業主婦世帯の年収別割合を以下に再掲するが、独身世帯や高齢者世帯も含む全体の世帯平均よりはやや高く分布しているが、決して皆が高所得層とはいえず、低中所得層がかなり多い。

800万円以上 21.9%
600~800万円 25.2%
500~600万円 14.0%
400~500万円 16.6%
300~400万円 14.3%
300万円未満 8.1%

ちなみに、専業主婦世帯の平均世帯年収は617.8万円で、妻が正社員の共働き世帯の平均世帯年収が797.7万円なのに対して180万円の開きがある。専業主婦世帯が金持ちというのは誤解であり、どちらかというと夫婦ともに正社員の共働き世帯が経済的には最も余裕がある状況だといえる。

2. 専業主婦は働いていない

専業主婦業という仕事は、貨幣経済では給与や費用が発生しないためGDPには何のプラスにもならない。したがって、政治家や経済学者、そして給料ゲームという世界観に洗脳された世の男たちは、専業主婦業あるいは家庭内での家事育児介護業が仕事をしているわけではないという大きな勘違いをしている。しかし、「育休の価値換算は1200万円以上?」という記事で書いたように、たとえば0歳児保育には都内公立保育園で月50万円の税金がかけられているように、子どもをしっかりと育てるということは実際にはコストがかかる業務であり、それだけの価値が生み出されている仕事なのである。GDP至上主義でしか物事を見れないと、どうしてもその点を見落としてしまいがちになってしまう。

3. 専業主婦は保守vsリベラル

これも専業主婦論争でよく陥りがちな誤解だ。専業主婦を肯定するのが伝統的家族観を重要視する保守、専業主婦を否定、あるいはあまり推進したがらないのがリベラルという単純な構図で論争が展開されやすい。しかし、こういった単純な二元論によって、イデオロギー論争にしてしまうのは大変危険だ。なぜなら、子育てや介護のために専業主婦業を選択している各家庭は、保守やリベラルといった政治的価値観で判断をしているというよりは、子育てや介護による必要性、夫が転勤や出張、残業が多いのでやむなくといった必要性に応じて選択しているからだ。実際に、専業主婦が多いのは末子が乳幼児の世帯であり、末子の年齢が上がるにつれて劇的に少なくなる。政治的スタンスのみで拙速な価値判断をしてしまうと、実際のニーズや現状を見誤り、少子化を加速させることになりかねない。これに関する政策論争はイデオロギーではなく、データで議論が交わされるべきだ。

4. 専業主婦世帯は税制により優遇されている

配偶者控除見直し論で、専業主婦世帯は配偶者控除によって優遇されており、公平ではないとよく言われている。実際には、専業主婦世帯は妻の基礎控除が夫に移転されているだけで、共働き世帯と同じ控除を受けているにすぎない。控除という点で優遇されているのは妻の収入が65万円を超えるパート世帯のみだ。これも税制という点だけで見ており、税金による公的サービスの受益まで考慮すると決して優遇されているとは言い難い。たとえば、育児休業手当が給付されるのは夫婦ともに正社員の共働き世帯であり、今年度から給与の3分の2に増額された育休給付金には雇用保険以外にも税金が補填されている。また、保育園に預ける場合も、多額の税金がかけられており、保育園に預けていない専業主婦世帯はその分の公的サービスを受けていないことになる。私がかねてより、育休を取得できない子育て世帯への在宅育児手当の導入を主張するのはこのためだ。政策は、税制だけてなく、公的サービスや手当・補助金も含む全体像から判断しなければ公平性や効率を論ずることはできない。したがって、税制のみにスポットを当てた専業主婦優遇論も大いなる誤解である。

5. 専業主婦は幸せでない

現在の女性活躍推進政策は、「女性が輝くのは外で雇われて賃金をもらって働くときのみである」という価値観に基づいて進められているようにも見える。しかし、「世界一、男より女が幸せな日本」という記事で紹介したように、内閣府の調査によると、専業主婦が「現在幸せである」と回答したのが43.6%と高いのに対して、正規雇用で働く女性は25.8%と低い結果になっている。これは、単純に女性がこれまでの男のように働けば、光り輝き幸せになるかどうかは分からないことを示唆している。ちなみに、日本の男性の幸福度は軒並み低く、働き過ぎな日本社会の文化を変えない限り、男と女も幸せになれないことが読み取れる。いずれにせよ、女性は働いていれば輝いていて、専業主婦は幸せでないという単純化は全くの誤解である。

ということで、こういったよくある誤解を解いた上で、データとニーズに基づいた政策が議論、実行されることを期待したい。

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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
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「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。